第11話 ストライキ決行! そして明かされる衝撃の真実(離乳食)~
「給料を上げてください! さもなくば、本日をもって業務をボイコットします!」
日曜日の夕方。
喫茶『デッドオアアライブ』の店内で、私はテーブルをバン! と叩いた。
目の前には、高橋司令官と、リモートではなく久しぶりに実体(?)で店に顔を出した星空希星(きらら)副官がいる。
「や、山田君。急にどうしたんだね」
司令官が冷や汗を拭きながらおろおろしている。
「急じゃありません! 積もり積もった不満です!」
私は指を折りながら捲し立てた。
1.私だけ物理攻撃で負担が大きい(タライ被害含む)。
2.私だけ独り身で精神的ダメージが大きい(リア充被害)。
3.装備のメンテナンス費(湿布代など)がかさむ。
「よって、基本時給のアップと、『危険手当』および『独身手当』の支給を要求します!」
私の魂のプレゼンに、後ろに控える四人(カップル二組)も「まあ、恵子ちゃんが一番体張ってるしね……」「僕らは異論ないよ」と頷いている。
当然だ。あんたたちがデートしてる間に、私は一人でショッピングモールを守ったんだからね!
「うーん……気持ちは分かるんだけどさぁ」
希星副官が、気だるげにコーヒーを啜った。
「無い袖は振れないのよ。ウチ、本当に自転車操業だから」
「嘘です! 怪人を倒して回収してる『欲晶石』があるじゃないですか! あれ、レアメタルとか宝石みたいなものですよね? 売れば巨額の利益が出てるはずです!」
そう、そこが最大の疑問だ。
毎回回収しているあの綺麗な石。あれを換金すれば、柔道着の一つや二つ、新品が買えるはずなのだ。
「ああ、あれね……」
司令官と副官が顔を見合わせた。
そして、副官が足元のベビーベッドを指差した。
「ちょうどお食事の時間だし、見る?」
「はい?」
ベッドの中で、生後半年くらいの赤ちゃんがモゾモゾと動いている。
二人の愛息子、『カケル』くんだ。
くりくりとした大きな瞳。ぷにぷにのほっぺ。天使のように可愛い。
「ばぶー」
カケルくんが、小さなお手々を伸ばしてくる。
「可愛い……!」
恵美や真由美ちゃんが目を輝かせて覗き込む。私もつい、「か、可愛いですね……」と毒気を抜かれてしまった。
その時だ。
希星副官が、ポケットから無造作に『欲晶石(ピンク色)』を取り出した。
昨日、私たちが命がけで回収したものだ。
「はい、ごはんよー」
彼女はそれを、あろうことか赤ちゃんの口元へ持っていった。
「ちょ、何してるんですか!? 誤飲しますよ!」
私が止めようとした瞬間。
バリボリッ。
小気味いい音がした。
カケルくんが、硬い石を煎餅のように噛み砕き、ニコニコしながら飲み込んだのだ。
「「「えええええええ!?」」」
私たち全員が絶叫した。
消化器官どうなってるの!?
「美味しい? よかったねー」
希星副官が頭を撫でている。
司令官が、申し訳なさそうに説明を始めた。
「……実はね。カケルは地球人と異星人(希星)のハーフなんだ。地球の食べ物だけじゃ栄養が足りなくて、成長には高密度のエネルギー結晶体……つまり『欲晶石』が必要不可欠なんだよ」
「え……」
「君たちが集めてくれた石は、換金してるんじゃない。全部、この子のミルク代?離乳食?代わりになってるんだ」
沈黙が流れた。
私たちは呆然と、ゲップをしているカケルくんを見つめた。
「じゃあ、私たちの戦いは……」
「世界平和とか、地球防衛とか言ってたけど……」
真琴君が震える声で核心を突いた。
「ただの、『離乳食集め』だったんですか……?」
「まあ、結果的に地球も守れてるから一石二鳥じゃん?」
希星副官が悪びれもせずに言った。
「ふざけんなぁぁぁぁ!!」
私は叫んだ。
世界を救う善行だと思っていたのに!
まさか他人の家の子育てを手伝わされていただけだったなんて!
「詐欺だ! こんなバイト辞めてやる!」
「そうだそうだ! 僕たちはベビーシッターじゃない!」
私たちが暴動を起こしかけた、その時。
ウ〜〜〜〜〜!!
店内に緊急警報が鳴り響いた。
「え、敵!? こんな近くに!?」
モニターに表示されたのは、喫茶店のすぐ外、商店街の入り口だ。
「マズい! 『欲晶石』の匂いを嗅ぎつけて、直接店を襲いに来たのかも!」
司令官が焦る。
「保護者は!? 誰か呼んで!」
「今はシフトの入れ替わり時間だ! 全沢君は帰ったし、森君はまだ店(バー)を開けてない!」
最悪のタイミングだ。
大人は役に立たない。戦えるのは私たちしかいない。
「……どうする? ストライキ中だけど」
絵理於が私を見る。
私はチラリとベビーベッドを見た。
カケルくんが、無邪気な笑顔でキャッキャと笑っている。
この子が食べられちゃうわけじゃないけど、店が壊されたらこの子の寝る場所がなくなる。
「……はぁ」
私は深く、深〜く溜め息をついた。
そして、腰の『黒帯』をギュッと締め直した。
「保護監督者が付いてないからって、今回の討伐はノーカンとかになりませんよね?」
高橋司令官を睨みつける。
司令官はうんうんとうなづいている。
「……バイト代の為店行くわよみんな!」
「了解! まったく、恵子ちゃんはお人好しだなぁ」
私たちは店を飛び出した。
***
外には、巨大なフォークとナイフを持った怪人『偏食の怨念』が待ち構えていた。
「ウマソウナ……ニオイ……!」
怪人が店に向かって突進してくる。
「させるか!」
真琴君が『ソニック・ダーツ』を投げる。速い! ナイフを弾き飛ばす。
「爆発しちゃえ!」
恵美の『ブラスト・アーチェリー』がフォークを爆破する。
「ギャッ……!」
怪人が怯んだ隙に、私は突っ込んだ。
「食事の時間は終わりよ! さっさと帰って永遠に寝てなさい!」
私は怪人の足を払い、宙に浮いたところを襟を掴んで叩きつけた。
大外刈り!
ズドォォォン!!
怪人はアスファルトにめり込み、光となって消えた。
カラン……。
大きめの欲晶石が転がる。
「……ふぅ」
私が石を拾い上げると、店からカケルくんを抱いた希星副官が出てきた。
「ありがとー。助かったわ」
「……勘違いしないでください。時給分働いただけです」
私がそっぽを向くと、カケルくんが私に向かって手を伸ばし、「あー、うー」と何かを訴えてきた。
その目は、私の手にある石に釘付けだ。
「……欲しいの?」
「あー!」
私は苦笑いして、石をカケルくんに渡した。
カケルくんは嬉しそうに石を抱きしめ、バリボリと食べ始めた。
……いい音だ。
「……まあ、いいか」
その笑顔を見たら、賃上げ交渉をする気力が抜けてしまった。
私たちは顔を見合わせて笑った。
「しょうがないね。カケル君の食費のためなら」
「僕たちが稼ぐしかないか」
こうして、私たちのバイトの目的に「赤ちゃんのご飯確保」という、妙に生活感のあるミッションが追加されたのだった。
……でも、危険手当だけは諦めてないんだから!
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