005 『パンケーキのトッピングは計画的に』

 「パンケーキの主役はトッピングだと思うんだよね。だから、どのトッピングにするかを決めるのはこの世で一番楽しいことでもあるし。それを食べるときこそが、人生だと思うんだよね」


 言いながら、ああ、今日はやけに口が回るな、と自分でも苦笑する。

 理由はだいたい分かっていた。メニュー表に描かれたパンケーキの絵が、元の世界の記憶とぴたりと重なったせいだ。


 異世界に来てからは、文字ばかりのメニューに苦戦することが増えた。料理の名前だけで想像して頼めば、出てくるものは見たこともない食べ物ばかりで、そのたびに「そう来るか」と肩透かしを食らってきた。


 でも、パンケーキは違う。元の世界でも食べ慣れていたし、その“知っている味”が、思っている以上に心を軽くしてくれる。

 ……いや、本当はそれだけじゃない気もする。


「そうなんですね」


 ヨティスが、少しだけ目を瞬かせて俺を見た。

 そりゃそうだ。自分でも“テンション高いな”と分かっているのだから、他人から見ればなおさらだろう。


 鼻歌交じりにメニュー表を眺め、どれを頼むか考える。


 パンケーキは昔から好きだった。

 母と食べたときは蜂蜜をたっぷりかけて、祖父と食べたときはガムシロップの、あの何とも言えない甘さ。

 友人や大切な人と食べるときは、気づけば相手に合わせたトッピングを選んでいた気がする。


「ヨティスは何にするか決めた?」

「えっと……。利人さんは?」

「ん-……。何がいいと思う?」

「決めるのが楽しいのに、人に聞いていいんですか?」

「そうなんだけど、いざ目の前にすると、決めきれないっていうか……」


 ページをめくりながら、周囲のテーブルに目をやる。

 いろんな種類のトッピングがある。

 異世界の食生活は一見すると発展途上に見えたが、特定の料理――“元の世界と同じ名前の料理”だけは妙に充実している。


 過去にも同じ世界から来た誰かがいて、その誰かが広めたのかもしれない。

 どんな人間かは知らないが、とりあえず元の世界の食べ物を残してくれてありがとう、と心の中でだけ礼を言い、メニュー表に視線を戻す。


 そこに『全乗せOK』の文字を見つけた。


「そういえば、前にソフィアって子と食べたことがあったんだけど、そいつはトッピング全乗せを頼んでたな」

「全乗せ、ですか?」

「うん。パンケーキが埋まるほどのトッピングで。ソフィア曰く、トッピングは加減が必要だね! って言いながら、余ったトッピングを俺のパンケーキの上に乗せててさ」

「相当多かったんですね」

「うん。なんだろう。こう、山になってた」


 へぇ、とヨティスが呟く。

 その横顔を見ると、白金の瞳がいつもより金色を濃く帯びて見えた。


「……バターと粉砂糖にしようかな」

「バター、ですか?」

「うん。ヨティスと食べるなら、なんとなく、バターがいいかなって。はちみつとかも考えたんだけど。なんか違うし」


 メニュー表を閉じると、ヨティスもそっとそれに倣う。


「じゃあ、私もそれにします」

「好きなのにしなくていいの?」


 尋ねると、ヨティスは控えめに微笑んだ。


「利人さんが食べるものを、私も食べてみたいんです」


 さらっというヨティスに、ほんの少し胸が高鳴った気がする。


「じゃあ、今度パンケーキを食べるときは、ヨティスと同じもの食べたいから。次はヨティスが選んで」

「はい」




――登場人物――

パンケーキでテンション上がる側:利人(リヒト)

それに合わせる側:ヨティス

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