Journrys Stranded
クボタの定期ラジオが聞こえてきたということはもうすぐクボタのコロニーのはずなのだが遠くにクボタの明かりが見えるだけで一行にたどり着けない。
一度は安堵したものの再び不安に襲われるアキであったが前方に青色と黄色の信号を視認しようやくクボタの警戒圏内にたどり着くことができたと安堵するものの、青色だけでなく黄色信号……減速信号が灯っていたことに一抹の不安つつも速度を落とし、警笛を高らかに慣らして接近を知らせた。
信号を無視して通過してもよいのだがその場合は協定違反、もしくはテロリストと判断され破壊措置命令が出されるので黙って従う。
やがて前方には投光器が煌々と焚かれたターミナルのような駅が見えてくると信号は黄色一灯の注意信号へと変えられ、本線から待避線へと列車は侵入しついには赤色の一灯、停止信号が灯っていた。
列車を完全に停止させると列車の外には係員が数人立っていた。一人は何も持っていないようであったが背中に自動小銃を背負い、後の二人は完全武装の上で自動小銃を構えていた。
「我々はクボタ保安局のものだ。ポーターは即座にポーターズパスを……ってお前さん、アキか。久しぶりだな?元気にしてたか?」
「あれ?マサヨシさん?前は到着ターミナルの保安局にいなかった?」
「新しく開拓前線の仮設ターミナルに赴任になったのさ」
アキがかつてクボタを拠点として運び屋業をしていた頃に顔見知りとなったマサヨシという保安局員、ポーターズパスを見せると簡単な照会がなされた後返却される。
「最近姿を見ないとは思ってたんだけど何処で稼いでたんだ?」
「最近はダテより南の方でね。なんだか南の方がきな臭くなってきてこっちに戻ってきたの。んでさ、できれば今日中にクボタのコロニーに入りたいんだけど……無理かな?」
「今日中か?今日は無理だよ。ラジオ聞いて無かった?アレが最終列車として運行される予定だからな」
「アレ?」
「ほら、クボタのアレだよ」
「あぁ……そういうことね。じゃあ無理じゃん……」
アキの閃きと落胆が同時に訪れたのと時を同じく独特の汽笛が聞こえ初める。本線場内信号が赤色から青色の三連灯に替えられ、アキが牽引してきた列車の後方、先程通ってきた線路の先にヘッドライトの小さな明かりが見えた。
列車の接近を知らせるサイレンが仮設ターミナル内鳴り響き物々しさを醸し出していた。マサヨシは懐から懐中時計を取り出すと軽くうなずき、『定刻通りの通過……と』呟く。
ヘッドライトの明かりが近づくと再び独特な汽笛の音色が響き渡る。先程よりも爆音を鳴らしながら地鳴りとともに高速で仮設ターミナルの本線へと侵入してきた。
「……コロニー間の官営定期列車かぁ、門限前に来ても駄目ってワケね。あーあ、一人でテンパって損しちゃった」
運転席からため息をつきながらそう呟く、列車を先陣を切って通過して走り抜けるのは白式車輪配置2ー8ー8ー4(前方補助輪が二輪、動力を伝える駆動輪が1セット4輪が2セット、後方補助輪が4輪)の化け物機関車重連運転で走り抜ける。
アキの操る機関車とは出力方式が異なるが単純に考えると2両分の機関車が1両になった機関車、それが2両連なっているのである。この化け物機関車が牽引するのはコロニー間を結ぶ定期列車、ポーターズ協会の定める優先順位では企業列車のその上、最優等と定められ他列車はこの定期列車の進路を妨げてはならないというルールが存在していた。
アキ自身何度かお目にかかることこそあれどいずれもコロニー駅構内でしか見たことがなく、こうして高速走行で駅構内に侵入してきたのを見るのは初めてであり圧倒されていた。巨大な排障器を装備した機関車が通り過ぎるとその後ろに繋がる客車も規格外であり稲穂が描かれた総二階建て客車や大砲や重機関銃を積んだ武装車が続いていた。
「やっぱり大きいなぁ、コロニーの定期列車っていうのは。ポーターの旅客列車とは大違い」
「……総二階建てロング客車二七両、シールダー貨物車一八両、護衛客車五両と我がコロニーの最新機関車、機関車2両分のパワーのあるT一八型機関車、通称タフマンの重連が牽引する列車……惚れ惚れするぐらい美しいですよね」
「え、ええ……そうですか、それは随分と良いご趣味をお持ちで……」
「あんな馬鹿でかい機関車を所有しているコロニーに住んでるなんて一種のステータスなんですからね!」
「ず、随分と良いステータスですね……」
随分と熱のこもった解説をするマサヨシの話は暫く続きそうな雰囲気を醸し出していたのでアキは話の腰を折るようで申し訳ないとは思いつつも話題を変える。
「あー……マサヨシさん?門限過ぎたから、明日まで一泊することになるんだから、おすすめのお店かなにか教えてもらってもいい?」
「店?メシ屋か?夜中までやってる開拓者向けの店ならいくつかあるが……」
「ならちょうどいいや、そこのおすすめ教えて」
「そうだなぁ……俺のおすすめは屋台街の赤い提灯がぶら下がってる屋台だな」
「赤提灯の屋台ね。ありがと!」
機関車から自室兼寝室の客車へと戻ると汗の匂いが少し香る作業着を脱ぎ捨ててシャワーを浴び、デニムズボンにワイシャツとラフな格好で列車を離れ、仮設ターミナルの端のほうに設けられた屋台街の入口へと向かった。
「えーと……赤い提灯、赤い提灯と……あった。あれかな?」
