第14章「兵器か、救命か」
北部戦線での勝利の報告が、王都に届いた。
「魔導車のおかげで、多くの命が救われました」
アルベルトからの書簡を読んで、王は満足げに頷いた。
「カイト、そなたの車が、兵士たちを救った。感謝する」
「いえ、陛下。僕は、当然のことをしただけです」
カイトは頭を下げた。だが、その心は複雑だった。
救急車と輸送車は、確かに多くの命を救った。だが、それは戦争を支援することでもある。兵士が早く戦場に戻れば、また戦いが続く。
これで、良かったのだろうか?
その日の午後、レオンハルトがカイトの工房を訪れた。
「カイト、頼みがある」
「何でしょうか、将軍」
「武装した魔導車を作ってくれ」
カイトは、予想していた要求だった。
「お断りします」
「なぜだ! 前線の騎士たちは、苦戦している。武装車両があれば、もっと効率的に魔獣を倒せる」
「効率的に、殺すのですか」
カイトの声は、静かだった。だが、その目には強い意志があった。
「僕は、殺すための道具は作りません」
「だが、魔獣を倒さなければ、人が死ぬ!」
「それは、騎士の仕事です。僕の仕事は、騎士を支援することです。運び、守り、救う。それ以上はしません」
レオンハルトは、歯噛みした。
「頑固な小僧だ……」
「申し訳ありません」
カイトは、頭を下げた。
レオンハルトは、しばらくカイトを睨んでいた。だが、やがて溜息をついた。
「……わかった。無理は言わん。だが、覚えておけ。お前の理想主義が、いつか人を殺すかもしれんということを」
その言葉を残して、レオンハルトは去っていった。
カイトは、その場に立ち尽くした。
その夜、カイトは眠れなかった。
レオンハルトの言葉が、頭の中で繰り返される。
「お前の理想主義が、いつか人を殺すかもしれん」
本当に、そうなのだろうか?
カイトは、ベッドから起き上がった。窓の外を見る。月が、雲間から顔を出していた。
その時、扉がノックされた。
「カイト、起きてる?」
リリアの声だ。カイトは扉を開けた。
「リリア? こんな夜中に」
「眠れなくて。あなたも?」
カイトは頷いた。二人は、工房の作業台に座った。
「ねえ、カイト。レオンハルト将軍が来たんでしょ?」
「うん……武装車両を作れって言われた」
「断ったの?」
「うん」
リリアは、しばらく黙っていた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「カイト、あなたは正しいわ」
「本当に?」
「うん。技術者には、作らないという選択肢もある。それを行使したのよ、あなたは」
リリアの言葉が、カイトの胸に温かく響いた。
「でも……僕のせいで、誰かが死ぬかもしれない」
「それは、違うわ」
リリアは、カイトの目を見た。
「人を殺すのは、武器じゃない。人よ。武器がなくても、人は人を殺せる。逆に、武器があっても、使わないという選択もできる」
「でも、武器があれば、殺しやすくなる」
「そうね。でも、だからこそ、技術者は作らない選択をすべきなのよ。簡単に人を殺せる道具を、簡単に作っちゃダメ」
カイトは、リリアの言葉を噛みしめた。
「ありがとう、リリア」
「どういたしまして」
リリアは、微笑んだ。
二人は、しばらく静かに座っていた。
翌朝、エリシアがカイトを訪ねてきた。
「カイト、話があります」
エリシアの表情は、真剣だった。
「何でしょうか」
「父が、あなたに特別な依頼をしたいと仰っています」
「依頼?」
「はい。ですが、これは命令ではありません。あなたが断っても、誰も責めません」
エリシアの前置きに、カイトは不安を覚えた。
「何の依頼ですか?」
「魔王城への進軍作戦に、参加してほしいのです」
カイトは、息を呑んだ。
「進軍……ですか」
「はい。このまま防戦一方では、いつか負けます。ですから、攻勢に出る。魔王城を直接攻撃し、魔王を倒す」
「それに、僕が?」
「あなたの知恵が必要なのです。魔導車を使った機動作戦。迅速に魔王城に到達し、一気に決着をつける」
カイトは、しばらく考えた。
魔王城への進軍。それは、戦争の最前線に立つということだ。
「僕は、戦いません」
「わかっています。ですが、作戦を立案してほしいのです。どのルートを通り、どのように兵站を確保し、どのように部隊を展開するか。あなたの前世の知識が、必要です」
カイトは、エリシアを見た。その目には、懇願の色があった。
「……わかりました。ですが、条件があります」
「何でしょうか」
「作戦の目的は、魔王を倒すことではなく、対話することです」
エリシアは、目を見開いた。
「対話?」
「はい。魔王が、なぜ人間を襲うのか。その理由を知りたいです。もしかしたら、戦わずに解決できるかもしれない」
エリシアは、驚いた顔をした。だが、やがて微笑んだ。
「あなたらしいですね、カイト。わかりました。父に伝えます」
数時間後、王の返事が来た。
「対話を試みることは許可する。だが、失敗したら、武力で倒す。それでも良いか」
カイトは、頷いた。
「はい」
こうして、魔王城への進軍作戦が始動した。
カイトは、作戦の立案に取り掛かった。
まず、地図を広げた。王都から魔王城までの距離は、約五百キロメートル。途中には、森林、山岳、河川が横たわっている。
「まず、ルートの選定だ」
カイトは、複数のルートを検討した。最短ルートは山岳地帯を通るが、魔導車での移動は困難だ。平地を迂回するルートは距離が長いが、移動は容易だ。
「時間と安全性のトレードオフ、か」
カイトは、中間のルートを選んだ。森林を抜け、川沿いに進む。距離は六百キロメートルに延びるが、魔導車なら三日で到達できる。
次に、兵站の計画だ。
「三日間の食料、水、燃料……いや、魔力だ」
魔導車は、魔力で動く。だが、全ての兵士が魔力を持っているわけではない。魔石を補給する必要がある。
「補給拠点を、百キロごとに設置する」
カイトは、地図に印を付けた。そして、各拠点に補給車を配置する計画を立てた。
さらに、部隊編成も考えた。
「先鋒隊、本隊、後衛隊。そして、医療班と補給班」
先鋒隊は、偵察と道路確保。本隊は、主力の騎士たち。後衛隊は、補給線の防衛。医療班は、負傷者の治療。補給班は、物資の輸送。
全てを、魔導車で機動的に運用する。
一週間かけて、作戦計画が完成した。
カイトは、それを王と軍の幹部たちに提示した。
「この作戦なら、最小限の損害で魔王城に到達できます」
レオンハルトが、計画書を読んだ。そして、感心したように頷いた。
「見事だ。お前、軍略の才能もあるな」
「いえ、これは前世の知識です」
カイトは謙遜した。
王が、決断を下した。
「この作戦で行く。全軍に通達せよ。一週間後、出発する」
こうして、史上初の魔導車による機動作戦が、始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます