第3話 §荒野を走り抜ける風§

 果てしなく広がる荒野。

 遥か彼方まで赤茶けた大地が見えるだけ、朝のこの時間になると、まるで地平線の向こうから走ってくるような乾いた風が、少年の体を通り抜ける様に吹き去って行った。


 その風は、もうすぐ昇ってくる朝日の方から吹いてくる。

 地平線が真っ赤に燃え、やがてすべてを飲み込むほど大きな朝日が現れると、一層、強い風が吹き始める。


 辺境の町エルドナとその先にある城塞の王国ディオレラ王国の間。

 少年は今朝まだ夜が明ける前にエルドナを出てディオレラ王国に向かっていた。

 朝がきた。

 少年はフードのついた黒いローブに身を包み、焚火でコーヒーを沸かし、一切れのパンを焼き口にする。


 少年のいる場所からわずかに数百メートルほどのところを、凄まじい土煙を舞い上げながら、仰々しい甲冑かっちゅうに身を包んだ大男たちが数十人馬に乗って走り去っていく。

 幸い風向きのお陰で土埃つちぼこりは少年の方には流れてこなかったが、少年が目を凝らしてその隊列を見ると、先頭の馬に乗った大男が脇に少女を抱えて馬を走らせている。


 宿屋にいた少女リサだ。


 リサは泣き叫ぶ様子もなく毅然とした表情でその大男を睨むように見ている。

 リサは少年の焚火の煙に気が付いたようだ。遠目に、リサと目が合ったのが分かった。

 リサは少年に気付き、一瞬、助けを求めるような目線を送ってきた。

 少年は目を閉じ意識を集中する。


『助けて』


 リサの声が聞こえた。


 大軍の大男たちは自分たちの馬の巻きあげる土煙と、荒野を吹く風が巻き上げる土埃に、誰一人として少年の焚火の煙に気付く者はいなかった。


 少年は焚火を消し、去って行く隊列を睨むように見たかと思うと、馬に乗って隊列の後を追った。

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