Nameless Village
トンネルを抜けるとそこは野盗たちが線路を爆破して待ち受けていた……というワケはなく、何処にも野盗の姿は見当たらず、その代わりに大きな湖と田園地帯が広がっていた。
「……ここは?」
『わかりませんが……人の手は入っていそうです。もしかしたら未確認コロニーがあるのかもしれません』
田園地帯にはクボタと同じような稲穂が実り
農民たちはアキの機関車を見つけるや否やあぜ道沿いに設置していた鐘を鳴らして何処へと知らせているようで、次々に鐘の音が連鎖して鳴り響く。そのなかを行先も分からずに湖畔に沿って進み小さな街へとたどり着いたがターミナルはボロボロ、もう何年も使用されているようには見えなかった。
列車が停車するのを見計らい、アキたちを警戒してか旧式のライフル銃や鍬を持った農民たちが待ち構えており、機関車が民衆によって取り囲まれる。
ヴィーがライフルを構えていたがそれを降ろさせたアキは機関車から降りる。ヴィーもそれに習って一緒に降りると集まった人々からは怒号や罵詈雑言が飛んでくる。一人ひとりの言葉としては認知ができずにただの雑音としか聞き取れなかった。
(アキ、この村人たちは……)
(分かってるわよ。穏便にね。彼らはコロニーの上層部から弾かれた人間たち、丁重に扱ってね)
囁き声で交わした言葉をしっかりと噛み締めてアキは向き直る。集まっていた民衆たちの頭には動物のような耳が生えていたり、動物の鼻先のような形状……いわゆるマズルの特徴を持った人間、毛深い村人など様々であり、コロニー上層部の言葉を借りて表すとすればコロニーに住む資格のない亜人と呼ばれる人々の村であった。
『静まれぇい!静まれぇい!』
村人の波をかき分けて一人の老人がツバサの前に現れた。立派な角を持った老人はどうやらこの集落の長のようであり村の戦士と伴ってアキたちの前までやってくる。
「お主ら、先程まで野盗の類に襲われていたようじゃったが……一体何をしたのだ?」
「アキと申します。先程は野盗から助けていただきありがとうございました。恐らくこの列車に積載されている積荷が目当てだったかと……」
長老の後ろから『そんなワケないだろ!』『ウソに決まってる!』といった罵声が再び巻き上がるが長老が手を挙げると再び静まりかえる。
「ふむ……ではそれを証明できるモノはあるか?」
「そ、そう言われましても……あっ、ちょっとまっててください!」
一度アキが列車に戻り、数分もしないうちに戻ってきた。アキが長老に見せたのはポーターズ・パス、コロニーに到着したのならば必ず目にすることになる物であり、依頼内容が詳細に記載されているため年配と思われる長老に見せることで信用を得ようとしたのだ。
アキがパスを見せると長老は黙って集まった人々を解散させ、アキとヴィーを列車からそう遠くない場所にある屋敷へと招き入れた。
「……あの忌々しい紋章はもはや懐かしさを覚えるよ。君たちの名前は?」
「アキです」「……ヴィー」
「アキとヴィーか……私はエンドウ、この村を治めている者、実質的なリーダーだよ」
「えーと、あんまり歓迎されていないようでしたら今すぐにでも……」
「いや構わないさ。君たちを嫌っているのは私のような年寄たちだ。若返るにつれて嫌悪感は薄れていると思うよ」
「……エンドウさん。ここは一体……?」
「ここは無もなき村、見捨てられた者たちが集まる忘れ去られた場所さ」
昔……エンドウや他の老人たちが若い頃、クボタ・コロニーから排斥された亜人と呼ばれた人間たちが集まって作られたのがこの村だそうで、始めは五〇人にも満たない村だったそうだ。
「此処に辿り着く者は野盗の襲撃を受けて機関車もろとも略奪された元ポーターや各地のコロニーを渡り歩き、放浪の果てにたどり着いた流れ者など様々だ。危うく君たちも我々の仲間入りとなるところだったが……そうはならなかった」
「そのことにつきましては本当に、本当に感謝申し上げます」
「ハッハッハッ、礼には及びませんよ。……ですが」
「なるほどね。助けていただいた謝礼がほしいと?」
「ええ、その通りです」
にっこりと笑うエンドウ。これがコロニー等であればイエンでの支払いが可能であるが、ここではそうは行かない。そもそも通貨という概念がないので物々交換しか受け付けないであろう。
「そう言われましても……」
(アキ)
横からヴィーが耳打ちをする。
(……確かもう一両分アレがありましたよね?それでなんとかなりませんか?)
