第8話 装備のアップデートには、致命的なバグがつきものです~


 その日、喫茶『デッドオアアライブ』のテーブルには、見たことのあるような、ないようなガラクタ……もとい、装備品が並べられていた。


「フォッフォッフォ。君たち、昨今の戦い(主に保護者による被害)を見ていて思ったのだよ。このままではいかんと」


 モニターの中で、高橋司令官が得意げに煎餅をかじっている。


「そこで! 夜なべして君たちの武器を改造しておいたぞ。ド⚪︎キのおもちゃがあら強い!名付けて『Ver.2.0』だ!」

「へぇー! おじさん、やるじゃん!」


 恵美が目を輝かせて、自分のアーチェリーセットを手に取った。

 見た目は変わらないが、矢の先端が少し赤くなっている。


「それは『ブラスト・アーチェリー』だ。当たると爆発する火薬を仕込んでおいた。範囲攻撃が可能だぞ」

「マジ? 花火みたいでアガる〜!」

「僕のは……?」


 真琴君がダーツの矢を検分する。


「『ソニック・ダーツ』だ。空気抵抗を極限まで減らした。その腕力で投げれば鉄板も貫けるし、衝撃波も出る」

「なるほど……。これで妹の睡眠を妨げる敵を、より速やかに排除できる」

「アタシのは粘着弾ね? うふふ、動けなくしてからじっくり料理できるなんて素敵」


 絵理於は改造されたエアガン『スパイダー・エアガン』を愛おしそうに撫でている。怖い。

 みんな順当に強化されている。

 私は期待を込めて、自分の前に置かれたものを見た。


 それは、ただの黒い帯だった。  


「……司令官、これは?」

「『黒帯』だ。素材に特殊な繊維を織り込んである。これを腰に巻いてグッと締めると、筋力のリミッターが外れて馬鹿力が出る」

「筋力……。結局、フィジカル頼りなんですね……」

 


 魔法のステッキとか、ビームが出る手袋とか期待した私が馬鹿だった。

 でもまあ、柔道着には帯が必須だし、幸い私は柔道二段なので、色的にも丁度いいしありがたく受け取った。でも流石に試合で使ったら怒られるかな、これ。


「で、最後は真由美ちゃんだが……」


 司令官が言葉を濁す。

 真由美ちゃんの手には、新しいルービックキューブが握られていた。


「これ……前のと、回し心地が違う……」

「うむ。それは『試作型ルービックキューブ・改』だ。召喚のアルゴリズムを弄って、攻撃的な何かが出やすくなっている……はずだ」

「はず?」

「いや、ちょっと調整が間に合わなくてね。8割くらいバグるかもしれんが、まあ実戦データ取ってみてよ」


 なんて無責任な。


 真由美ちゃんは「実験……ふふ、面白そう」と不穏な笑みを浮かべている。


 ***


 そしてその夜。

 私たちは早速、新装備のテストを兼ねて現場に向かった。

 今日の引率は全沢さんだ。


「皆さん、今日はなるべく早く終わらせてくださいね。私、胃の調子が…新規の融資の申し込みの書類が不備で……」 


 全沢さんはぶつぶつと仕事の愚痴?を呟きながら電柱の陰で胃薬を飲んでいる。

 大丈夫、今日は私たちが主役だ。

 現れた敵は、繁華街の裏路地に湧いた『迷惑なポップアップ広告の怨念』だった。

 無数の看板が空中に浮遊し、それが組み合わさって多脚戦車のような形をしている。 


「『今ナラ無料!』『クリックシテ!』『バツボタンハ、アリマセン!』」


 怪人が無数の看板を飛ばしてくる。視界が遮られて鬱陶しい!


「もう、邪魔だよぉ! 前が見えないじゃん!」


 私が看板を手で払い除けていると、絵理於が前に出た。 


「あらやだ、強引な勧誘は嫌われるわよ? いけっ!」


 パシュッ! 


