第4話:四天王、ロジハラに震える

「……閣下。今、何とおっしゃいました? 『気合で何とかする』。それが、魔王軍四天王の一人ともあろうお方の、今期事業計画の全容ですか?」


魔王城の最上階、重厚な石造りの戦略会議室。

佐藤の背から伸びた四本の『マルチタスク・テンタクル』が、それぞれ異なる色の魔導レーザーポインターを起動し、壁一面に投影された「四天王別・営業利益推移グラフ」の特定の箇所を、執拗なまでに突き刺していた。


「お、おのれ人間風情が……! 我ら四天王は、魔王様への絶対的な忠誠と、この荒ぶる魔力によって、数多の国を恐怖に陥れてきたのだ! 金勘定など、戦士の誉れを汚す卑俗な行為だ!」


咆哮したのは、現場統括部長を務める猛将ゴルガだ。その威圧感は凄まじく、放出された魔圧だけで会議室の石壁に亀裂が走り、重い机がガタガタと震える。しかし、佐藤は眉一つ動かさない。彼の『全知の魔眼』には、ゴルガの怒気が「無駄なエネルギー放出量:1200ルクス」「血圧上昇による脳卒中リスク:42%」という虚しい数値として表示されているだけだった。


「忠誠心。結構なことです。では、その忠誠心を『数値化(スコアリング)』してください。閣下のその高い忠誠心が、具体的に何人の勇者を無力化し、何ゴールドの経費削減に寄与したのか。エビデンスを出してくださいと言っているんです。できないなら、それはただの『甘え』、あるいは『自身の無策を隠すための精神論』と定義せざるを得ません」


「な、……なああああっ!?」


「閣下だけではありません。技術部長、あなたの開発した『超巨大合体魔導ロボ・ガランド』。変形と合体シーンに平均三分二十秒。その間、勇者一行は『演出』として待ってくれていますが、もし彼らがその隙に弱点の関節部を狙ってきた場合のリスクヘッジは? ロマンは経費に落ちません。この燃料代だけで、下級怪人の給与三ヶ月分が消えているんですよ」


佐藤の『言霊の喉笛』から放たれる冷徹な論理が、会議室の空気を氷点下まで凍りつかせる。これはもはや会議ではない。コンサルによる「処刑」に近い、地獄の1on1ミーティングだった。佐藤はさらに、触手を使って次々と資料をめくっていく。


「人事部長、シニストラ。あなたの配置した『迷宮のトラップ』。脱出率0.01%? 誇らしげに語っていますが、それはマーケティングにおける『顧客満足度の欠如』、最悪のユーザー体験(UX)です。恐怖の余韻を残して帰し、村で『あの魔王城、ヤバいけど面白いぜ』と口コミを広げさせる仕組み(バイラル・マーケティング)が、あなたの無知のせいで完全に死んでいる。あなたの部署は、ただの『在庫(怪人)処分場』ですか?」


「う……あ……」


かつては魔界を震え上がらせた四天王たちが、今や佐藤の突きつける「進捗管理ダッシュボード」の前で、借りてきた猫のように震えていた。


「いいですか、皆さん。魔王様が仰った『世界征服』とは、盤石な収益基盤の上にのみ成り立つ長期継続事業(サステナブル・ビジネス)です。皆さんのような『古い価値観の経営陣』が、現場の怪人たちの努力(リソース)を無駄に食いつぶすことは、私が許しません」


佐藤は触手で一冊の、辞書のように厚みのあるバインダーを各人の前に叩きつけた。


「明日までに、全プロジェクトのKPIを再設定。および、担当エリアの『観光資源化案』を提出してください。もし遅れた場合、あるいは内容が再度『気合』に終始していた場合は、皆さんの役職を即座に解任します。……あ、ご安心ください。再就職先として、入り口の『ポップコーン売り』の枠を確保しておきました。あそこは接客態度が重要ですから、閣下のその大声も少しは役に立つでしょう」


佐藤の『不眠不休の永久機関(ブラック・コア)』が、鈍く、しかし止まることのない拍動を繰り返す。

恐怖政治を、より冷徹な「目標管理制度(MBO)」へ置換する。

佐藤の右目には、震える四天王たちの姿の向こう側に、組織が真に「一つ」へとまとまっていく、収束への波形が見えていた。


「会議は以上です。解散。……あ、技術部長。そのロボ、解体して『観覧車』に改造する設計図、三時間後までに私のデスクへ。物理的な攻撃力よりも、顧客の滞在時間の方が、今の我が軍には価値がありますから」


四天王たちは、勇者との最終決戦に赴く時よりも絶望的な表情で、会議室を後にした。

佐藤は一人、冷めきった冷却液(コーヒー)を飲み干し、自身の改造された脳が弾き出す「次なる不採算部門」のリストへと触手を動かし始めた。

彼の演算が止まることは、即ち、この組織の、そして彼自身の「死」を意味するからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る