Kubota's Dinner
ようやく東通で降りることのできたアキは一度借家へと戻る。購入した本やいただいた小包を置いてきて再び商店街の町並みへと繰り出す。
まだ日は高いものの、夕食をどうしようかと考えながら歩く、道路には先程寝過ごした路面電車とトラックや自動車が並走していく。
「晩御飯どうしようかなー……外食でもいいけどー、自炊も捨てがたい……」
悩みながら歩いていると客引きのために店主が出張って店先で大声を上げて宣伝していた。
「さぁさぁよってらっしゃいみてらっしゃい!今日は良い肉が手に入ったよ!新鮮な鶏馬のもも肉だよ~、照り焼きにしてもよし!からっと揚げられた唐揚げによし!煮付けて角煮にもよし!さぁさぁどうですか!そこの道行くお姉さん、おひとつどうですか?」
「ええと私は……」
「今ならサービスとしてこの……」
「もらいます!ください!」
「はいよぉ!まいどぉ!」
「……つい勢いで買っちゃった……今夜は自炊で決定だし、このお肉結構ある。だってアレがタダで手に入るのなら誰だって買っちゃうでしょ」
両手にぶら下げた袋……片手にはライスの小袋、鶏馬のもも肉の塊と調味料、そしてもう片方の袋にはおまけでついてきた瓶の麦酒が3本、顔をのぞかせていた。
「見事にハメられたわ……抱き合わせでカタクリの粉と大蒜、それに甘酢も買わされちゃったし……これはもうアレを作るしかないじゃん……」
言葉巧みに私を誘導してきた店主の顔がふわふわと浮かんできている。
『……お客さんお酒を飲まれるんですか!?ならやっぱりトリの唐揚げはかかせませんよね!ウチではいつも普通の唐揚げにしているんですが……今日はなんと!甘酢もつけちゃいます!揚げたての唐揚げの味変にぜひどうぞ!』
「揚げたての唐揚げに甘酢をさらりと……ああダメダメ、よだれが出てきちゃう」
袋を持ち直し、一路借家へと戻る。早速客車自宅からボウルやら皿なんかを引っ張り出してきて買ってきた食材の下準備を進めることにした。
買ってきたライスの小袋を取り出し、持ち合わせの飯盒に入れる。ムセンマイと書かれているのでそのまま洗わずに水を入れて水分を吸わせておき、その間、鶏馬のモモを取り出して食べやすい大きさに切ってから醤油と大蒜を溶かした液体に浸して下味をつける。
ライスに水が吸い込まれるのと下味をつけるのに小一時間かかる。その間、購入した本を読もうかとも考えた。
「……そういえば、近所に大衆浴場があるんだった。ちょっとひとっ風呂浴びにいって来ようかしら」
詳しい場所は聞かなかったけど煙突を目印にして行けば大衆浴場までたどり着くのは容易であった。
誰もいないと思っていたがどうやら他の利用者がいたようで、浴室に浸かってのんびりと過ごしている先客がいた。
(うわぁ……すごい美人さん……そんな人でもこういうところを使うんだ……)
ミディアムヘアの銀髪の女性はアキが身体を洗い、湯船に浸かるまでの間に上がってしまったようでその姿は何処にもない。
(……普通水音とか扉が開いたり閉じたりする音とかが聞こえたりすると思うんだけど……まぁいいか)
小さな悩みを全て湯船で流し、あったまった身体で外に出ると既に日は傾き始めている。少し足早で借家に戻りライスが十分水を吸ったことを確認して飯盒を日にかける。
それと同時に鶏肉の様子を確認すると味が染み込んでいるようだったがもう少し味を染み込ませた。
(始めちょろちょろ、中ぱっぱ……赤子は、いないから、気になっても蓋を開けて覗き込むなっと……またちょっと時間があるしこれ開けちゃいましょうか)
飯盒から炊き汁が出てくるのを確認して弱火に切り替えてから袋を少し漁り、取り出して眼の前に置いたのは麦酒の瓶、栓をあけてあらかじめ冷やしておいたグラスに注ぎ込めば黄色い炭酸飲料と白い泡の2層が出来上がる。
「うーん……おいしそう、料理はまだだけど、いいよね!」
喉を鳴らしながら麦酒を喉へと流しこむ。アルコールの苦みと久しぶりの酒にアキはくぅ~……と唸っていた。
