第五話 疑念と別れ
黒の魔物が消えた森の中に、沈黙だけが残った。
翔太は膝をつき、右手の紋章を見つめる。脈打つたびに心臓が締め付けられるようだった。
「さっきの……お前が、あの魔物を……」
リィナの声はかすかに震えていた。
弓を下ろしたまま、翔太から視線を外せない。
「……俺にも、わからない。ただ、気がついたら……体が勝手に動いてた」
言い訳のように口にしたが、心の奥では理解していた。
これは偶然なんかじゃない。——あの悪魔との契約の力だ。
リィナは唇を噛みしめる。
「お前がいなかったら……私は死んでた。でも……」
そこで言葉を切り、鋭い目で翔太を見据えた。
「お前の中にある“それ”は……人を救うものなの? それとも……」
問いに答えることはできなかった。
胸の奥で、悪魔の嘲笑がこだまする気がした。
やがてリィナは矢筒を背に戻し、静かに言った。
「……村には来ないで。今のお前を、村の連中に合わせるわけにはいかない」
それは拒絶というより、恐れからの忠告だった。
「……わかった」
翔太はただ頷くしかなかった。
「―――私は村に帰るはわ」
「黒い魔物のことも伝えないといけないし」
「―――お前のその力は何なのか知らないが、武器の一つもないんじゃ心もとないだろう」
「私の弓を持っていけ。 今の私には、それくらいしか、してやれない」
そう言うと、リィナは村の方向へと走り出す。
振り返ることはなかったが、その背中からは迷いが伝わってくるようだった。
翔太はひとり残され、右手を握りしめる。
紋章が再び淡く光り、脈動する。
(これが俺に課せられた“試練”の力……? いや、それとも……)
森のざわめきが、不気味な囁きのように耳を満たしていた。
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