第3話 事故―電流走る高速道路

警告は、遅れてやってきた。


《雷電荷上昇。自動減速フェーズに移行します》


無機質な声が、ハイウェイ全体に薄く広がる。だが、その頃にはもう、誰も減速する気分じゃなかった。


ライデンは走っていた。

前を、ヴェノムが走っている。


雲はさらに低くなり、路面の発光ラインが不規則に瞬いた。青だった光が、白に変わり、時々、紫に滲む。電流が多すぎる。そういうとき、決まって何かが起きる。


「まだ行くの?」


ユナの声が、耳の奥に直接届く。


『この区画、事故率が跳ね上がってる。今は——』


「今しかない」


それ以上は聞かない。

回線は、自然に切れた。


前方で、光が弾けた。

トラックが一台、横を向く。積荷の金属コンテナが発光ラインに触れた瞬間、稲妻が走った。白い光。空気が裂ける音。


それは、一つの事故じゃなかった。


連鎖だ。


電流が路面を這い、車列を飲み込む。

自動運転車が次々と停止し、後続が追いつけずにぶつかる。金属とガラスの音が、雷鳴に混じる。


ハイウェイは、設計通りに壊れていく。


ライデンは減速しない。

ヴェノムも同じだ。


むしろ、相手はわざと速度を落とした。

距離が縮まる。


「事故は好きじゃない」


外部スピーカー越しの声。妙に落ち着いている。


「でも、混乱は嫌いじゃない」


ライデンは何も答えず、距離を詰める。

五メートル。

三。


その瞬間、雷が落ちた。


発光ラインが一斉に暴走する。

電流が跳ね、空気が歪む。


衝撃。


バイクが浮いた。

ハンドルが軽くなり、次の瞬間、重くなる。


世界が、少し回転した。


ガードレールが迫る。

判断に使える時間は、ほとんどない。


ライデンは体を倒し、左腕を伸ばした。

高周波ブレードが路面を削る。


火花と電流が散り、衝撃が逃げる。

バイクは、かろうじて直進を保った。


呼吸が、乱れる。

それだけ。


前を見る。


ヴェノムは、事故の中心を抜けていた。

爆ぜる光の中、影だけが先へ進む。


「……逃げる気か」


声に出したが、意味はない。


ライデンは再びスロットルを開いた。

速度が、もう一段上がる。


事故現場を抜けると、視界が開けた。

高架に入り、都市の光が遠ざかる。


その先に、古い料金ゲート跡が見えた。

今は使われていない。誰も、通らない。


ヴェノムが、そこで止まった。


ライデンも、距離を保って減速する。

雨が、細かく降り始めていた。


「ここなら、邪魔は入らない」


ヴェノムが言う。


「そうだな」


短く返す。


二人はバイクを降りる。

地面に、水たまりが揺れる。


ライデンの左腕で、ブレードが低く唸った。

雷鳴が、もう一度、空を叩く。


事故は、終わっていない。

形を変えて、ここに来ただけだ。

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