マサヨシから紹介された赤提灯の屋台は屋台街の入口からさほど遠くない場所にあり、近づくにつれて炭火でなにかを炙る香りの漂いがどんどんと強くなっている。
赤い暖簾をくぐれば歳を食った男性がラジオに耳を傾けていた。邪魔したかな?と思い退散しようとしたアキであるが店主に気が付かれてしまった。
「らっしゃい。アンタ一人かい?」
「ええ、大丈夫ですか?」
「構わねぇよ。で、注文は?」
カウンター席に座ると真っ先に目に入るのはメニュー表、どうやら串に指した鶏の焼き肉がメインで酒飲み用の物が多そうであった。
「おやじさん、これは……」
「もちろん有機物さ。合成食糧なんてクボタじゃ逆に珍しいぞ」
「そうよね、やっぱりクボタは農業コロニーだけはあるねじゃあ、これとそれ……後はこれももらいましょうか」
「飲み物はどうする?」
「の、飲みたい……けど明日も仕事だしこの仕事が終わればしばらくは羽を休めることができるし今日は我慢……!」
「そうかい、ちょいと待ってな」
赤々と光る炭火の上に串へ刺された鶏の肉と皮がそれぞれ2本づつ寝かされてあぶられている。炭火に落ちる鶏の油が小気味の良い音を立てて食欲を誘う。
ある程度焼けたの確認すると片方には傍らに置かれていた壺につけると一瞬にして黒く染め上げられてまた網の上に乗せ、香ばしい香りがアキを襲っている。もう一本は軽く白い結晶を軽くまぶす。
さらに良い香りがアキの空腹と飲酒浴を掻き立てた。
(うぅ……飲みたい、のみたい……おさけがのみたい。合成でも何でもいいからのどを潤したいぃ……)
酒への渇望がアキを襲うがここはなんとかぐっとこらえて水をあおって酒への渇きを潤す。
「はいお待ち、トリのモモ串とカワ串、味はそれぞれ塩とタレだ」
いい香りを漂わせて眼の前に出された鶏串へ手を伸ばす……前に大事なことを忘れていた。
「いけないいけない……大切なことを忘れてた」
そういうと両手をあわせる。
「いただきます」
食材への感謝をしっかりと済ませて早速モモ串を手に取る。肉汁をまとった一口サイズに切られた鶏肉を口へ運ぶとまだ熱く少しの間踊らせておいてから噛みしめる。
……がまだ内部は熱いのか口内がやけどをしそうになっていたがその肉汁の旨さと甘しょっぱいタレの味を舌が感じ取っていた。
「おいしい、だけどやっぱり……」
お酒呑みたいという言葉を水で流し込んで口に出さないようにする。口に出してしまえば止まらなくなってしまうことがわかりきっているからである。なので別の方法で喉の渇きを潤そうとした。
「……すいません。ごはんってあります?」
「あるよ。山盛りかい?」
アキが小さく頷くとすぐさま茶碗へ山盛りになったライスが差し出される。
「ほふっ……ほふっ……ごはんにも合う!」
「あんちゃん、いい食いっぷりだが、酒は呑まないのか?ウチに来る客のほとんどが酒を頼むが……」
「明日も仕事なので遠慮しておきます……まぁそれが終わればしばらくはのんびりしてクボタで過ごす予定ですけどね」
「ほぉ、アンタポーターか。クボタは合成食糧がほとんどないコロニーだからなゆっくりしていくといいさ」
「大将、おかわり。えーと……豚の串焼きと……あっこのセセリ?とかいうものをもらってもいいですか?」
「はいよ、ちょっとまっててな」
その後、アキは山盛りの白米を2杯分平らげた上、串焼きを二桁ほど食べて自分の列車に戻り、煙臭い衣類を脱ぎ捨てそのまま泥のようにベッドに潜り混むとそのまま夢の世界へと旅立った。
翌朝、客車の扉をノックする音で目が醒めたアキ、身体を起こしてカーテンの隙間から窓の外を眺めると既に日の出の時間は過ぎており、少し朝霧が立ち込めていた。
「はいはい、今行きますよぉ……」
重たい眼を擦りながら扉を開けると肌寒さを感じつつも来客に対応する。他のポーターたちの列車が動く中の来客はクボタの保安局職員であったがマサヨシではなく、服に着られているような感じがするアキよりも若い新人の職員のようであった。
「!?お、おはようございます」
「おはよう~、どうかしました?」
「あ、え、えっと……今日の出発はいつ頃をよ、予定しておりますか?」
緊張しているのか言葉がたどたどしく、顔を真っ赤に染め上げている。
「そうねぇ……朝ごはんを食べてからだからもう少ししてから……かな?出発するときに声をかけるからよろしくね」
「わ、わかりました……そ、その、ひとついいですか?」
「ん?どうしたの?私になにか質問?」
何かを言いづらそうにしているがもったいぶらずにいってほしいと思っていると踏ん切りがついたのかその理由を話してくれる。
「そ、その……ふ、服を着てください……下着姿で外に出てうろつくのはやめてください」
その言葉を聞きアキが視線を下に向けるとそこに服は無く、スポーツブラにパンツという下着姿、到底人前に出る格好をしていなかった。
「……………………見た?」
「はい、ばっちり……」
「今すぐ忘れなさい?いいね?」
返事も聞かずに扉を締めた。そういえば昨日服脱いだまま寝たんだっけ……と思いつつ服を着る。昨日のは煙臭いので洗濯をしつつ別の服へと着替えて朝の屋台街へと足を延ばした。
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