 絵理於のエアガンから放たれた弾丸が、怪人の中心部に命中する。

 パンッ! と弾が弾け、中から白いネバネバした糸が網のように広がった。


「『クリック』……デキナイ……!?」  


 怪人の動きが止まる。

 凄い、本当に拘束した!


「今だマコト!」

「ああ。妹が見ているアニメの邪魔はさせない!」


 真琴君(今日はプ⚪︎キュア風衣装)が、鋭い投球フォームでダーツを投げた。

 なんだろ、ダーツってああいう投げ方なのかな?野球のピッチャーみたい。


 ヒュンッ!!


 空気が裂ける音がして、看板の装甲が紙のように貫かれた。


「ギャッ……!」

「トドメはアタシ!」


 恵美がウインクをして矢を放つ。


 ドォォォン!!


 着弾と同時に派手な爆発が起き、怪人のパーツがバラバラに吹き飛んだ。 


「やった! みんな強い!」


 私は感動した。これだよ、これ! ようやく魔法少女チームっぽい連携ができた!

 全沢さんも「おお、素晴らしい!」と拍手している。


 しかし。


 煙の中から、まだ怪人のコア部分がフラフラと浮き上がってきた。しぶとい。


「……私がやる」


 のそのそと真由美ちゃんが前に出た。

 彼女の手の中で、新しいキューブがカチャカチャと高速回転している。

 私一回も、一面すら色揃えた事ないのに真由美ちゃんって凄いな。


「赤、揃った……!なにが出てくるの?」


 怪人の頭上に魔法陣が展開される。

 さあ、何が出るの!? ドラゴン? 雷? 


 ――ヒュン。


 魔法陣から何かが落ちてきた。

 黄金に輝く、金属製の……タライ?

 え、ちょっと待って。

 その落下地点、怪人じゃなくて……。


「え?」


 ガァァァァァァァン!!!!!


 凄まじい金属音が夜の街に響き渡った。

 私の脳天に、激痛が走る。


「いったぁぁぁぁぁ!?」


 私は涙目でうずくまった。

 嘘でしょ? なんでまたタライ? 怪人はあっちだよ!? わざわざこっちまで移動してくるとかあり得なくない?


「……あ、今回はハズレか…ごめんね。次は二面揃えてやってみるね」


 真由美ちゃんがテヘッ、と舌を出している。可愛くない!


「もう…ハズレはいいとして、前回といい今回といいなんで私なの!?」  


 私が抗議の声を上げると、怪人がその隙を

突いて襲いかかってきた。


「『キャンセル』……サセナイ!!」

「危ない恵子ちゃん!」


 全沢さんが叫ぶ。

 私は反射的に、腰の『黒帯』をギュッと締め直した。

 その瞬間。


 ドクンッ!


 心臓が早鐘を打ち、全身の筋肉が熱く脈打った。なんだこれ、力が湧いてくる! 


「……えいっ!」


 私は突っ込んできた怪人の看板アームを掴むと、そのままの勢いで投げ飛ばした。

 技術も何もない。ただの腕力だ。 


 ブンッ!!


 怪人の巨体が、ピンポン球のように夜空の彼方へ飛んでいき、空中でキラリと光って消滅した。


「……え?」


 全員が口を開けて空を見上げている。

 私も自分の手を見つめた。

 今、手首のスナップだけで投げたよね?


「……フィジカルお化けだ」

「恵子ちゃん、ゴリラ……」

「アタシたち、いらなくない?」

「ちょっとみんな、ひどくない!? 私、か弱い女子高生だよ!?」


 私の抗議の声は虚しく響いた。

 全沢さんが「と、とりあえず勝ちましたね……」と引きつった笑顔で胃薬を追加した。


 パワーアップは成功した。


 ただし、私の「人間離れ」と「不運属性(タライ)」も同時にアップデートされてしまったようだった。


 所で欲晶石はどこに落ちたのかな。

 壊れてないといいけど。

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