第19章「魔王の正体」



リリアが療養している間、カイトは鉄道建設と魔王城への進軍作戦を並行して進めた。


鉄道は、着実に北へ延びていた。そして、軍も再編成され、魔王城まで残り百キロメートルの地点まで到達していた。


だが、魔王軍の抵抗も激しくなっていた。


毎日のように、魔獣の襲撃がある。そして、謎の黒いローブの男――魔王軍の幹部と思われる存在――も、何度か姿を現した。


「黒竜将軍ダークネス」


捕虜となった魔獣使いが、その名を口にした。


「魔王様の、最も忠実なる僕……強大な力を持つ……」


捕虜は、恐怖に震えながら語った。


「魔王様は……この世界を、滅ぼす……そして、新しい世界を……」


「なぜ、世界を滅ぼすんだ?」


カイトが尋ねた。捕虜は、答えた。


「人間が……悪いから……人間は、愚かで……強欲で……だから、滅ぼさなければ……」


カイトは、その言葉に違和感を覚えた。


まるで、人間に深い失望をしているような口ぶりだ。


魔王は、なぜそんな感情を持つのだろう?


その答えは、思いもよらない形で明らかになった。


ある夜、カイトは陣営で戦術地図を見ていた。


明日、最終決戦の地となる魔王城の直前まで進軍する予定だ。


その時、陣営の外から奇妙な光が見えた。


青白い光。魔法の光だ。


カイトは、外に出た。


光は、北の空から降ってきている。そして、その光の中から、人影が現れた。


黒いローブの男。ダークネスだ。


「人間ども」


ダークネスの声が、夜の闇に響いた。


「明日、貴様らは魔王城に到達するだろう。だが、そこで待っているのは、死だ」


「待て!」


カイトが叫んだ。


「なぜ、魔王は人間を滅ぼそうとする? 理由を教えてくれ!」


ダークネスは、カイトを見た。


「理由? 知りたいか、小僧」


「ああ。もし、対話で解決できるなら、戦いたくない」


ダークネスは、しばらく沈黙していた。そして、口を開いた。


「ならば、魔王様に直接聞くがいい。明日、城で待っている」


そう言い残して、ダークネスは光の中に消えた。


カイトは、その場に立ち尽くした。


翌朝、軍は魔王城へと進軍した。


魔王城は、荒涼とした大地の中央に聳え立っていた。黒い石で造られた城は、まるで闇そのもののようだった。


軍が城の前に到着すると、不思議なことに、魔獣の姿はなかった。


まるで、招かれているかのように。


「罠かもしれんぞ」


レオンハルトが警告した。


「わかっています。ですが、行かなければなりません」


カイトは、決意していた。


エリシア、ガンダル、そしてレオンハルトが、カイトに同行することになった。


四人は、城の門をくぐった。


城内は、静まり返っていた。だが、不気味な魔力が渦巻いているのを感じる。


奥へ進むと、大広間に出た。


そこには、玉座があった。


そして、玉座に座っているのは――


「魔王……」


カイトは、息を呑んだ。


玉座に座っているのは、若い男だった。二十代半ばだろうか。黒い髪、鋭い目。そして、その顔には、深い疲労と哀しみが刻まれていた。


「ようこそ、勇者たち」


魔王が、口を開いた。その声は、意外にも穏やかだった。


「私は、この世界で『魔王』と呼ばれている者だ。だが、本当の名は……タケシ・ヤマダ」


カイトは、心臓が止まりそうになった。


「日本人……?」


「そうだ。私も、君と同じ『転生者』だ」


魔王――タケシが、立ち上がった。


「私は、三十年前、この世界に転生した。そして、私の知識で、この世界に技術をもたらした」


「技術……?」


「ああ。火薬、印刷機、製鉄技術。私は、人々の生活を豊かにしたかった。だが……」


タケシの目が、暗く沈んだ。


「人間たちは、私の技術を戦争に使った。火薬は、爆弾になった。鉄は、剣と鎧になった。そして、隣国同士が、私の技術を使って殺し合いを始めた」


「それは……」


「私は、止めようとした。だが、遅かった。戦争は拡大し、何十万もの人間が死んだ。全て、私の技術のせいで」


タケシの声は、苦痛に満ちていた。


「私は、絶望した。技術で世界を救おうとしたのに、逆に破壊してしまった。そして、理解した。人間は、決して変わらない。どれほど技術が進歩しても、人間は愚かなままだ」


「だから、世界を滅ぼすと?」


カイトが尋ねた。タケシは頷いた。


「そうだ。この世界を一度リセットする。人間を滅ぼし、新しい世界を創る。技術のない、純粋な世界を」


カイトは、拳を握りしめた。


「それは、間違っています」


「間違っている? 何が間違っているというのだ」


「技術が悪いのではありません。使う人間が悪いんです。でも、それは技術の責任じゃない」


「詭弁だ」


タケシは、冷たく言い放った。


「技術を作った者には、責任がある。使われ方を予見し、防ぐ義務がある。私は、それを怠った。だから、責任を取る。この世界ごと、消し去る」


カイトは、タケシを真っ直ぐに見た。


「あなたは、逃げているだけです」


タケシの目が、鋭くなった。


「何だと?」


「責任から、逃げている。技術を悪用されたのは、確かに辛いことです。でも、それで全てを諦めて、世界を滅ぼす? それは、責任を取ることではありません。ただの自己満足です」


「黙れ!」


タケシが、手を振るった。黒い魔力が、カイトに向かって飛んできた。


だが、その前にエリシアが光の壁を展開した。黒い魔力が、光に飲み込まれて消えた。


「カイトの言う通りです」


エリシアが、タケシに向かって言った。


「あなたは、人間に失望したかもしれません。ですが、人間には希望もあります。学び、成長する力があります」


「希望? 成長? 三十年見てきたが、そんなものはなかった」


「それは、あなたが諦めたからです」


カイトが、再び言った。


「技術者の仕事は、作って終わりじゃない。作った後、それをどう使うか、人々に教え、導くことも仕事です。あなたは、それをしなかった」


タケシは、カイトを睨んだ。だが、その目には、動揺の色があった。


「君は……まだ若い。理想を持っている。だが、いつか君も、私と同じ絶望を味わうだろう」


「いいえ。僕は、あなたとは違う道を選びます」


カイトは、真っ直ぐに前を見た。


「僕は、技術を人々に届ける。そして、正しい使い方を教える。失敗したら、学んで、改善する。それが、技術者の使命です」


タケシは、しばらくカイトを見ていた。


そして、深く息を吐いた。


「……君の理想が、どこまで続くか。見せてもらおう」


タケシが、指を鳴らした。


すると、城全体が震え始めた。


「これから、最終試練を与える。私の全力で、君たちを試す。それを乗り越えられたら、話を聞こう」


タケシの体から、膨大な魔力が溢れ出した。


戦いが、始まった。

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