第23章「技術者の対話」


魔王城の門は、開かれていた。


まるで、招き入れるかのように。


カイトたちは、列車を降りて、城に入った。


廊下は静まり返っている。だが、濃密な魔力が渦巻いている。


やがて、大広間に到着した。


そこには、タケシが待っていた。


そして、その後ろにダークネスが控えている。


「よく来たな、カイト」


タケシが、静かに言った。


「君たちの戦いぶりを見ていた。両国の騎士が協力して戦う姿。それは、美しかった」


「タケシさん……」


「だが、それは一時的なものだ。戦争が終われば、また争いが始まる。人間とは、そういう生き物だ」


タケシの声には、諦念があった。


カイトは、一歩前に出た。


「いいえ。人間は、変われます」


「変われる? 何を根拠に」


「僕が、見てきたからです」


カイトは、これまでの旅を振り返った。


「最初、商人ギルドは僕を敵視しました。でも、対話を重ねて、協力関係を築けました」


「それは、利益のためだろう」


「そうです。でも、利益のために協力することも、一つの進歩です。殺し合うより、ずっといい」


カイトは、続けた。


「帝国とも、最初は対立しました。でも、共同研究を通じて、信頼を築けました」


「それも、一時的なものだ」


「いいえ。一度築いた信頼は、簡単には崩れません。人間には、記憶があります。一緒に作ったものを、一緒に戦った記憶を、忘れません」


カイトの言葉に、タケシは黙った。


カイトは、さらに続けた。


「そして、民衆が立ち上がりました。技術を平和のために使おうと、声を上げました」


「それは、君に扇動されたからだろう」


「違います。彼らは、自分の意志で立ち上がったんです。技術の恩恵を受けて、それを守りたいと思ったから」


カイトは、タケシの目を見た。


「タケシさん、あなたは人間を信じることを、諦めた。でも、僕は諦めません。人間は、愚かです。間違いを犯します。でも、学びます。成長します」


「甘い」


タケシは、首を横に振った。


「三十年、私は見てきた。人間は、同じ過ちを繰り返す。歴史は、それを証明している」


「でも、少しずつ、良くなっています」


カイトは、強く言った。


「昔は、奴隷制度がありました。でも、今はありません。昔は、女性に権利がありませんでした。でも、今は変わりつつあります。時間はかかります。でも、人類は進歩しています」


タケシは、しばらく沈黙していた。


そして、ゆっくりと口を開いた。


「君は……本当に、信じているのか。人間の未来を」


「はい」


カイトは、即座に答えた。


「信じています。そして、僕は技術者として、その未来を作る手伝いをします」


タケシは、深く息を吐いた。


「ならば、私は君に問う。技術者の責任とは何だ?」


「技術を作ること。そして、その使われ方を見届けること。悪用されれば、対策すること。それを、諦めずに続けることです」


「諦めずに?」


「はい。失敗しても、裏切られても、諦めない。それが、技術者の使命です」


カイトの言葉に、タケシの目に光が宿った。


「君は……私が失った何かを、持っている」


「それは、何ですか?」


「希望だ」


タケシは、玉座から立ち上がった。


「私は、希望を失った。だから、全てを破壊しようとした。でも、君は違う。君は、希望を持ち続けている」


タケシは、カイトに近づいた。


「カイト、君に頼みがある」


「何ですか?」


「私を、止めてくれ」


カイトは、目を見開いた。


「止める……?」


「ああ。私は、もう自分で自分を止められない。三十年の絶望が、私を支配している」


タケシの目から、涙が流れた。


「私は、本当は世界を滅ぼしたくなかった。ただ、苦しみを終わらせたかっただけだ。でも、その方法が、破壊しかなかった」


タケシは、膝をついた。


「カイト、君の手で、私を解放してくれ」


カイトは、タケシの前に跪いた。


「タケシさん、あなたは自分を責めすぎています」


「いいや、私は責任を取らねばならない」


「ならば、生きて責任を取ってください」


カイトは、タケシの手を握った。


「死んで終わらせるのではなく、生きて償ってください。あなたの知識を、人々のために使ってください」


タケシは、カイトを見た。


「生きて……償う?」


「はい。あなたには、まだやれることがあります。技術を正しく使う方法を、人々に教えてください」


カイトの言葉に、タケシは震えた。


「私に……そんな資格が……」


「あります。失敗した者こそ、その教訓を伝えられます」


カイトは、強く言った。


「一緒に、新しい世界を作りましょう。技術が人を幸せにする世界を」


タケシは、しばらく沈黙していた。


そして、ゆっくりと頷いた。


「……わかった。私は、君と共に歩もう」


タケシが立ち上がった。


その瞬間、城全体を包んでいた黒い魔力が、消えていった。


まるで、長い悪夢から覚めたかのように。


ダークネスが、驚いた顔でタケシを見た。


「魔王様……?」


「ダークネス、戦いは終わりだ」


「ですが――」


「私の命令だ。全ての魔獣に、攻撃の中止を命じよ」


ダークネスは、しばらくタケシを見ていた。そして、深く頭を下げた。


「……かしこまりました」


こうして、長い戦争は、終わりを告げた。

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