「これこれぇ!久しぶりの味ね!だけど……」
麦酒の味に舌鼓をうちつつ、『やっぱり先に空けるんじゃなかった……』と後悔していた。
口がさみしいのことはいただけないのでさっさとツマミとなる唐揚げを作ろうとする。下準備の済んだ鶏馬の肉を唐揚げへと変える準備を整える。
フライパンに5センチほど入れて熱し、油が温まったところに肉を入れて揚げていく。
パチパチと耳当たりの良い音を聞きながら、両面がきつね色に揚がったのを確認一度油から上げてもう一度油へと入れる。こうすることで外側はぱりっと中はみずみずしいままで揚げられるというメリットがある……らしい。
唐揚げを揚げている最中にふつふつと飯盒の中から聞こえていた音が消えたので日を止めて蒸らしていく。
「ふぅ~……こんなもんかな?全部唐揚げにしちゃったけどどうせ食べられないし、残りは明日にでも食べられるしね」
大皿の上へ山盛りに盛られた唐揚げと炊きたてライス、そして麦酒、それがアキの晩御飯であった。
「いただきま~す」
唐揚げを頬張る。揚げたてなので熱々の肉汁が飛び出して口の中を火傷をしそうになる。息をほっほっと数回鳴らしてから飲み込み、すかさず麦酒で火照った口の中を休息冷却する。
「……くぅ~美味しいなぁ、やっぱり麦酒を飲むんだったら脂っこい揚げ物が一番よね。……ご飯も甘くておいしー、合成食糧じゃこういう甘さも引き出せないからただ味気のないモノを食べるだけだし、あーあ……金さえあったらずっと美味しい食べ物とお酒を楽しんで此処に永住できるんやけどねぇ……」
そう呟くきながら唐揚げと白米、そして麦酒のループで食事が進み、麦酒瓶を1本空けて山盛りにしていた唐揚げも大分減ったものの、数はまだある。
「ふぅ……満腹、まんぷくぅ……後は明日にしよ……」
残ったライスと唐揚げを明日の朝食用にと冷蔵庫にこみ、洗い物を済ませると久しぶりに動かないベッドの上に横たわる。そのまま眠りにつこうとも思ったが横に目をやると古本屋の店主からいただいた小包が目に留まる。
「そういえばあの店主さんからもらった小包の中身ってなんだろう?」
ベッドから身体を起こして小包を改めて手に取り、綺麗に梱包された小包の梱包を空けるとそこには1冊の冊子が丁寧に梱包されて閉じられていた。
「えーと……意図的に黒塗りになってる?『▓▓年度 防衛白書』?ボウエイハクショって一体何だろう……」
ページを開いて見ると本……というよりかは論文のような文字構成から始まり、難解な言い回しや文字がつらつらと並べられていた。
「イマイチわかんないなぁ……文字ばっかだし、あんまり興味がないなぁ」
どんな贈り物かと思って見ればただの文字が多いだけの本ということでがっかりしていたがとあるページから絵柄ばかりのページが続く。
「えーと……『イヴ・ドールプロジェクト』?一体何物?」
前置きのような文が残されていたが少々難しい文が並べ並べられいた。
――最早わが国が国際紛争の戦火に飲まれるのは不可避であり国民の生命及び財産を保護するため国防省並びに国防軍は総力を上げてこれに対処する。しかしすべてに対応することは困難である。そのために機械人形からなるイヴドール・プロジェクトの運用方法を防衛白書に組み込み、来たるべき日に備えるべく、ここに記す――
「コクサイフンソウ?南の方の……カイと、スルガがやりあってるアレのことなのかな?イマイチ理解ができないなぁ………ふあぁ~あ……眠い」
大きなあくびが出たので読書は一旦止め、ベッドへと潜りこむ。
(明日は……ちょっと足を伸ばしてセントラルの方に向かってみるのもいいかもね……おいしいもの、……もあるだろうしね……)
明日の予定を適当に考えつつ、ゆっくりと意識は沈んでいき、夢の世界へと旅立っていった。
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