第8章「サプライチェーン構築」


工場の稼働が軌道に乗り始めた頃、カイトは新たな課題に直面していた。


物流だ。


完成した魔導車を、顧客に届ける必要がある。だが、この世界には宅配便のようなシステムは存在しない。商人が自分で荷車を引いて運ぶか、キャラバンに依頼するかの二択だ。


どちらも、時間がかかり、費用も高い。


「これでは、せっかく量産しても、顧客に届かない……」


カイトは頭を抱えた。


その時、ガンダルが提案した。


「なあ、カイト。魔導車自体を、運搬手段として使ったらどうだ?」


「魔導車を?」


「ああ。荷台付きの魔導車を作って、それで他の魔導車を運ぶ。一度に複数台運べるぞ」


カイトの目が輝いた。


「それだ!」


こうして、魔導トラックの開発が始まった。


魔導トラックは、通常の魔導車より大型で、荷台を持つ。最大で五台の魔導車を積載できる設計だ。


リリアが、大型用の強力な魔法陣を設計した。ガンダルが、頑丈なフレームを製作した。そして、カイトが全体を統合した。


二週間で、試作機が完成した。


「テストしてみよう」


カイトは、魔導トラックに五台の魔導車を積み込んだ。重量は相当なものだったが、強化された魔法陣は、それを難なく動かした。


「すごい! これなら、遠くの街にも配送できる!」


カイトは興奮した。


こうして、魔導車の配送網が構築され始めた。


だが、配送網を広げるには、もう一つ問題があった。


道路だ。


王都周辺の街道は、それなりに整備されていた。だが、地方に行くと、道は荒れ果てている。穴だらけで、雨が降れば泥沼になる。


「これでは、魔導トラックが通れない……」


カイトは、街道の改善を考え始めた。


だが、道路の整備は、国家事業だ。個人でどうにかできるものではない。


カイトは、エリシアに相談した。


「道路の整備……ですか」


エリシアは、顎に手を当てて考えた。


「確かに、この国の道路インフラは遅れています。ですが、財政的に厳しいのです」


「では、民間で整備することはできませんか?」


「民間で?」


「はい。私たちが費用を負担して、主要な街道を舗装します。その代わり、通行料を徴収する」


「有料道路……?」


エリシアは初めて聞く概念に、戸惑った。


「はい。道路を使う者が、使用料を払う。そのお金で、道路を維持・管理する。持続可能なシステムです」


カイトは、前世の高速道路のシステムを説明した。


エリシアは、しばらく考えた。そして、頷いた。


「面白いアイデアです。父に提案してみます」


数日後、王からの許可が下りた。カイトは、主要街道の整備事業を開始することになった。


まず、王都と隣の大都市を結ぶ街道を選んだ。全長約百キロメートル。


カイトは、道路の設計を行った。幅を広げ、表面を平らにし、排水溝を設ける。そして、要所要所に通行料を徴収するゲートを設置する。


工事には、大量の労働力が必要だった。カイトは、地元の村々から労働者を募集した。給金を払い、仕事を提供することで、地域経済も活性化する。


工事は、困難を極めた。


石を運び、土を掘り、砂利を敷き詰める。全て人力だ。魔法で多少は効率化できたが、それでも時間がかかった。


だが、作業員たちは真面目に働いた。そして、半年後、最初の区間が完成した。


平らに舗装された道路。水はけの良い排水溝。そして、両脇に植えられた並木。


「美しい……」


エリシアが呟いた。


この道路を、最初の魔導トラックが走った。滑らかに、速く、快適に。


「これなら、配送時間が半分になる!」


カイトは歓喜した。


そして、通行料の徴収が始まった。一台につき、銀貨一枚。高くはないが、安くもない。


だが、商人たちは喜んで支払った。なぜなら、この道路を使えば、商品をより早く、より安全に運べるからだ。


通行料は、道路の維持費を賄い、さらに利益も生んだ。その利益を使って、カイトは次の街道の整備を始めた。


こうして、王国中に魔導車専用の街道網が広がっていった。


街道の整備と並行して、カイトはもう一つのプロジェクトを進めていた。


サービスステーションの設置だ。


魔導車は、魔力を補充する必要がある。だが、全ての人が魔力を持っているわけではない。そこで、魔力を蓄えた「魔石」を販売する施設が必要だった。


カイトは、街道沿いに小さな建物を建てた。そこで、充電済みの魔石を販売し、使い終わった魔石を回収する。回収した魔石は、工場で再充電して、再び販売する。


リサイクルシステムだ。


「これで、魔力を持たない人でも、魔導車を使える!」


カイトのアイデアは、大成功だった。魔石ステーションは、すぐに人気を集めた。


そして、ステーションには、もう一つの機能が加わった。


整備サービスだ。


魔導車は機械だ。使っていれば、故障することもある。そこで、カイトは整備士を訓練し、ステーションに配置した。


「車輪が外れた」


「魔法陣が摩耗した」


「ブレーキが効かない」


様々なトラブルに、整備士たちが対応した。


こうして、魔導車のエコシステムが完成していった。


製造、販売、配送、インフラ、サービス。全てが連携し、一つのシステムとして機能する。


カイトは、前世で学んだビジネスモデルを、この世界で実現していた。


ある日、工場にロアンが訪ねてきた。


村で農業を手伝っていたはずの彼が、なぜここに?


「カイト! 久しぶりだな!」


ロアンは満面の笑みで、カイトの肩を叩いた。


「ロアン! どうしたんだ?」


「聞いてくれよ。お前の魔導車、村にも届いたんだ!」


「本当か!」


「ああ! 村長が一台買ってな。それで畑の作物を町まで運んでるんだ。今まで牛車で三日かかってたのが、魔導車なら半日だ! おかげで、作物が新鮮なうちに売れる。価格も上がったんだぜ!」


ロアンの話を聞いて、カイトの胸が熱くなった。


これだ。これこそ、自分が目指していたことだ。


技術で、人々の生活を豊かにする。


「それで、俺も魔導車が欲しくなってな。買いに来たんだ」


「ロアン……」


「頼むよ、カイト。分割払いでもいいから、売ってくれ」


カイトは笑った。


「わかった。特別に、村人割引をしてやる」


「本当か! ありがとう!」


ロアンは、子供のように喜んだ。


こうして、魔導車は、カイトの故郷の村にも広がっていった。

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