Kubota's Life
借家の鍵を閉めて入換機関士のタムラの言う通りにポーターズ専用線路げ沿って沿いを少し歩くとアンダーパス構造となった路面電車の走る路面軌道と立体交差をする大通りにぶつかる。
左右を見ると商店や飲食店街が立ち並び、もう少し歩くと高い煙突が目立つ公衆浴場もあり、商業街と呼べる地区にたどり着いたようであった。自炊するにもヨシ、外で食べるのもヨシ、外食の種類も豊富であり、丼ものから麺類と様々な店がありどの店に食べに行こうかと悩んでいた。
「さすが農業系コロニー、食べ物の種類が豊富過ぎて迷っちゃうなぁ」
昼は外食と決めてこそいたものの具体的にどんな物を食べたいとか食べようといったことを決めていなかったアキ、ひと商業街を歩きながら昼食を決めていこうとした。
「あそこのお店は……合成食糧を使ってるのかな?クボタじゃ珍しいかもしれないけどダテで食べすぎて飽きたからパス、んであっちのお店は天然物のお店……だけど随分と並んでるなぁ……食事時ぐらいは静かにくいたいからパスね」
路面電車が走る表通りではあまり良い飲食店は見つからず、アキがふと横を見ると表通りから裏路地へと伸びる小道があった。
「こっちから良店の香りがする!多分!」
ほぼ感のような感覚だがアキは自身満々で裏路地のほうへと進んでいくとやや大きい通りにぶつかる。
だが通りに面していた店の殆どはシャッターが降ろされており、人の気配は感じられず閑散としている。潰れた店とかそういうワケではないようで、ただ単に営業時間ではないようである。シャッターの降りた店先、そこには店名と共に黄金色に瓶がずらりと並べており、そのお店の正体に感づいた。
「……もしかして飲み屋!?じゃあこっちも……やっぱりそうだ!」
隣の店も覗いてみるとこちらも瓶がならんでいたり、灯ってはいないものの何個も赤い提灯がぶら下がっている。他にも男向けの接待を提供する飲食店などもあり、歓楽街の様相を呈している。
当然そういった関連の店は昼間はやっていないところが多くシャッターは降りているのもそのためであり、人通りも少なく閑散としていた。
「んー……どこかの店で妥協……あれ?あのお店やってそう?かな」
その中で唯一シャッターを上げて赤提灯と暖簾をぶら下げている店を見つけた。曇りガラスで室内の様子は伺いしることはできないが店の雰囲気が良さそうであった。
「ここよさげかも!今のところ人通り少ないし、ここに決めた!」
ガラスと木枠でできた引き戸を開けて店の中に入る。外に人の気配が無かったように店内にも人気は無く、少し髪が少なくなってきた年配の男性と若い女性の二人がおり、若い女性がアキに気付くと「いらっしゃいませ」と愛想の良い返事と「……らっしゃい」と無愛想な声が聞こえてきた。
「ここって昼間はやっているんですか?」
「はい!やっていますよ!ウチは夜営業は居酒屋としてやってるんですが……昼間は定食屋としてやってます。お客様はお一人様ですか?」
「ええ、カウンターいいですか?」
「もちろん!お父さんお客さんだよ。ほらシャキッと!」
「ああ、分かってるさ」
親子の掛け合いを眺めつつカウンター席に座ると看板娘?からメニューと一緒に渡される。見てみると
(ここは……大人しくおすすめに従ってみるのもいいかもね)
「すいませーん。このおすすめのやつ、もらえますか?」
「はい、丘海豚のカツ定食とニ頭牛のハンバーグ定食、どちらにいたしましょうか?」
「カツとハンバーグかぁ……すいません両方もらっても?」
「りょ、両方ですか!?しょ、少々お待ち下さい」
厨房から『おとーさん!カツとハンバーグ両方!ひとつづつ!』と声が聞こえてくる。店によっては当たり外れの激しい料理だと思っているので内心楽しみではあるとともに開拓するには及び腰になってしまう。
そんなことを思いながらお冷とちびちびと口に含んでいるとアキの座るカウンターに何やら小さな皿が置かれた。
「失礼します。こちらお通しです。どうぞ」
「あ、ありがとうございます……もしかしてこれって」
そういいだされたのは水々しいトマトとキュウリが使われた野菜サラダである。野菜自体が高級品なのにもかかわらず無料で差し出してくるのはさすが農業系コロニーだと言わざるを得ない。しかもこの水々しさに加えて色づきが良い野菜たち……。
「これはもちろん……」
「天然物ですよ!合成食糧なんて丘海豚の食糧みたいなもんです!」
えへん!とない胸をはる看板娘であるが、中々ひどい良い草じゃないの?という言葉を出しかけたが口にいれたトマトと一緒に飲み込んで口には出さなかった。
お通しをつまみつつ厨房から聞こえてくる様々な音を楽しんでいるとようやくメインとも言える料理がアキの面前へと現れた。
黄金色に包まれた丘海豚のカツと湯気を上げ、サラダやご飯と一緒に乗せられてやってきたニ頭牛の肉をひき肉にしてつなぎを入れて焼き上げたハンバーグがやってきたのである。
「おっ、おまたせしました!丘海豚のロースカツ定食とニ頭牛のハンバーグ定食です!どちらも大変熱くなっておりますので気をつけてお召し上がりください」
「どうも。いただきまーす!」
アキが先に手を付けたのは丘海豚のロースカツ、からっと揚げられた衣を持ち上げると中に分厚い丘海豚のお肉がサンドされていた。
(これは……期待できそうかな?)
