New Journey
「……んぅ……ふあぁ~……あぁ、朝?」
もぞもぞと動きながらアキはベッドから起きる。というのも何か物音がしたためである。始めは気のせいか思い二度寝を決めようとしたところで玄関のドアが力強く叩かれていたのだと気がついた。
「もう……まだ朝じゃん。こんな朝っぱらから一体誰なんだろ……?」
休暇中だというのにこんな朝から一体誰が訪ねてくるのだろう。何か押し売りか悪徳商品の訪問販売かと予想し丁重にお断りしようとドアに手をかけ開けて開ける。
そこには上下黒いスーツに黒ネクタイ、サングラスの二人組が立っていた。
「ポーターズ協会の方から来た者だ。貴女がアキか?」
「え、ええ……はい。私がアキですが……私が何かやらかしてしまったのでしょうか?」
昨日の配送は保安局の職員に欠品や欠車が無いことをしっかりと確認したはずだと思うが、もしかしたら……と考えるが全く心当たりのないアキに対してポーターズ協会の方からやって来た使者は蝋印の封がされた封筒を広げてアキヨシの前に見せた。
「クボタ・ポーターズ協会からの配送依頼だ。今日中にクボタ・ターミナルへ向かうこと。以上だ」
そう言い残すと使者の二人組は帰っていきアキの目の前にはクボタ・ポーターズ協会からの配送依頼書類だけが玄関に残されていた。
民間の輸送依頼ならば断っても大丈夫であるが、ポーターズ協会からアキを名指ししての指名依頼、それを断ろうものならコロニー退去以上の重量級の刑罰が待っている。
「はぁ……ほんとに……なんで私なのさ……」
唐揚げにライス、そしれ即席のスープ、せっかくのご機嫌な朝食の時間であるが口にするごとに大きなため息をつきながら箸を進める。
折角の休暇だというのに急に水を差されたのである。ため息しか出てこないが何も進展するはずがないのでひとまず昨日の残り物の唐揚げとライスを温めて朝食を取る。しかし先程の出来事のせいであまり味が感じられなかった。
「ここも折角借りたのにまた返さなきゃいけないし……掃除もしなきゃ。あーあ、やることがいっぱいだぁ……」
朝食を片付けて冷蔵庫に仕舞っていたものをながら呟く。しかし文句を言っても何の解決にもならないことはアキ自身がわかっていた。
「あー……追加の行動食も買い足さなきゃいけないし……昨日のお店、朝早くからやってたりしないかなぁ」
借家の片付けと掃除を手早く済ませ食器や私服といった私物を全て自宅兼客車に積み直す。積み直してからは機関車の準備である。主に始動前点検やら燃料の確認を済ませる。
「燃料は……半分ぐらい……満タンに入れるとして……道中何があるかわからないし予備燃料も準備しておかないと……タムラさんにお願いしてもらおうかな……」
依頼先が何処になるのかまだ定かではないため、燃料を満載にした上予備燃料を備えておくべきだなと思いつつ路面軌道の走る大通りへと向かう。行動食と水を買い足すためであった。
だが大通りの店は朝早いためどこもやっているような様子は見受けられないが……昨日鶏馬の肉を抱き合わせで購入した店の前にたどり着くと丁度シャッターが上がり始めていたところであった。
「すいません!今から営業ですか!?」
「おや昨日の……どうしたんですか?」
「ええと……カクカクシカジカで……」
店主に事情を話すと納得してくれたのかなるほど……と言った感じで店の中へ入れてもらて、固形タイプと缶詰タイプの行動食と飲料水を一週間分、それとは別に本当に非常用として予備の食糧三日分を調達し戻ろうとする。
「嬢ちゃんこれ全部一人せもっていくんかい?結構量があるよ?」
「あっ……ごめんなさい。手伝ってもらってもいいですか」
よくよく考えれは飲料水だけで箱3つ分ほどの量があり、アキ一人では到底全てを持って移動するのは困難であった。
台車を店主に押してもらってそこに飲料水を積み込んで運んでもらった。
「……しっかし、嬢ちゃんのような若い子がポーターなんてやってるなんてねぇ」
「成り行きですよ……私の機関車と客車なんて師匠からいたただいたお古ですよ」
「いんや、若い頃からしっかりとはたらいていることはいいことだよ」
話ながら歩いているとアキが借りている借家へとたどり着いた。地元の人たちの間では幽霊屋敷やらおばけ屋敷として怖がられているらしいが、店主には関係ないようで二人で客車に積み込んで頑張ってねと声をかけられて店へと帰っていった。
「さてと……今からタムラさんに来てもらってターミナルに向かうついでで燃料とか予備燃料を買おうかな」
クボタターミナル輸送部詰所に連絡をすると10分ほどで入換機関車がやってきてくれる。
