第15章「第一次防衛戦」
出発の前日、カイトは工房で最終点検を行っていた。
魔導車の整備、魔石の充填、予備部品の積み込み。全てを確認する。
その時、ガンダルが入ってきた。
「カイト、お前も行くのか?」
「うん。作戦の指揮を取る必要があるから」
「危険だぞ」
「わかってる。でも、僕が行かないと」
ガンダルは、カイトの肩に手を置いた。
「なら、これを持っていけ」
ガンダルが差し出したのは、小さな金属の盾だった。手のひらサイズだが、魔法陣が刻まれている。
「これは?」
「魔法の盾だ。危険を感じたら、魔力を注げ。バリアが展開される」
「ガンダル……」
「お前は、この戦争で最も重要な人間だ。死ぬなよ」
カイトは、盾を受け取った。重い。だが、それはガンダルの想いの重さでもあった。
「ありがとう」
翌朝、王都の門前に、大軍が集結していた。
騎士千人、魔導車五十台、補給馬車二十台。
カイトは、先頭の指揮車に乗った。隣には、レオンハルトとエリシアが座っている。
「エリシア様も来るんですか?」
「当然です。私も、この国の王女ですから」
エリシアは、凛とした表情で言った。
王が、バルコニーから軍を見下ろした。
「兵士たちよ! 今日、我々は魔王に立ち向かう! 恐れるな! 正義は我らにあり!」
兵士たちが、剣を掲げた。
「出発!」
レオンハルトが号令をかけた。
魔導車が、一斉に動き出した。
進軍が、始まった。
最初の二日間は、順調だった。
魔導車は、予定通りのペースで進んだ。森林を抜け、川沿いの道を北上する。
途中、小規模な魔獣の襲撃があったが、騎士たちが難なく撃退した。
だが、三日目の夜、状況が一変した。
「前方に、大規模な魔獣の群れ!」
偵察隊からの報告が入った。カイトは、双眼鏡で前方を見た。
暗闇の中、無数の赤い目が光っている。その数は――数百。いや、千を超えるかもしれない。
「これは……罠だ」
レオンハルトが呟いた。
「魔王軍は、我々の進軍を予測していた」
カイトは、地図を見た。現在地は、川と森に挟まれた狭い道。前方は魔獣の群れ、後方には補給線。
「退却は?」
「不可能だ。後方にも、魔獣が現れている」
レオンハルトの報告に、カイトは歯を食いしばった。
「なら、突破するしかない」
「だが、この数では……」
「魔導車の機動力を使います。全車、最高速度で突破。魔獣を跳ね飛ばしながら進みます」
カイトの提案に、レオンハルトは目を見開いた。
「正気か? 車が壊れるぞ」
「壊れても、進みます。立ち止まれば、全滅です」
カイトの目は、決意に満ちていた。
レオンハルトは、しばらく考えた。そして、頷いた。
「……わかった。全軍に命令! 突破作戦を実施する!」
魔導車が、陣形を整えた。先頭に装甲車、中央に兵員輸送車、後方に補給車。
「全車、突撃!」
カイトの号令と共に、魔導車が加速した。
魔獣の群れに突入する。
ガン! ガン!
魔獣が、車体に激突する。だが、装甲が守る。魔導車は、魔獣を跳ね飛ばしながら突き進んだ。
だが、魔獣も必死だ。爪で車体を引っ掻き、牙で噛みつく。
一台の輸送車が、車輪を破壊された。横転する。
「輸送車が倒れた!」
「乗員を救出しろ!」
カイトが叫んだ。だが、横転した車の周りを、魔獣が取り囲む。
その時、救急車が急停止した。扉が開き、軍医と騎士が飛び出した。
「乗員を助けろ!」
騎士たちが、魔獣と戦いながら、横転した車に近づく。乗員を引きずり出し、救急車に運び込む。
だが、その間に、魔獣が救急車に殺到した。
「くそ! 数が多すぎる!」
騎士の一人が、魔獣に襲われた。爪が、肩を裂く。
「ぐあっ!」
血が飛び散る。騎士が倒れる。
カイトは、それを見て、何かが弾けた。
「リリア! 魔法で援護を!」
「わかった!」
リリアが、杖を掲げた。魔法陣が空中に展開される。
「氷結の嵐よ、敵を凍らせよ! アイスストーム!」
魔法陣から、冷気の渦が放たれた。魔獣たちが、凍りつく。動きが鈍る。
「今だ! 全員、救急車に乗れ!」
騎士たちが、救急車に飛び乗った。救急車が、再び走り出す。
カイトは、指揮車から双眼鏡で戦場を見た。まだ、魔獣の群れは続いている。
「あとどれくらいだ……」
その時、前方に光が見えた。
「あれは……?」
光は、魔法の光だった。そして、その光の中から、人影が現れた。
黒いローブを纏った、長身の男。その手には、巨大な鎌。
「魔王軍の幹部……!」
レオンハルトが叫んだ。
男が、鎌を振るった。
黒い斬撃が、空気を裂いて飛んできた。
「回避!」
カイトが叫んだ。指揮車が、急ハンドルを切る。だが、斬撃は指揮車の横を掠め、後方の補給車を直撃した。
補給車が、真っ二つに裂かれた。
「補給車が……!」
積まれていた物資が、地面に散らばる。そして、炎上した。
「くそ……!」
カイトは、歯を食いしばった。
黒いローブの男が、こちらを見た。その目は、血のように赤い。
「人間ども……よくここまで来たな」
男の声は、低く、冷たかった。
「だが、ここまでだ。貴様らは、全員ここで死ぬ」
男が、再び鎌を振り上げた。
その時、エリシアが立ち上がった。
「待ちなさい!」
エリシアが、杖を構えた。王族の血を引く彼女にも、強い魔力がある。
「光よ、闇を払え! ホーリーライト!」
眩い光が、男を包んだ。
男が、苦悶の声を上げた。
「ぐあっ! 光魔法……!」
光が消えると、男の姿も消えていた。撤退したようだ。
だが、魔獣の群れは、まだ残っている。
「全車、全速前進! 突破するぞ!」
レオンハルトが号令をかけた。
魔導車が、再び加速した。
そして、十分後、ついに魔獣の群れを抜けた。
「突破した……!」
兵士たちが、歓声を上げた。
だが、カイトは喜べなかった。
損害を確認すると、輸送車二台大破、補給車一台全損。負傷者三十名、戦死者五名。
カイトは、拳を握りしめた。
人が、死んだ。
自分の作戦で。
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