Arrival Kubota's Colony
仮設ターミナルを発車してから暫くは何も植えられていない開拓された田園地帯が続く。
開拓は完了しているものの作付時期が違うのか畑には何も植えられておらず、茶色い地面が続く殺風景な景色に鉄路が伸びている。
もうそろそろクボタの防壁は見えてくる頃合いというところでコロニー境界の接近を知らせる標識があり、いよいよクボタの領域が近付いてきていた。
「境界接近、コロニー・クボタ。警笛、よし」
接近標識を視認した後、警笛を鳴らして接近をクボタ側に知らせる。それから更に走ると再び標識があるが今度は接近標識ではなく黄色地に黒いバツ印が大きく描かれていた。
「警笛、よーし!」
汽笛を鳴らすと何も植えられていない田園が突然途切れたかと思えば巨大な川とその大河に架かる鉄橋が現れ、その先に10~20メートルはありそうな防壁のような壁がせり立っているのが見えた。
それはクボタ領域の外と内を隔てる防壁であり、アキの列車は速度を落とすことなく高速のまま『クボタ第一橋りょう』と書かれた錆びついているものの頑丈なトラス橋へと渡る。
どんどんと近づいてくる堅牢そうな防壁はほとんどが緑に覆われており、攻撃を受けたのだろうか何箇所かに大きな穴が空けられていたがそれでも貫通することなく堅牢さはそのままであった。
クボタ第一橋りょうをわたり終えると同時に防壁の下部分に設けられたトンネルへと突入する。
通過するのに10秒も掛からない長くないトンネルを抜けると辺り一面が黄金色に染まる。そこはもうクボタコロニーの領域内であった。
黄金色の正体はたわわに実り
「いつ見ても発展してるなぁ……農業系コロニーってのは随分と儲かるんだねぇ」
並走する軽便鉄道の旅客列車を追い越して中心部へと向かっていく。中心部に近づくにつれ稲穂の海は少なくなり変わりに食品を加工するための工場や引込線のある商店が立ち並び始める。
ビルが立ち並ぶクボタ中心部へと向かう軽便鉄道と立体交差で分岐すると支線が次々と枝分かれし、入替用機関車が貨車数両を牽引する列車とすれ違うと巨大な貨物ターミナルが見えた。目的地であるクボタ貨物ターミナルであった。
「クボタコロニーターミナル、停車、二七番」
場内信号に従って減速しつつポイントをいくつも渡っていくと二七と表記された書かれたプラットホームへと列車は入っていき、停止目標ぴったりに列車を停止させる。
監視所から連絡が来ていたのか停止目標付近にはターミナル・スタッフと保安局員数名が待機しており、降車すると係員が近づいて来る。
「お勤めご苦労さまです!ポーター証の提示と積荷書をお願いします!」
「はいどうぞ」
「受け取りました。確認のため少々お待ち下さい」
係員はアキから積荷書とポーター証を受け取り連結されていた貨車一両一両しっかり積荷の欠損や欠落等が無いかを確認していく。
過去に書類を誤魔化して積荷をネコババしようとしたポーターたちがいたらしいが直ぐにバレて処罰されたとの噂があった。そういった者は列車強盗に分類され有無を言わさずに当局に即時拘束されてしまうらしい。
そうなれば資産や商売道具の機関車は差し押さえとなり地下収容施設か矯正労務局行きとなるらしいが詳しいことは解らない。
なにせ拘束されて帰ってきたポーターが誰一人としていないので環境の悪い遺跡の発掘に駆り出されているやら地下採掘場に押し込められている等のうさわ話が出回っているが信憑性に欠ける話ばかりであった。
「おまたせしました。貨車22両、欠損の有無の確認が取れましたのでこちらにサインをお願いします。」
「はいはい……これでどう?」
「確認しました。報酬は口座へ振り込んでおきましたのでご確認を、お疲れ様でございました」
アキくサインをすると今回の配送は完了となり機関車から貨車が切り離されて入れ替え機関車によって引かれ次々と運ばれていく。依頼が完了したのでホームを空けるべく入れ替え作業が完了する前に機関車を動かしたいのだが何処かいい場所が無いかと質問をするとポーター向けの簡易宿泊小屋があるらしくそこを紹介してもらう。
機関車から少し離れた場所にあった宿泊小屋紹介屋と書かれた看板の下をくぐると事務員の出迎えを受けた。
「いらっしゃいませ!こちらではポーター様向けの物件を紹介しております。どちらの物件をお探しですか?」
「えっと……じゃあ、一戸建て・平屋・二階建て問わなくて……別にお風呂は別になくてもよくて……機関車を止められる車庫付きキッチン付きの物件とかありますか?」
「……少々お待ちください。探してまいります」
奥に消える事務員を見送って少々まっていると物件情報の載っているファイルをいくつか持ってきた。条件と照らし合わせながら一致している物件を探してみるものの、条件に合うものは割高であったり、老朽化していたり、スラム街に近く女手一人で暮らすには不安が残る物件だったりと中々指定した条件に見合う物件が見つからない。
「どれか一つでも条件を見直していただきますと見つかる可能性がありますが……」
