第18章「裏切りと復讐」


魔導鉄道の建設が進む中、カイトは王都に一時帰還していた。


工房で、次の車両の設計図を描いている。客車だ。人を快適に運ぶための車両。


座席の配置、窓の大きさ、換気の仕組み。全てを考慮する。


その時、リリアが慌てて入ってきた。


「カイト! 大変!」


「どうしたの、リリア?」


「鉄道の建設現場が、襲われたって!」


カイトは、立ち上がった。


「魔王軍が?」


「いいえ……人間よ。商人ギルドの残党らしい」


カイトの顔が、強張った。


商人ギルドの残党。以前、工場を襲撃した過激派だ。


「被害は?」


「建設中の橋が、爆破されたって。そして……」


リリアは、言葉を詰まらせた。


「そして、作業員が何人か……怪我をしたって」


カイトは、すぐに現場に向かった。


建設現場に到着すると、そこは悲惨な状態だった。


橋の一部が崩落し、瓦礫が散乱している。負傷した作業員が、地面に横たわっている。


「カイト様!」


ガンダルが駆け寄ってきた。その顔には、血が付いている。


「ガンダル! 怪我は?」


「俺は大丈夫だ。だが、リリアが……」


カイトの心臓が、止まりそうになった。


「リリアが? どこだ!」


「救護テントに」


カイトは、走った。


救護テントの中、リリアが寝かされていた。顔は青白く、額には汗が浮かんでいる。そして、腹部には血に染まった包帯が巻かれていた。


「リリア……!」


カイトは、リリアの側に跪いた。


「カイト……」


リリアが、弱々しく目を開けた。


「大丈夫、話さないで。すぐに治療を――」


「もう、受けてる……でも、深い傷なの……」


軍医が、カイトに説明した。


「腹部を、鋭利な刃物で刺されています。内臓に達している可能性があります。高度な治癒魔法が必要ですが、ここにはそれができる者がいません」


カイトは、歯を食いしばった。


「王都に運ぶ。今すぐだ」


「ですが、移動は危険です。出血が――」


「それでも、運ぶ! ここにいても、治療できないんだろ!」


カイトの声は、震えていた。


軍医は、頷いた。


「……わかりました」


カイトは、リリアを抱き上げた。軽い。あまりにも軽い。


「リリア、絶対に助ける。約束する」


「うん……信じてる……」


リリアが、か細く微笑んだ。


カイトは、リリアを魔導車に乗せた。自分が運転席に座る。


「全速力で、王都へ!」


魔導車が、猛スピードで走り出した。


王都への道は、通常なら半日かかる。だが、カイトは三時間で走破した。


魔力を限界まで注ぎ込み、車を走らせ続けた。


王都に到着すると、すぐに王宮の医療棟に運び込んだ。


最高位の治癒魔法使いが、リリアの治療に当たった。


カイトは、治療室の外で待った。


一時間。二時間。三時間。


時間が、永遠のように感じられた。


その間、カイトの心は、怒りと自責の念でいっぱいだった。


商人ギルドの残党。彼らが、リリアを傷つけた。


許せない。


だが、同時に思う。


自分のせいだ。自分が、魔導車を作ったから。鉄道を建設したから。それが、彼らの怒りを買った。


カイトは、壁に拳を打ち付けた。


「くそ……!」


その時、治療室の扉が開いた。


治癒魔法使いが、出てきた。


「どうですか!」


カイトが詰め寄った。


「命は、助かりました。ですが、完全に回復するには時間がかかります」


カイトは、その場に崩れ落ちた。


「よかった……本当に、よかった……」


涙が、溢れ出た。


その夜、カイトは工房で一人、座っていた。


リリアは眠っている。もう、危険はない。だが、カイトの心は晴れなかった。


怒りが、渦巻いていた。


商人ギルドの残党を、許さない。


彼らを見つけ出し、罰を与える。


そう思った瞬間、扉が開いた。


ガンダルとエリシアが入ってきた。


「カイト」


エリシアが、カイトの前に立った。


「犯人は、捕まりました」


「本当ですか」


「はい。商人ギルドの元メンバー三人。彼らは、魔王軍と内通していたようです」


「魔王軍と……」


カイトの怒りが、さらに燃え上がった。


「どこにいますか。会わせてください」


「カイト、落ち着け」


ガンダルが、カイトの肩を掴んだ。


「お前が今、彼らに会ったら、何をするか分からん」


「当たり前だ! リリアを傷つけた奴らを、このままにしておけるか!」


カイトは、ガンダルの手を振り払った。


「僕は、彼らに復讐する!」


「復讐?」


エリシアが、静かに言った。


「カイト、あなたは復讐をするのですか」


「当然です! リリアは、僕の大切な仲間です。それを傷つけた奴らを、許せるわけがない!」


エリシアは、カイトの目を見た。


「ですが、復讐は何も生みません」


「関係ありません!」


カイトは、叫んだ。


「僕は……僕は……」


カイトの声が、震えた。


「僕は、リリアを守れなかった……だから、せめて……」


カイトの目から、涙が溢れた。


エリシアは、カイトを抱きしめた。


「カイト、あなたは十分頑張りました。リリアを助けました。それで十分です」


「でも……」


「復讐は、あなたを壊します。そして、リリアも悲しむでしょう」


カイトは、エリシアの腕の中で泣いた。


子供のように、声を上げて泣いた。


翌朝、カイトはリリアの病室を訪れた。


リリアは、ベッドで目を覚ましていた。


「カイト……」


「リリア、調子はどう?」


「まだ、痛いけど……大丈夫」


リリアは、弱々しく笑った。


「ごめんね、心配かけて」


「いいんだ。無事でよかった」


カイトは、リリアの手を握った。


「リリア、犯人は捕まった。彼らは、裁判にかけられる」


「そう……」


リリアは、しばらく黙っていた。そして、口を開いた。


「カイト、復讐はしないでね」


カイトは、目を見開いた。


「なぜ、それを……」


「あなたの顔を見れば、わかるわ。怒ってるでしょ」


リリアは、カイトの目を見た。


「でも、復讐しても、何も変わらない。憎しみが、憎しみを呼ぶだけ」


「でも、彼らは君を傷つけた」


「うん。でも、私は生きてる。それで十分よ」


リリアは、カイトの手を握り返した。


「それに、あなたには、もっと大切なことがあるでしょ? 魔王を止めること。世界を救うこと」


カイトは、深く息を吐いた。


「……そうだね」


「だから、前を向いて。憎しみじゃなくて、希望で戦って」


カイトは、リリアを見た。その紫色の瞳には、強い意志が宿っていた。


「わかった。約束する」


カイトは、リリアの手を優しく握った。


「ありがとう、リリア」


「どういたしまして」


リリアは、微笑んだ。

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