第11話|小さな事件
放課後の校庭に出ると、
まだ人が残っている。
部活帰りの声が、
あちこちで途切れながら流れている。
俺は校舎を出て、
その中を横切る。
理由はない。
近道だから、それだけだ。
フェンス沿いの端に、
何かがある。
最初は、影だと思った。
夕方は影が多いし、
別に珍しくもない。
でも、
歩きながら、違和感が消えない。
地面に馴染んでいない。
光の向きとも合っていない。
風に揺れる草とも、
動きが噛み合わない。
――気のせいか?
そう思ったまま、
足は止まらない。
止まる理由が、ない。
距離が縮まる。
十メートル。
五メートル。
近づくにつれて、
それは影じゃなくなる。
輪郭が崩れて、
濃淡だけが宙に浮いている。
胸の奥が、
少しだけざわつく。
――なんだよ、これ。
考えるより先に、
それはほどけた。
破裂じゃない。
消えた、という感じでもない。
霧が薄くなるみたいに、
最初から形なんてなかったみたいに、散る。
音はない。
風も動かない。
足元の砂も、そのままだ。
ただ、
一瞬だけ、
空気が冷えた。
俺は立ち止まって、
そこを見る。
フェンスと、
地面と、
夕方の光。
それだけだ。
「……二郎!」
後ろから、声が飛んでくる。
振り向くと、
ほむら先輩が走ってきていた。
少し息が乱れていて、
視線が落ち着かない。
校庭を見る。
次に、俺を見る。
「今、ここで――」
言いかけて、
止まる。
「何かあったんですか?」
そう聞くと、
先輩は答えない。
地面を見て、
周りを一度だけ確かめる。
何もない。
俺にも、
そう見える。
「……いや」
先輩は、
無理に笑った。
「勘違いかもな」
そのまま、
何もなかったみたいに立ち直る。
でも、
その顔は少し硬い。
俺はそれ以上聞かず、
空を見上げる。
夕焼けが、
さっきより少し暗くなっている。
校庭には、
最初から何もなかったみたいに、
世界が続きを始めている。
風だけが、
吹いていた。
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