第3話|静かな密度

夜になると、

俺は部屋の明かりを落とす。


床に座り、背筋を伸ばす。

目を閉じる。


呼吸を整える。

雑念を追い払う。


息を吸う。

体の奥にある何かを、

ゆっくり下へ沈める。


吐く。

それが逃げないように、

押し留める。


力を入れてはいけない。

動かしてもいけない。


ただ、

そこに“ある”と認識し続ける。


これを、毎晩やる。


やらないと、

眠れないからだ。



翌朝。


目覚めた時、

体に違和感はない。


布団から起き上がる動作も、自然だ。


歯を磨きながら、

姿勢が崩れない。


階段を下りても、

足音がほとんどしない。


意識しているわけじゃない。

気づけば、そうなっている。


リアに挨拶をして、

朝食を取る。


特別なことは何もない。


ただ、

いつも通りの朝だ。



校舎に入って、

靴を履き替えたところで声がした。


「……また薄くなってるぞ、ジロウ」


十六夜ほむら先輩だった。


「は?」


聞き返すと、

先輩の視線が一瞬、足元に落ちる。


「……いい。じゃあな」


それだけ言って、歩いていった。


俺は立ち止まらない。

そのまま、教室へ向かう。



吹き抜けの前を通った時だった。


「……氷室先輩」


呼ばれて、振り向く。


松本綾香が立っている。

今日は、向こうから来た。


「少し、いいですか」


「何か用?」


「……ここにいても、

 あまり気配が……」


言葉が途切れる。


一拍。


「再測定が必要です……」


そう言って、

彼女は小さく頭を下げた。


「……また」


それで終わりだった。

 

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