「まいどー……ってまた貴女でしたか。しばらく休暇を取るって話しじゃあありませんでした?」
「ちょーっと予定が変わったのよ……察して」
給油所まで牽引してもらい機関車に給油、そして予備燃料を入れる携行缶(お値段そこそこ)も購入し目一杯燃料を詰め込んでもらってからターミナルにたどりついた。
列車の編成は既に完了しているようで後はアキの機関車を連結すればいつでも出発できる体制が整っていた。
「おまたせしてすいません。私がポーターズのアキです」
「クボタ・ポーターズ協会のテラダと申します。貴女が配送の依頼を受けていただき、こころから感謝しております」
半ば命令のような配送依頼じゃないかという文句の言葉を喉にしまい込みながら依頼の内容の打ち合わせをしようとしたが……。
「私たちが指定した場所へ配送をお願いしたいのです。……ですが余計な詮索はなさらぬようよろしくお願いします」
「ちょっと失礼しますね……ここらへんって汚染区域じゃないですか!赤い常雨が降り続く中へ言ってくれと」
タブレットの地図から見せられた場所は線路こそ開通している場所だが、目的地にコロニーは無く、赤く汚染された雨が降り注ぐ汚染地帯であった。
「余計な詮索はなさらない方が身のためですよアキさん。貴女に拒否権はございませんので」
「はぁ……それで積荷の方は……」
「二十メートル有蓋車二十五両、後方四両はまぁ補給品だと思ってください。四両は中継地点に手土産として中身だけ荷下ろしをして。残り一両は予備として牽引をお願い致します。他二十両の中身についての余計な詮索はしないこと」
「えぇ……こっちもですかぁ?」
唖然としているところに更に注文が入る。
「期日は設けませんが……無事にクボタへ戻ってきてください」
「……わかりました」
返す言葉が出てこず、行先、積荷、何から何まで知らされない依頼など初めてであった。
クボタ・ポーターズ協会からの依頼とはいえなかなかに質の悪い仕事である。
さらにアキが列車に乗り込んで出発しようとすると、忘れていたかのように呼び止められた。
「ああ、それとですね……今回はソロでの配送は厳しいと判断しポーターズ・ガードの一人を護衛役として乗車させるようにとの通達がありました」
「初めまして……ですかね?私はポーターズ・ガードに所属しておりますヴィーと申します。今回はよろしくお願いします」
護衛役として紹介されたのはレザージャケットにミリタリーパンツ、ミディアムヘアの銀髪をひとつにまとめてシニヨンとし、背の高いアキと同じぐらいの背丈の女性が立っていた。その姿をアキはどこかで見かけた覚えがあった。
(あの人どこかで見かけたんだよね……どこだったかな……あの焼き鳥屋さんじゃないし……古本屋、あそこは店主一人。銭湯、そういえば先客の人が一人いたような、まさかね?)
「あのー……失礼ですが昨日、東通近くの銭湯にいましたか?」
「……はい?あそこの銭湯は私の行きつけですが……」
「やっぱりそうだ!昨日私も言った時にすごい美人さんだなーと思って見てました……」
「あらそうなの?……うふふっお互い気が合いそうな気がしますね」
ちょっとした絆が芽生えたところでアキとヴィーは列車へ乗り込む、後は場内信号が切り替わるのを待つだけである。
「どういうルートで向かうつもり?」
「んー、まずは中継地点のカワマガリかヨコドテまでいってからかな?そこまでで半日ぐらいはかかるだろうし、山越え区間もあるから色々と考えないといけないから」
「ふーん、そんな感じなのね」
出発までの間、ヴィーに列車の紹介をするが機関車1両と客車1両の2両以外は貨車なので大した解説や説明はない。ヴィーが使う部屋は開いている部屋を好きに使ってもらうことにした。
「場内信号、出発。発車!」
「場内信号よし、はっしゃぁ」
場内信号が赤色から青へと代わり、アキはマスコンとブレーキを操作し、列車を発進させる。連結器を軋ませながら列車はヘビのようにうねりながら本線へと侵入し、クボタの大橋まで向かっていく。
短い防壁トンネルを抜け『クボタ第一橋りょう』へと差し掛かり、クボタ・コロニーを後にする。
(……さらば愛しのクボタよ……また、いや絶対帰ってきて美味いものをたらふく食べて飲んで遊ぶからね!またねぇ!!!)
名残惜しく後ろを振り向き、クボタ・コロニーに別れを告げた列車は中継地点である、ヨコドテ方面へと走り去っていった。
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