付け合せのソースをつけて口にもっていく、パリパリの衣を食い破ると丘海豚独特の甘みと共にソースの甘しょっぱさが口の中で交わる。
(うんうん、カツといえばこの食感と旨味、白いご飯と合う。定食といったらやっぱりこうでなくちゃ)
定食と名乗るには丼に盛られたご飯はすこし多いようにも思えるがこれぐらいはアキにとっては軽いものである。味噌汁にもついてきて更にお得感満載であった。
「おっと……こっちも忘れちゃ駄目よね。熱いうちに食べてあげないと」
カツから一旦離れて次はニ頭牛のハンバーグである。ハンバーグという語源がどこからやってきたのかはアキにもわからないが美味しいものに理由なんていらないと考えていた。
箸を使ってハンバーグを切り分けると断面から旨味を十二分に含んだ肉汁が盛り皿の上へと溢れだした。さらに溢れ出した肉汁が一緒に盛り合わせられたご飯や野菜に染み込んでいた。
このままでは溢れ出る肉汁が全てご飯と野菜に染み込んでしまうと肉汁をこぼさないように口に運ぶとあまりの熱さに声すら出ない。口の中を火傷まではいかなかったものの、しばらく声も出せないまま悶絶してしまった。
(あつい!……だけどニ頭牛のうまさと……これは野菜かしら?気にならないといえば気にならないけど肉単体のハンバーグよりも味がいい。やっぱり野菜のおかげもあるのかも)
ハンバーグを食べ、ご飯を掻き込み、付け合せの野菜で口直しをしたら今度はカツを口に運んで食事を楽しみ昼食を終える。
「ふぅ……食べた食べたぁ……ご馳走様でした!お会計お願いします!」
満足そうに腹部をさするアキの眼の前には空になった皿が並べられていた。
「ありがとうございました~」「…………どうも」
食事を終えて上機嫌なアキはそのまま表通りを散策する。気分がいいというのもあるが何よりも……。
「うっぷ……やっぱり定食2つ分はきつい……」
食べ過ぎでいが辛くなっていたのである。このまま借家に戻ってもいいのだが大体食べすぎてしまった時は9割の確率で気絶してしまう。せっかくの休暇、惰眠を貪るのもよいが散歩をして少しでも運動しようと考えたのである。
……まぁ運動ついでにどこか興味がありそうな店を冷やかしたり買い物をしたりしようという目的もあったが……本来の目的は食後の運動であった。
「……ぼーっとしながら歩いてたんだけど……ここ何処?というかお店のひとつすらいつの間にか無くなってるんだけど!」
アキが気がついた頃には中心街から離れた郊外の地区まで歩いてきてしまったようで、路面鉄道こそ走っているものの道路沿いの建物を見れば住宅地のような一軒家が立ち並んでいる。
「ここどこ!?路面鉄道の線路に沿って戻っていけば元の場所に戻っていけるんだろうけどそれじゃあ面白くないし……ここら辺をちょっと散策してから戻りましょうか」
そうは言うものの、あるのは一軒家タイプやアパートタイプの住宅、到底商店のようなものがあるとは思えなかった。
「まぁ何も無かったとしてもいい運動になったと思えばいいいしね」
ポジティブに考えながらアキが歩いていると一見だけ回りの建築物と比べると古ぼけたというかというか古めかしい建物が見えてきた。
一体なんだろうと思いながら近づいて見るとそれは本を扱っている書店のようではあるものの、どうにも営業しているようには見えない。
「電気は……ついてるみたいだけど本当にやってるのかしら?」
外から見えればただの廃屋のようにしか見えないが……ものは試しと入口らしき扉に手をかけてた。
扉の上部に備え付けられた鈴が店内に鳴り響くが到底人がいるようには思えない。
「すいませーん、誰かいますか?」
アキが声をかけてみるが誰も出てこない。きっと店主は店の奥で野暮用を済ませているのだろうと思い、店内の探索を始めた。
本屋と名乗っているのでクボタで発行された書物が並んでいると思ったが実際はそんなことはなく、外観のように古ぼけている古書が天井近くまで積み上げられている。試しに1冊取ってみると相当古い書物のようでところどころ読めない箇所があった。
「えっと……『――の子孫のため?――――――――成果と、わが国全土――――』駄目ね。滲んだり焼けたりしてとてもじゃないけど読めたものじゃないわ」
「おや?いらっしゃい。お嬢さん。なにかお探しで?それとも買取りですかな?」
突然後ろから声が掛けられて振り返るとそこには年老いてはいるものの背筋は針金を通したような立ち姿、頭髪を真っ白に染め上げた老紳士が両手に古本を抱えながら立っていた。
「ええと……き、興味があってきたんです……す、少ししたらで行きますので」
「構いませんよ好きなだけ見ていってください。私は奥で作業をしております」
そういうと老紳士は店の奥へと消えていき、アキ一人残される。
「……まぁ店主さんが好きなだけと言ってるからもう少し時間を潰してもいいのかもね」
店主から言われた通り色々と店内を物色し、書物をいくつか見つけた。たまにしか本を読まないアキであったが『面白そう』と思ったものをいくつか購入することに決めた。
「すいませーん!お会計をお願いしまーす!」
「はい。……これとそれとだから……これぐらいかな?」
値段を見せられてもあまり本の虫ではないアキはそれが安いのか高いのかはわからないが懐が温かいので喜んで支払う。
「おっと、そうだお嬢さん、私のお店を利用してくれたお礼にこれを差し上げましょう」
「え?いいんですか?あ、ありがとうございます……」
店から出る直前、店主からお礼として差し出されたのは小包に包まれた本のような物を手渡してきた。すぐにでも見ようと思ったが流石に店主がいる手前、借家に戻ってから開封しよう、そう決めた。
古本屋を後にしたアキであったが予想外の買い物によってこれまた予想外の出来事に直面していた。
「……思ったよりも大荷物になっちゃった。どうしよう」
徒歩で買えるにはやや大荷物となったことである。本10数冊を片手に借家へと戻れないことはないが……正直言って歩くのが面倒くさくなっていた。
「歩いて買えるのはやめた!路面鉄道で帰る!」
路面鉄道に乗車しても結局は借家の前までは行ってくれないのは分かっているはずだがどうしても歩きたくなかったようである。
停留所で待つこと数分、クリーム色と緑色のツートンカラーの路面電車がやってくる。ここが終着駅となっているので運転手が車内の確認を済ませてからドアを開く。
車内に乗り込んだまでは良いものの今度は降りるべき停留所がアキには全くといっていいほど分からなかったため、車内に掲載されていた路線図を確認すると簡略化されて描かれていたもののポーターの線路をくぐるアンダーパスが掲載されていた。
「えーと……この近くの停留所は……商内前と……東通かな?どっちで降りてもいい感じなのかな?」
『発車します。手すりや吊り革にお掴まりください』
扉が締まり路面電車はゆっくりと動き出した。等間隔で揺れる車内、加減速や停車を繰り返すモーター音、それに加えて満腹中枢が刺激されてアキはいつの間にか眠って仕舞っている。
『商内前~商内前~』
『発車します。ご注意ください。……次は東通、東通です』
『東通~東通~』
降りるべきだった二つの停留所に到着したがうたた寝をしていたアキがそのことに気がつくことがなくアキを乗せた路面電車は無情にも走り去っていく。
「……さん………お客さん、おきてください。終点ですよ。お客さーん」
「ふえ?」
「おはようございます。終点です」
「しゅ、終点!?やっちゃた!」
アキが目を覚ますとそこは路面電車が多数停車している場所、どうやら路面軌道の車庫まで寝過ごしてしまったようである。
「お客さんどちらで降りる予定でしたか?」
「ひ、東通です……」
「東通方面でしたらもうすぐ3番乗り場から出発します」
慌てて列車を降りるアキ、東通方面へ向かう路面電車に乗り込もうとした時に声をかけられた。先ほど起こしに来てくれた運転手であった。
「お客さん!忘れ物!」
「ごめんなさい!ありがとう!」
古本屋の店主からもらった小包を忘れてしまったのを追いかけてきたようである。発車寸前で受け取ると路面電車の扉が閉じる。
『発車します。ご注意ください』
今度は寝ないぞと心に決めたアキを乗せた路面電車は来た道をとんぼ返りしていった。
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