「あれ?この物件はどうなんですか?」
アキがファイルを流し読みしている中で見つけたのは平屋建てでキッチン付き、お風呂とトイレ別、周辺に商店街や大衆浴場のある物件であった。
「築年数もそんなに立っていないのに賃料がすこぶる安いわね……この物件は?」
「ええとそちらの物件……ですか?あまりおすすめはできませんが……」
なぜ?とよくよく聞いてみるとこの物件ではかつて失踪事件があったらしい。とあるポーターが一人で借り上げたところ、ある日突然姿を消したらしい。
まるで人間だけが消えたようにテーブルには夕食と思われる食事が残されたままで、ついさっきまで生活していた痕跡が数多く残され、人間の身体だけが消えた思われる服がそのまま残されていたそうである。
「それから幽霊屋敷やらおばけ屋敷だのと囁かれている物件がここなのです」
「へぇ~そうなんだ……で借りられるの?」
「……よろしいのですか?いわゆる事故物件と呼ばれる類の物件ですよ?」
「私そういうのは信じないクチだから大丈夫よ。それに失うものなんてそんなに無いからさ」
アキの資産といえば商売道具の機関車と自室とも呼べる客車、それと自分自身の身体ぐらいである。そういう事情もあってか屋根があって快適に生活ができればどこでも良いと考えておりそれが事故物件でも曰く付きでも特に気にすることは無かった。
事務員は説得しても無駄だとあきらめがついたのか受話器を手に取ると何処かに連絡を取る。数回ほど相槌を打ちアキへ何番線のプラットホームに止まっているかと聞かれアキは二七番プラットフォームだと伝えると電話を切りツバサの前に書類を差し出す。
「大変お待たせしました。物件のご準備が整いましたのでこちらの方の必要事項をご確認の上、記入をお願いします」
賃貸に関する規約等がありしっかりと読み込んでから署名欄に自身の名前を記入する。一通り見直して記入漏れなど無いことを確認し事務員へと返す。
「ありがとうございます。……ちなみに何日ほど滞在しますか?」
「とりあえず……1週間ぐらい?ですかね。それ以降は応相談で……」
「構いませんよ。何かしら問題のある物件なんて誰も借りたがらないですから」
両者は苦笑いをすると事務員は裏へと行き物件の鍵と共に領収書をアキへ渡した。
「お待たせしました。こちらが物件の鍵と領収書になります。お支払いは引き落としに致しましたのでご確認をお願いします」
領収書には賃貸料金が書かれており、やはり同じ条件の物件と比べてみると破格とも言える低価格で契約を結べたのでニコニコのホクホク顔で紹介屋を後にして機関車の元に戻る。
すると機関車の後方に連結してあった貨車たちは居なくなっておりその代わりなのかアキの機関車よりも二周りほど小さな機関車が止まっていた。
入換機関車からあまり真面目とはかけ離れた見た目の丸メガネの男が顔を出してきた。
「どうもー、クボタターミナル輸送部のタムラですわ。お宅が紹介屋から連絡のあったポーターさんたちでっか?」
「ええそうよ。牽引よろしくお願いします」
「よっしゃ、ほな行きますでー。結構揺れるからしっかりつかまっときー」
なれた手付きで素早く連結をすると汽笛の音と共に発車する。右に左と揺さぶられながらポイント群を渡ると本線からは外れ枝のように別れていく路面軌道へと入っていく。そこから更に路面軌道でポーター専用線を横目に見ながら進むとアキが契約を交わした一軒家が見えてきた。
『えーご牽引のお客様、こちらがお宅さんの契約していただいた一軒家になりますわ。こっから少し歩けば商店街とか大衆浴場とかもあるんでそこそこ不自由なく暮らせるとおもいますんで……ほな、またのご利用をお願いしますわー』
機関車の車庫入れを済ませるとタムラの操る入換機関車は次の仕事へと向かっていった。幽霊屋敷やらおばけ屋敷と呼ばれている割にはしっかりと手入れされている。
しかし外壁や庭といったガワだけを綺麗にしているだけで室内は大変なことになっている可能性もある。確認のために借りた鍵を使い屋内に入る。
まず室内から漂ってきた香り、一体どんな異臭がするのかと身構えていたが……いたって普通の香り、異臭とは程遠いほんのり爽やかな香りをアキは感じ取っていた。
そのまま室内を探索すると、内装としては大まかに分けると
「なんだ全然いい物件じゃない。特に傷んでる様子もないしこれなら快適に暮らせそうじゃん」
機関車から数少ない私物を下ろして寝室へと運ぶ。愛読本と布団……後は調理用具という私物自体が少なかったのでそこまで下ろすのに時間は掛かること無く終わり、壁掛け時計を見てみると既に昼を回っていた。
「もうこんな時間?どうりでお腹が空いてるワケよね。……ごはん食べにいきましょ」
ポーターの作業着のまま出歩くのは好ましくないと考えたアキは浴室でシャワーを浴び、数少ない私服へと着替えてから街へと繰り出すことにした。
「よし、準備万端。さぁ、行きましょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます