Departure

 屋台街へと迎えばちょうど朝飯時なのか大勢の労働者たちが大挙して押し寄せており、屋台によっては人があふれるほどに並んでいる屋台もちらほら見られた。


 行列といったものが苦手なアキはそういった屋台には目もくれず、屋台街の奥へと奥へと歩みを進める。奥まで来ると入口付近の殺人的混雑は嘘のようになくなり、客がまばらにいるような感じの屋台が目立つようになっていた。


「さーてと、どこかいい屋台は何処かにあるかな……」


 周囲を見回してみるとちょうど暖簾をかけようとしている屋台が目に入った。今日はあそこにしようと近づく。


「すいません。今から開店ですか?」

「ん?そろそろ店じまいにしようかと思ってだが……アンタ食っていくかい?」

「いいんですか?」

「あぁ、今日は他の店に客を取られてな結構余ってるんだ。だから、好きなだけ食っていいぞ」


 暖簾をくぐると数人が立ったまま食事のできる立ち席が2,3人分あるが、どこにもメニュー表の類は見当たらず、味のある手書きの木札で『握り飯』と書かれていた。


「ウチは握り飯と吸い物しか無くてね。それにおかずの類はおいてない。だが味は保証するぞ」


 店主に進められて……というがそれしかメニューがないため、オススメの握り飯セットを頼み、力強い握りで握られた二個の握り飯と茶色い色に白く四角い物が浮かんだ汁物がすぐに出された。


「ハイお待ち、塩握りと味噌汁セットね。どっちもクボタで作られた有機物だ。他じゃ味わえないぞ」

「どうも。それじゃあ、いただきますっ!」


 塩気の聞いた握り飯は噛めば噛むほどに甘みが出てる。他のコロニーで合成米は食べたことがあるがこの独特の甘みは再現することは敵わないであろう。味噌汁という吸物も塩気とは違う旨味があり二つのコントラストが絶妙に噛み合った美味しい朝食であった。


「ごちそうさまでした。美味しかったです。」

「はいよっ、また来てな!」


 満足な食事を取りいよいよ本来の目的地へ向けて出発する……その前に機関車の点検をしなければならない。


 客車からハンマーを持ち出して機関車の足回りを軽く叩きながら一周する。目視での点検も兼ねているが金属疲労等で車輪等に亀裂が走って居ないかを確認するためだ。これを怠ってしまうと亀裂が広がり最期は走行中に破断、脱線・転覆事故を引き起こしてしまう可能性がある。そうならないように出発前の点検はとても重要な作業の一つである。一周して点検を終えるとアキはふぅ……と一息吐くと周囲を見渡す。


 クボタから来た列車や、夜同士走りながらクボタへと向かう列車が到着し、出発していく。


「っとそうだ……保安事務所に顔出して出発の知らせをしないと永遠に出発できないや忘れるところだった」


 その足で保安事務所に入るといきなり怒号や罵声が飛び交っていた。


 どうやら出発の順番を巡ってポーター同士が殴り合いの喧嘩に発展したようで周囲の保安局員やら無関係のポーターを巻き込んで殴り合いの大喧嘩をしていた。


 アキが目指す出発受付は今大乱闘が行われている到着受付の奥にあり、巻き込まれないよう取っ組み合っている人間たちを躱し躱して出発受付へとたどり着いた。


「すいませー……うわっと!出発したいんですけど」

「は、はい受けつけました。えーと……今の時間ですと、後発の企業列車の後でもよろしいでしょうか」

「は……よっと、それでお願いします。それじゃ、私はこれで」


 時折気絶した保安局員が吹き飛んでくる中ではあったものの、華麗に躱しながら出発予約を取り付けた。


 

 機関車のセルモーターを回すとエンジンに炎が灯り、煙突からは濛々と黒煙が上がるがすぐに透明な煙へと変わる。


 エンジンが快調に回りだし、準備は整った。後は後続の企業列車の通過をまって発車となる。


「……この仕事が終わればしばらくは休暇、もうひと頑張り!」


 直近二、三回の配送は休養を挟まずに働いていたこともあり、何処かで休暇を取ろうと前々から考えていたアキにとってクボタは休暇を取るには天国のような場所である。


「水は美味しいしごはんも美味しい、そして何よりお酒!しばらくクボタで暮らしてもいいかな!」


 アキが運転台で皮算用を立てていると仮設ターミナルに接近警報が鳴り響き本線を後発列車が通過していく。


 黒猫をあしらい統一された深緑色と黄色の列車で、ポーターズの内部で総売上一位二位を争う企業ブラックキャット・エキスプレス通称BCepxが所有している一体型列車であった。


「企業所属でポーターとして働いてもいいんだけどー……こういう風に自由に休んだり働けたりできないからやっぱりフリーランスが一番よねぇ」


 通過していくBCepxの列車を見送りつつ適当な考えごとをしているとBCexpの列車は通り過ぎアキの列車が停車している待避線の信号が青へと変わる。


 出発を知らせる長い警笛を鳴らすとブレーキを解除してアクセルハンドルを少し開く。少し動き出した所で全開にして加速をすると後ろの貨車たちの連結器が伸びガッガッガッと大きめの音を立てて動き出す。


 駅構内は徐行しながら走行し、列車の最後尾が待避線を離れ抜けたのを確認してから列車を更に加速させる。


「さぁー、もう少し我慢したら休暇!美味しもの食べて、美味しいお酒も飲んで食べて呑んで呑みまくるぞー!」


 仮設ターミナルが見えなくなると開拓されたばかりで何も植えられていない茶色の田園地帯に挟まれた鉄路を進むアキの操る列車、目的地のクボタ商家国はあと少しであった。

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