第9章「商人ギルドとの対立」


魔導車の普及が進むにつれ、既存の産業に影響が出始めた。


特に、馬車業界だ。


馬車の需要が減少し、馬車製造業者や馬商人たちの売上が激減した。彼らは、魔導車を敵視し始めた。


そして、彼らを束ねる組織が動き出した。


商人ギルドだ。


商人ギルドは、王国内の商業活動を管理する強大な組織だった。メンバーには有力な商人、馬車業者、運送業者が名を連ねている。


彼らは、魔導車を「不公正な競争」として非難し始めた。


「魔導車は、我々の仕事を奪っている!」


「伝統ある馬車産業を破壊するつもりか!」


商人ギルドの長、ギルドマスター・バルトロメオは、王宮に請願書を提出した。


「魔導車の販売を規制すべきです。でなければ、多くの商人が廃業に追い込まれます」


エリシアは、その請願書を読んで、眉をひそめた。


「規制……ですか」


「はい、王女様。魔導車は、まだ新しい技術です。安全性も確認されていません。市場に出回る前に、厳格な審査が必要です」


バルトロメオの言葉は、一見もっともらしかった。だが、その真意は明らかだった。規制という名目で、魔導車の普及を妨害するつもりなのだ。


エリシアは、カイトを呼んだ。


「カイト、商人ギルドが動き出しました」


「予想していました」


カイトは冷静だった。


「既得権益を持つ者は、変化を恐れます。彼らが妨害してくることは、分かっていました」


「では、どうしますか?」


「対話です。彼らの不安を理解し、解決策を提示します」


カイトは、バルトロメオとの会談を申し込んだ。


数日後、商人ギルドの本部で会談が行われた。


豪華な応接室に、バルトロメオと数人の幹部が座っていた。彼らは、カイトを冷たい目で見た。


「若造が、何の用だ」


バルトロメオの声は、敵意に満ちていた。


カイトは、落ち着いて話し始めた。


「ギルドマスター、私はあなた方と敵対するつもりはありません。むしろ、協力したいと思っています」


「協力? 笑わせるな。お前の魔導車のせいで、我々は大損害を被っている」


「それは理解しています。ですが、魔導車は馬車を完全に置き換えるものではありません。それぞれに、適した用途があります」


「どういう意味だ?」


「魔導車は、速さと効率に優れています。都市間の輸送や、急ぎの配送に向いています。一方、馬車は、大量の荷物を運ぶのに適しています。重い貨物や、長距離の移動には、馬車の方が有利です」


カイトは、用途の違いを説明した。


「つまり、住み分けができるのです。魔導車と馬車、両方が共存する市場を作ることができます」


バルトロメオは、腕を組んで考えた。


「だが、現実には、魔導車が我々の客を奪っている」


「それは、価格競争が原因です。ですが、私は価格競争をするつもりはありません。魔導車は、付加価値で勝負します」


「付加価値?」


「はい。速さ、快適さ、そして新しい体験。これらを求める顧客に、魔導車を提供します。一方、コストを重視する顧客には、馬車が選ばれるでしょう」


カイトの説明に、バルトロメオは少し表情を和らげた。


「……まあ、理屈は分かった。だが、言葉だけでは信用できん」


「では、具体的な提案をさせてください」


カイトは、準備してきた資料を取り出した。


「私たちは、魔導車の販売店を展開します。その販売店の一部を、商人ギルドのメンバーに委託したいと考えています」


「委託?」


「はい。販売と整備を、あなた方に任せます。その代わり、売上の一部を手数料として受け取っていただきます」


バルトロメオの目が、鋭くなった。


「つまり、我々を販売網に組み込むということか」


「そうです。敵対するのではなく、協力する。Win-Winの関係を築きたいのです」


バルトロメオは、しばらく沈黙していた。そして、幹部たちと目配せした。


「……検討させてもらおう」


「ありがとうございます」


カイトは深く頭を下げた。


だが、すべての商人が、カイトの提案を受け入れたわけではなかった。


一部の過激な者たちは、実力行使に出た。


ある夜、工場に火が放たれた。


「火事だ!」


夜警が叫んだ。


カイトは工房から飛び出した。工場の一角から、炎が上がっている。


「消火だ! 水を持ってこい!」


作業員たちが、バケツリレーで消火に当たった。だが、炎は激しく、なかなか消えない。


ガンダルが、魔法で水を生成して消火を試みた。リリアも、風を操って炎を抑えた。


一時間後、ようやく火は消えた。


だが、工場の一部は焼け落ちていた。幸い、完成品の魔導車は無事だったが、資材の一部が焼失した。


「誰がこんなことを……」


カイトは、焼け跡を見つめた。


エリシアが駆けつけた。


「カイト! 大丈夫ですか!」


「はい。怪我人はいません」


「犯人は?」


「まだ分かりません。ですが、恐らく……」


カイトは、商人ギルドの顔を思い浮かべた。


翌日、調査が行われた。そして、現場から商人ギルドのシンボルが刻まれた布切れが見つかった。


「これは……」


エリシアは、怒りに震えた。


「許せません。商人ギルドを訴追します」


だが、カイトは首を横に振った。


「待ってください、エリシア様」


「なぜですか?」


「訴追すれば、ギルド全体を敵に回すことになります。それは得策ではありません」


「ですが、彼らは犯罪を犯したのです!」


「証拠が不十分です。この布切れが、本当にギルドのものかどうか、確証はありません。誰かが、ギルドを陥れるために置いた可能性もあります」


カイトは冷静に分析した。


「それに、仮にギルドの一部の者が犯人だとしても、全員が同意してやったとは限りません。過激派の暴走かもしれません」


エリシアは、唇を噛んだ。


「では、どうするのですか?」


「対話を続けます。そして、セキュリティを強化します」


カイトは、工場に警備員を配置し、夜間の見回りを強化した。また、火災対策として、消火設備も増設した。


そして、バルトロメオに再度会談を申し込んだ。


「工場の火災について、お聞きしたいことがあります」


バルトロメオは、カイトを睨んだ。


「我々を疑っているのか?」


「いいえ。ですが、一部の過激な者が、暴走している可能性があります。ギルドマスターとして、メンバーを統制していただきたいのです」


バルトロメオは、しばらく黙っていた。そして、深く息を吐いた。


「……わかった。内部を調査しよう。もし、我々のメンバーが関与しているなら、厳正に処分する」


「ありがとうございます」


カイトは頭を下げた。


数日後、バルトロメオから報告があった。


「犯人を特定した。若手の馬車商人だ。彼は、魔導車に仕事を奪われ、逆恨みしていた」


「処分は?」


「ギルドから除名した。そして、賠償金を支払わせる」


「わかりました」


カイトは、これ以上追及しなかった。


そして、バルトロメオに提案した。


「ギルドマスター、改めて協力を申し入れます。魔導車の販売代理店として、商人ギルドと契約したいのです」


バルトロメオは、長い沈黙の後、頷いた。


「……条件次第だ。詳細を聞かせてもらおう」


こうして、カイトと商人ギルドの対立は、協力関係へと変わっていった。

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