エピローグ

戦争が終わったとき、ニスタールは二十三歳になっていた。年齢だけを見れば若者だったが、彼自身は、自分がすでに一度、きれいに死んでいることを知っていた。

 復員後、彼は無線技術者として民間企業に職を得た。レーダーも通信機も、戦時中のそれとは比べものにならない速さで進歩していった。新しい装置の前に立つたび、彼はかつて見上げた鋼鉄のトラスと、ゆっくり回転する巨大な影を思い出した。

 彼は多くを語らなかった。戦争について問われても、「通信を扱っていた」とだけ答え、それ以上の説明は避けた。ディエップの名を口にすることもなかった。あの海岸では、語るべき言葉よりも、失われた名前の方がはるかに多かったからだ。

 夜になると、ときおり夢を見た。

 自分が電線塔を登っている夢ではない。

 十二挺の銃が、静かに、確実に、自分へと向けられている夢だった。

 夢の中で銃声は響かない。ただ、照準だけが、いつまでも外れなかった。

 彼は結婚し、子どもを持った。家庭は穏やかで、特別な不幸も幸福もなかった。だが、背中に何も背負っていないときでも、彼はときおり、あの空色の重さを感じた。それは罪悪感でも、誇りでもなかった。ただ、生き残ってしまったという事実の重さだった。

 ある日、彼は倉庫の整理中に、古い無線機を見つけた。電源を入れると、微かな雑音が流れた。その音を聞いた瞬間、彼ははっきりと思った―世界は、あの夜からずっと、誰かの声を盗み聞きしながら回っている。

 晩年、ニスタールは、自分がかつて背負った空色の背嚢について、誰にも語らなかった。だが、彼は知っていた。あの色が、目印であり、標的であり、そして十二人の若者たちの覚悟そのものだったことを。

 彼の墓碑には、階級も勲章も刻まれなかった。

 ただ、名前と生没年だけが、簡素に彫られている。

 それで十分だった。

 彼が守ったのは、自分の命ではなく、未来の戦場で死なずに済む、名もなき誰かの可能性だったのだから。


 (完)

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空色の背嚢 @UnderscoreJ

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