第13.5話|配置

夕方、家の門を出たところで、二郎の隣に人影があった。

リアは歩みを緩める。


松本綾香。

先輩、と呼ぶ声は聞こえない距離でも、位置は分かる。


並んでいる。

肩を寄せるほどではない。

だが、離れてもいない。


護衛の距離ではない。

世話の距離でもない。


偶然にしては、近い。


リアは門の内側で立ち止まり、視線だけを一度送る。

二郎は何も変わらない歩調で歩き、綾香も同じ速度で動く。

会話の形はない。

それでも、配置が揃っている。


リアは扉を閉めた。

息を整える。

今日の食卓は、いつも通りでいい。

今は、まだ。



局内の端末に、提出物が一つ追加される。

文面は整っている。

数値も並び、結論も定型の範囲だ。


担当者は画面をスクロールし、別のログを開く。

行動履歴。

滞在時間。

距離の推移。


一定の線が、昨日と違う形を描いている。


規定の枠内。

記録上の問題はない。


ただ、距離が近い。


担当者は画面に小さく印を付け、閉じる。

連絡はしない。

今は、まだ。



夜。

机の上に置かれた紙を、悠介が一枚めくる。


松本の報告書。

文字は淡々としている。

数字は揃い、余計な装飾がない。


悠介は末尾まで読み、指先を止めた。

余白がある。

彼女は、そこを埋めない。


静かに息を吐く。


「……近づいたか」


声は誰にも届かない。

ただ、部屋の空気だけが少しだけ動く。


悠介は書類を重ね、目を伏せた。

叱る理由はない。

戻す理由もない。


だが、目を離す理由もなかった。



それは問題ではなかった。

ただ、配置が変わっただけだ。

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