(アレ?……あぁそういうこと!確かにいい考えかも!)
「それでしたら……積荷の一両を差し上げましょう。力自慢の村人や戦士を借りても?」
エンドウとアキ、そしてヴィーは列車へと戻り、その道中にエンドウが力自慢の住民へ声をかけつつ向かう。
クボタから手土産として渡された貨車は後ろから数えて五両目に繋がれていたが、野盗共の流れ弾を浴びてしまい小さいものから大きいものだと拳ほどの大穴が開いていた。
開閉口は破損していなかったため鍵を解除して扉を開けてみると、積荷であろう木箱の木片が散乱していてめちゃくちゃにされている。一部の積荷は駄目になっているだろうとゴミを払いながら取り出していると外側に積んでいた木箱の中身はダミーであり壊れても大丈夫なように細工がされている。
内側には保存処理をされた食料やタバコといった嗜好品、そういったものがぎっしりと詰めこまれていた。
中でもエンドウや戦士たち、村民たちが喜んでいたのは箱一杯に詰められて並々瓶に詰められた酒であり今日は宴だ!騒げさわげ!と舞い上がっていた。
「現金な人たちねぇ……」
とヴィーが呆れるのも無理は無かった。
小一時間もしない内に荷降ろしが終わり村の女性たちも加わって大整理をしているとあっという間に日が暮れる。整理も粗方終わった所でこの村で取れた食材と補給品の食料とすぐそこの湖で取れた魚を使って住民総出の宴会へと開くこととなった。
大通りに並べられたテーブルとイス、その上に村の女性陣が湖で採れた大魚を香辛料を使って仕上げた香辛焼きをメインとして、様々な料理が並びおっかなびっくり村人たち集まって来る。
乾杯の音頭をエンドウが取ると村人たちは一斉に酒瓶を開けてグラスに注いで行く。アキは仕事中と断わりをいれつつも
「本日は運の良いポーターたちのおかげでこの宴を開催することができた!偏見や差別はひとまず置いておき!感謝して乾杯をしよう!」
「「「「乾杯!」」」」
切り分けられた魚の香辛焼が二人の元へと運ばれる。小骨と身を分けて口へと運ぶと香辛料の辛味を感じ、噛めば噛むほどに辛さを和らげるようにして魚の旨味が染み出してくる。単体で食べるには少々味が濃いがこの村で取れたライスや酒の肴として食べるには丁度良い塩加減をしていた。
「この魚美味しいですね!エンドウさん!」
「そうだろう!そうだろう!そういうアキもいい呑みっぷりじゃないか!」
「そうでしょう!もういっぱいどうですか?」
「気が利くねぇ、いただこうか!」
次々と酒をついでいくアキ、酔いつぶれぬよう飲みニケーションでこの先の路線について尋ねようという魂胆であった。
「そういえばエンドウさん。この先の線路を通って峠を超えたいのですけれど……」
「ん?峠を越える線路は落盤や橋梁の落下なんかでほとんど通行できないぞ?」
そんな……という表情をするアキであるがエンドウはその言葉に付け加える。
「ほとんどだ。ほとんど、一箇所だけ通れる場所がある……そうだ、明日ウチの若いやつに案内させよう」
「本当ですか!ありがとうございます」
「なぁに、いいことだ。こんなたのしい宴を開くことができたんだからな!」
ハッハッハと笑うエンドウに酒をついでいく。飲めや騒げやの大騒ぎ、夜は更けるものの宴の熱気は鎮まるところを知らなかった。
Porter's Journey 嵯峨もみじ @kolaltuta
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