第16章「技術者たちの連合」
戦闘の後、軍は川沿いに野営地を設営した。
焚き火が焚かれ、負傷者が手当てを受けている。疲労困憊した兵士たちが、地面に座り込んでいた。
カイトは、一人、川辺に座っていた。
水面が、月光を反射して揺らめいている。だが、カイトの心は、波立っていた。
五人。
自分の作戦で、五人が死んだ。
「カイト」
振り向くと、エリシアが立っていた。
「一人で何を?」
「考えてました。自分の責任について」
カイトの声は、沈んでいた。
エリシアは、カイトの隣に座った。
「あなたのせいではありません」
「でも、僕が作戦を立てた。僕が、ここに来ることを決めた」
「ですが、戦うことを決めたのは、彼らです。あなたは、誰も強制していません」
エリシアの言葉に、カイトは顔を上げた。
「でも……」
「カイト、戦争には犠牲が伴います。それは、悲しいことです。ですが、あなたはできる限りのことをしました。救急車で、多くの命を救いました。あなたがいなければ、もっと多くの人が死んでいたでしょう」
カイトは、エリシアを見た。その青い瞳には、優しさと哀しみが混じっていた。
「エリシア様も、辛いんですね」
「はい。私も、王女として、多くの決断をしてきました。その中には、誰かを犠牲にする決断もありました」
エリシアは、空を見上げた。
「ですが、私は信じています。正しいことをすれば、いつか報われると」
カイトは、エリシアの横顔を見た。強さと優しさを兼ね備えた、美しい人だと思った。
「ありがとうございます」
二人は、しばらく静かに川を眺めていた。
翌朝、野営地に客人が訪れた。
「ヴァルハイム帝国の技術者部隊、到着しました!」
伝令の声に、カイトは驚いた。
「帝国が?」
急いで野営地の入口に向かうと、そこには十台ほどの魔導車が停まっていた。だが、それは王国製のものとは明らかに違っていた。
車体は、より流線型で、装甲も厚い。そして、車輪が六つある。
「六輪駆動……?」
カイトが呟いた時、車から降りてきたのは、シュタイナーだった。
「やあ、カイト君。久しぶりだね」
シュタイナーは、いつもの冷たい笑みを浮かべていた。
「シュタイナー長官……なぜ、ここに?」
「君たちが魔王軍と戦っていると聞いてね。我が帝国も、協力することにした」
「協力……ですか」
カイトは、疑念を隠さなかった。
シュタイナーは、カイトの表情を読み取ったようだ。
「疑っているね。無理もない。だが、これは本当だ。魔王軍は、我が帝国にとっても脅威だからね」
シュタイナーは、背後の技術者たちを示した。
「彼らは、我が国最高の技術者たちだ。君たちと共に、魔王を倒すために来た」
技術者たちの中に、見覚えのある顔があった。マティアスだ。
「マティアス!」
「カイト! 久しぶりだね!」
マティアスは、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「帝国製の魔導車、見たかい? 君との共同研究の成果を活かして作ったんだ。六輪駆動で、悪路走破性が格段に上がっている!」
マティアスの興奮は、本物だった。カイトは、少し安心した。
「すごいな……見せてくれる?」
「もちろん!」
二人は、帝国製魔導車の周りを歩きながら、技術的な話をした。サスペンションの構造、魔法陣の配置、装甲の材質。
技術者同士の会話に、国境はなかった。
その様子を見ていたシュタイナーは、満足げに頷いた。
「技術者は、国を超える。良いことだ」
だが、その目の奥には、何か別の感情が渦巻いているように見えた。
その日の午後、両国の技術者たちが集まって会議が開かれた。
テーマは、「魔王軍への対抗手段」。
カイトが、これまでの戦闘データを共有した。
「魔獣の移動速度は、時速約五十キロメートル。持久力も高い。通常の騎士では、追いつけません」
マティアスが、頷いた。
「だから、魔導車の機動力が重要なんだね」
「はい。ですが、魔獣の群れ戦術には苦戦しています。数が多すぎて、突破が困難です」
その時、帝国の技術者の一人が手を挙げた。
「ならば、遠距離攻撃手段はどうでしょうか」
「遠距離攻撃?」
「はい。魔法の砲台を、魔導車に搭載するのです。魔獣の群れに、遠くから攻撃できます」
カイトは、眉をひそめた。
「それは、武装車両ですね」
「そうです。ですが、防衛のための武装です。攻撃ではなく」
技術者の言葉に、カイトは逡巡した。
確かに、防衛のための武装なら……。
いや、だめだ。一度武装を認めれば、際限がなくなる。
「すみません。僕は、やはり武装車両は作れません」
技術者は、残念そうな顔をした。だが、それ以上は言わなかった。
代わりに、別の技術者が提案した。
「では、防御に特化した車両はどうでしょう。移動式の障壁車。魔獣の攻撃を防ぐための」
「それなら、いいですね」
カイトは、頷いた。
「装甲を強化して、盾のような車両を作る。それで味方を守る」
技術者たちが、議論を始めた。装甲の厚さ、魔法による防御壁の展開、車両の配置。
様々なアイデアが飛び交い、やがて一つの設計案にまとまった。
「移動式防壁車、プロトタイプ」
これを、両国の技術者が協力して、三日で作り上げることになった。
三日間、技術者たちは不眠不休で働いた。
帝国の冶金技術と、王国の魔法技術が融合し、前例のない車両が完成した。
「すごい……」
完成した防壁車を見て、カイトは感嘆の声を上げた。
車体は、通常の魔導車の二倍の大きさ。厚い装甲に覆われ、側面には魔法陣が刻まれている。
「この魔法陣を起動すると、車両の周囲にバリアが展開されます」
マティアスが説明した。
「バリアの範囲は、半径十メートル。その中にいる味方は、魔獣の攻撃から守られます」
「すごい技術だ……」
カイトは、魔法陣を見た。複雑で、精緻な設計。リリアの魔法陣とは、また違うアプローチだ。
「帝国の技術者も、優秀ですね」
「お互い様だよ、カイト」
マティアスは笑った。
その夜、両国の技術者たちが集まって、ささやかな祝宴を開いた。
酒が振る舞われ、技術談義に花が咲いた。
カイトは、その輪の中に座りながら、思った。
これが、技術者の連帯だ。
国境を超え、思想を超え、ただ一つの目標――より良いものを作る――ために集まる人々。
この力があれば、世界は変えられる。
カイトは、杯を掲げた。
「技術者たちに、乾杯!」
「乾杯!」
歓声が、夜空に響いた。
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