第八話 共闘

  森の奥へと進むと、湿った空気の中に不穏な気配が漂っていた。


 ミナは相変わらず鼻歌を歌いながら歩いているが、その背中のローブはところどころ焦げ跡だらけだ。


 翔太はそんな彼女を見やりながら、手にした弓を強く握った。




  ——リィナから託された弓。


 もう会えないかもしれない。その重みが、弓に宿っている気がした。




 「 翔太! 顔こわばってるよ?」




 「緊張してるんだ」




 「ふふん、任せて! わたしがいるから安心だよ!」




 そう言って胸を張るミナ。だが直後に杖を木の根に引っかけて転びそうになり、慌ててバランスを取った。


 翔太は思わず額を押さえる。




(……本当に大丈夫か?)




  その時、低いうなり声が森を揺らした。


 空気が一気に冷え込み、黒い靄が木々の間から滲み出す。


 赤く光る目が二つ、こちらを見ていた。




 「来た!」




 翔太が弓を構えるより早く、ミナが杖を掲げた。




 「ファイア——っ……きゃっ!」




 詠唱の途中で足をもつれさせ、魔法弾は木の上に飛んで爆発した。枝が燃え、鳥が一斉に飛び立つ。




 「おい!」




 「ち、違うの! 今のは……えっと、牽制! そう、牽制だから!」




  必死に誤魔化すミナ。だが黒の魔物は容赦なく迫ってきた。


 翔太は矢を番え、深く息を吸った。


 肩の力を抜き、視線をまっすぐに——。




 「……っ!」




  矢が放たれ、黒の靄を貫いた……かのように見えたが、やはり効いていない


 魔物はたじろぐ様子もなく、全く止まらない。


 影がうねり、爪が振り下ろされる。




 「翔太!」




 ミナが叫び、今度こそ魔法陣が杖先に浮かんだ。




 「フレイム・バースト!」




  火球が直撃し、爆炎が黒の魔物を包み込む。


 だが、影は炎を裂いて、翔太に向かって突き進んでくる。


 翔太はとっさに右手を伸ばした。




  ——紋章が赤黒く輝く。


 魔物の爪が触れた瞬間、腕が勝手に動き、その攻撃を受け止めていた。




 「ぐっ……!」




  手のひらに走る熱。


 紋章の力が流れ込み、魔物の影を食い破っていく。




 「今だ、ミナ!」




 「う、うん!」




 翔太が押しとどめる間に、ミナが杖を振りかざす。




 「ライトニング・スパーク!」




 稲妻が走り、魔物の体を貫いた。




 「私の魔法が効いてる!」




 ―――翔太も矢を放とうとした。


 ……その時、またもや右手の紋章が赤黒く光り、弓が形を変えていく。




 「―――なんだ……これは!」




(―――いや、今は考えてる場合じゃない!)




 翔太は矢を引き、黒の魔物に目がけて放つ!!。




 「ズゴゴゴゴーーッ」 




  物凄い音が響き、雷光に導かれるように矢が魔物の赤い目を射抜き、黒い靄が爆散する。


 目的を果たしたかのように、弓はもとの形にもどる。


 翔太は荒い息をつきながら弓を下ろし、膝をついた。


 紋章の光は収まったが、脈動はまだ残っている。




 「や、やったぁぁぁぁ!」




 ミナは飛び跳ねて喜び、翔太に向かって笑った。




 「ね? 言ったでしょ、任せてって!」




 「あ……あぁ……」




 「でも、翔太もすごいじゃん!」




  一瞬の出来事で、まるで自分じゃないような気がした。




 ミナの攻撃が効きだしたのも、やはり翔太が黒の魔物にふれてから。




(やはり、この紋章の力だ……間違いない!  俺が触れた物に変化を与えるんだ)




 「私の魔法で、倒したみたいなものだけど、翔太の一発も意外と効いたかもね」




  翔太は思わず苦笑した。


 彼女の明るさに救われている自分に気づく。


 リィナとは違う。優希とも違う。


 でも、この魔法使いなら——。




 「ミナ」




 「ん?」




 「ありがとう。……助かった」




 素直にそう言うと、ミナは目を丸くし、それから照れくさそうに笑った。




 「へへっ……じゃあ、これからも よろしくね!」




  ドジで頼りないように見えて、確かに力を持っている。


 そして、なぜか、俺の力を見ても怖がらない。


 翔太は小さく息を吐き、弓を背に収める。




(……悪魔との契約がなんであれ、この力を使えるようにならなきゃな)




 森の闇を抜ける先に、わずかな光が見えた気がした。


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2026年1月11日 19:00
2026年1月12日 19:00
2026年1月13日 19:00

彼女を救うなら異世界へーーー三つの試練と悪魔との契約 Tatsu @Tatsuwold123

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