第7章「量産化への壁」
工場の建設予定地は、王都の郊外に確保された。広大な平地で、街道にも近く、物流に便利な場所だ。
カイトは、毎日現場に通った。建築職人たちと打ち合わせをし、設計図を修正し、進捗を確認した。
建物の基礎工事が始まった。石を積み、柱を立てる。ドワーフの石工たちが、汗を流して働いている。
ガンダルも、鍛冶設備の設置を監督していた。巨大な炉、金床、プレス機。全て、彼の指示のもとに配置されていく。
リリアは、魔法陣の刻印装置を開発していた。手作業で一つ一つ刻んでいては、量産に対応できない。そこで、魔法で自動的に刻印する装置を考案したのだ。
「これで、一時間に十個の魔法陣が刻める」
リリアは、得意げに装置を見せた。円盤状の台に、魔法陣のテンプレートが刻まれている。そこに車輪を置き、魔力を注ぐと、テンプレートの模様が車輪に転写される仕組みだ。
「すごい! これなら効率が上がる」
カイトは感心した。
だが、問題はまだあった。
人手だ。
工場を稼働させるには、大量の作業員が必要だ。カイトは、王都中に求人の張り紙を出した。
『魔導車工場 作業員募集。未経験者歓迎。訓練あり。給金は日給銀貨五枚』
この給金は、当時の水準ではかなり高かった。多くの応募者が集まった。
だが、問題が発生した。
応募者の多くは、読み書きができなかった。そして、規律を守ることに慣れていなかった。
初日の朝礼で、カイトは作業員たちに説明した。
「皆さん、ここは工場です。決められた時間に来て、決められた作業をしてください。遅刻や欠勤は、生産計画に影響します」
だが、翌日、三分の一の作業員が遅刻してきた。
「すみません、寝坊しました」
「家の用事がありまして……」
言い訳はさまざまだった。カイトは頭を抱えた。
前世なら、こんなことはあり得なかった。時間厳守は当然のことだった。だが、この世界では、時間の概念そのものが曖昧なのだ。
「これは……文化の違いか」
カイトは呟いた。ならば、文化を変えるしかない。
カイトは、作業員たちに時計を見せた。砂時計だ。
「この砂が全部落ちるまでが一時間です。朝、この砂時計を三回繰り返した時間に、全員集合してください。遅れた人は、その日の給金が半分になります」
厳しいルールだったが、必要だった。
最初は不満の声も上がった。だが、カイトは譲らなかった。そして、時間を守った者には、ボーナスを支給した。
徐々に、作業員たちは時間を守るようになった。
次の問題は、作業の習得だった。
カイトは、作業を細かく分解し、それぞれの工程をマニュアル化した。図解入りの手順書を作り、実演して見せた。
「この部品を、この穴に入れて、ボルトで固定します。力を入れすぎると割れるので、注意してください」
だが、慣れない作業員は、何度もミスをした。部品を壊したり、取り付け位置を間違えたり。
カイトは、一人一人に教えた。何度も何度も。根気強く。
「大丈夫、最初は誰でも失敗する。大事なのは、同じ失敗を繰り返さないことだ」
作業員たちは、カイトの真剣な姿勢に応えた。徐々に、技能が向上していった。
一ヶ月後、最初の量産型魔導車が完成した。
「できた……!」
カイトは、工場のラインの端で完成した車を見た。
プロトタイプと同じ性能を持ちながら、製造時間は半分以下。コストも大幅に削減された。
「よくやったな、みんな!」
カイトは、作業員たちに声をかけた。彼らは、誇らしげに笑った。
「これから、もっと作るぞ!」
歓声が上がった。
だが、喜びもつかの間、新たな問題が発生した。
部品の供給だ。
工場で使う部品の多くは、外部のサプライヤーに発注していた。木材は製材所、鉄は製鉄所、魔石(魔力を蓄える鉱石)は鉱山から。
だが、生産量が増えるにつれ、部品の納入が遅れるようになった。
「すみません、今月は木材が足りません」
製材所の主が言った。
「なぜですか?」
「需要が急に増えたので、追いつかないんです。それに、他の顧客もいますから」
カイトは困った。部品がなければ、生産が止まってしまう。
「では、もっと早く発注すれば間に合いますか?」
「それでも厳しいですね。うちも人手が足りないので……」
カイトは考えた。サプライチェーンの管理が必要だ。
カイトは、主要なサプライヤーと長期契約を結ぶことにした。一定量を定期的に発注し、安定供給を確保する。そして、サプライヤーの生産能力を向上させるために、資金援助も行った。
「この機械を導入すれば、生産量が倍になります。費用は、私たちが負担します。その代わり、優先的に部品を供給してください」
サプライヤーたちは、最初は戸惑ったが、やがて協力してくれるようになった。
こうして、サプライチェーンが徐々に構築されていった。
だが、それでも問題は尽きなかった。
品質のばらつきだ。
サプライヤーごとに、部品の精度が異なる。ある製材所の木材は寸法が正確だが、別の製材所のものは誤差が大きい。そのせいで、組み立て時に部品が合わないことがあった。
カイトは、品質基準を明文化した。
「木材の寸法は、この図面通りに。誤差はプラスマイナス一ミリ以内。これを守ってください」
そして、納品時に検査を行った。基準を満たさない部品は、返品した。
最初は、サプライヤーから不満の声が上がった。
「そこまで厳しくする必要があるのか?」
「あります。品質が安定しなければ、良い製品は作れません」
カイトは譲らなかった。そして、基準を満たしたサプライヤーには、報奨金を出した。
徐々に、サプライヤーたちも品質の重要性を理解し始めた。
こうして、魔導車工場は、一歩ずつ、着実に成長していった。
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