第1.5話
店主はメガネをかけて台帳をチェック。
「
「なまなましすぎぃ」
反応アリとみてか、不動産屋は、おすすめポイント! と書いてあるコメントを読みあげた。
「一年中おだやかな薄曇りとお肌にバツグンな湿度で、炎天下でもひんやり!」
俺はうなずく。
「つまり一年中晴れることのない濃霧と高湿度で作物は根腐れし、家畜は病気になり、家はカビだらけと」
店主、少し焦った顔になる。手でろくろを作ってクルクル。
「でも、でも、魔物が寄り付かない安全な地形らしいですよ」
「魔物すら住めない不毛の地か……ハードル高あ」
「いやいやよく見たら人類未踏の地っていうほどでもなくて北の端には魔王の城らしき廃墟があるらしいですよ! 廃墟好きにはぞくぞくするぐらいたまらない立地かと」
「違う意味でゾクゾクしてきました」
店主は両手を結び合わせた。神様仏様に祈るかのようにすがってくる。
「 破格にするんでどうか! ここはドーンと! 断崖絶壁の舞台から飛び降りるつもりで買ってください!」
「わりと大胆な犯行予告?」
俺は腕組みした。ぼんやりと思いをはせる。
北緯45度、山岳地帯に囲まれた広大な原野。
漂う霧の正体は、地下水脈から溢れ出る高純度のマナが気化したもの。住民の体調不良も、作物が育たないのも、マナ濃度が高すぎて通常の植物が栄養負けするからだ。つまり、俺が開発した『魔力吸収式分解コンポスト』なら、三日で土が堆肥に変わり、植えた野菜が巨木になるレベルの超優良農地。しかも、魔物が寄り付かないときた。最高じゃないか。害獣駆除の手間が省ける。さらに言えば、王都から馬車で三週間。整地された舗装道路もない。面倒な使者も来ない物理的距離——ここまでの思考0.1秒。
「買った」
俺は財布を出した。即金で契約。といっても銀貨1枚もいらなかった。やっす! 原野商法被害者の残りHPを完膚なきまでに打ちのめす悪の所業。満足。
店主が「本当にいいんですか……?」って何回も聞き返してたけど、こっちはニヤニヤが止まらない。
そうと決まれば新天地へ即出立。三週間……と聞いていたがあまりにも広すぎて三日後にはもう境界の森に到着した。
木々がうっそうと茂り、小川がキラキラ、遠くに雪山が見える。
完璧。最高。パラダイス。
とはいえここはまだ街にも近いし、ちょっとしたキャンプ地みたいなもの。
いわゆる野営地だ。
本格的な一国一城のあるじとなるためには、いきなり城をつくるのではなくまずは住みやすい街とはどのようなものかを体験しておいた方がいいだろう。
「拠点づくりだな」
スキル発動。
無限DIY・フルパワー。木を触る→丸太→角材→壁板。
地面を掘る→基礎→自作コンクリート打設。
上総掘り用の井戸やぐら完成。
夕方には二階建てログハウス完成。
広々リビング、対面キッチン、寝室二つ、しかも檜風呂付き(井戸水はまだ出ない)。
薪ストーブは煙突まで完璧に。
外には畑、井戸(未完成)、燻製小屋、さらには防獣罠まで設置。
できた!
「ふぅ~……これだよ、これ」
俺は自作のロッキングチェアに腰掛け、自家製燻製謎肉と、自作ミルで挽いたコーヒーを味わう。
星空は満天、虫の声はBGM。ぱちぱちと揺れる焚火の炎。ああ、チルい……
スローライフって素晴らしい。これで俺は一国一戸建ての主。
誰にも邪魔されず、永遠にのんびり――と思ってその晩はぐっすり寝た。
と思ったら。
朝っぱらから、馬のいななきと甲冑のガチャガチャ音に叩き起こされた。
森の入り口に、金ピカの馬車と騎士十数名。
率いていたのは——
「ふふふ、噂どおり本当に人が住んでるじゃない!」
超絶美少女だった。
金髪ロング、青い瞳、ドレスにティアラ。
胸はでかいし、腰は細いし、顔は完璧。
まさに王道の王女様キャラ。
「私はこの国の第三王女エレナ! この森を私の別荘地にすることに決めたわ!」
エレナは高慢ちきなキメ顔であごをしゃくり、胸を張る。たゆんと揺れた。何がとは言わないが。
「だからあなた、ここから出て行ってよね♪ 補償はちゃんと出すから! 王族の名にかけて!」
「……は?」
俺は手にした斧を肩に担いだまま、固まった。
なんか面倒くさいのがやってきた。
「いや、ここ俺の土地なんですけど」
契約書をチラつかせてみせた。
「そんなの関係ね、ないわ! 王族たるこのわたくしが『欲しい』って言ったら、平民は譲るのが当然でしょ!」
エレナは頬を膨らませて、めっちゃ可愛い。何だこいつ。悪役令嬢か?
普通の主人公ならここで「仕方ない、王女様のお願いなら……」って跪いてるパターン。でも俺はこう言った。
「出て行くのはそっちだ。王女さん」
エレナが目を丸くする。
「な、な、何ですってえー!? 無礼者! 騎士たち、この男を捕らえなさい!」
騎士たちがズカズカ近づいてくる。
「庶民、武器を捨てろ」
「王女殿下の命令だ」
俺はため息。そんな時代劇に出てくる悪代官みたいなセリフを本当に吐くやつがいるとは思わなかった。
冷ややかに一瞥する。
「俺のスローライフを邪魔する奴は、たとえ美少女でも容赦しない」
ぱきんと指を鳴らした。
「追放!」
スキル発動。地面がゴゴゴと鳴り、騎士たちの足元に――パカンと巨大な穴が開いた。
昨夜、こんなこともあろうかと三十個くらい仕掛けておいた「王道の落とし穴」。
「うわああああ!?」
騎士たちは整列したまま、スッポリ綺麗に全員落下。
「案ずるな、峰打ちじゃ」
底にはちゃんとクッション(俺が編んだ藁マット)敷いてあるから大丈夫。
でも出られない。深さ十五メートル。こんだけ掘るなら井戸にしておけばよかった。
エレナだけが馬車に取り残され、ぽかんと口を開けている。「な、なにこれ!? 魔法!?」
「違うよ。DIY」
俺は馬車に近づき、手綱を優しく掴む。
「二度と来るなよ。王女さん。次はクッション抜きだ」
エレナの顔が真っ赤に染まる。
「き、きぃぃぃ! 覚えてなさい! 絶対に絶対に許さないんだからぁぁぁ!!」
エレナは馬車を全力で走らせて逃げていった。
落とし穴の騎士たちは「殿下ぁぁぁお助けをををおお!」って叫んでたけど、無視した。夜になる前には、エレベータが作動して床が持ち上がるだろう。
俺は肩をすくめて家に戻る。
「……やれやれ。静かになった」
再びロッキングチェアに座り、コーヒーおかわり。
「明日はうどんでも打つかな。その前に昼寝でもすっか」
いきなり騒がしいスローライフ初日だった。うとうとする。でも、これでようやく平穏が取り戻せた、いい夢でも見よう——
と思った俺が甘かった。
次回。「魔物の原因はあなたでしょ!」とか言いながら襲来する謎の一団!
俺の最強スローライフ防衛戦は、まだまだ続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます