第10章「民衆の味方」


商人ギルドとの協力関係が成立し、魔導車の販売網は急速に拡大した。


だが、カイトには一つの懸念があった。


価格だ。


現在の魔導車は、金貨十枚で販売されている。これは、中流の商人なら手が届く価格だが、一般の農民や職人にとっては高嶺の花だった。


「もっと安くしなければ……」


カイトは、コスト削減の方法を考えた。


まず、部品の規格化をさらに進めた。同じ部品を大量に作ることで、単価を下げる。


次に、工程の効率化を図った。無駄な動きを省き、作業時間を短縮する。


そして、新しい素材の導入を検討した。鉄の代わりに、より安価な合金を使う。魔石の代わりに、人工的に作った魔力結晶を使う。


リリアが、魔力結晶の合成方法を研究した。


「魔石は天然の鉱物だから、高価なの。でも、魔力を人工的に結晶化できれば、コストを大幅に下げられる」


リリアは、実験を繰り返した。魔法陣を使って、魔力を集め、圧縮し、固体化する。


失敗を重ねた末、ついに成功した。


「できた!」


リリアが手にしているのは、小さな青い結晶だった。それは、天然の魔石と同じように、魔力を蓄えることができた。


「これなら、コストは十分の一以下よ!」


カイトは、リリアを抱きしめた。


「すごい、リリア! これで、価格を下げられる!」


人工魔力結晶を使った新型魔導車は、金貨五枚で販売できるようになった。


だが、カイトはさらに踏み込んだ。


「もっと安く。金貨三枚で買える、大衆向けモデルを作る」


そのために、カイトは機能を絞り込んだ。


装飾を省き、座席を簡素にし、最高速度も抑えた。だが、基本性能は維持した。


「必要最小限の機能で、最大限の価値を提供する」


カイトのコンセプトは、明確だった。


こうして、新モデル「フリーダム号」が誕生した。


金貨三枚。一般の職人でも、一年働けば買える価格だ。


発売と同時に、爆発的な人気を集めた。


「魔導車が買える!」


「これで、遠くの町にも行ける!」


「商売の幅が広がる!」


人々の喜びの声が、王都中に響いた。


カイトは、販売店の前に並ぶ長い列を見て、胸が熱くなった。


これだ。これこそ、自分が夢見ていたことだ。


技術を、全ての人に届ける。


フリーダム号の成功により、カイトの名声は高まった。


「鋼鉄の英雄」


人々は、カイトをそう呼び始めた。貧しい孤児から身を起こし、世界を変える技術を生み出した若者。その物語は、多くの人々に希望を与えた。


だが、カイトは有頂天にはならなかった。


「まだ、やるべきことはたくさんある」


カイトは、次の目標を見据えていた。


医療、教育、農業。魔導車の技術を、様々な分野に応用する。


例えば、救急車。怪我人や病人を、迅速に病院へ運ぶ。


例えば、移動図書館。本を積んだ魔導車が、地方の村々を巡回する。


例えば、農業機械。魔法で動く耕運機や収穫機を作る。


カイトのビジョンは、限りなく広がっていった。


だが、その野望を阻むものが、近づいていた。


戦争の足音が、聞こえ始めていた。

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