003 『花束の色が変わる瞬間』
「お久しぶりです、カルラさん」
「元気そうだな、ウィリアム」
片手に握られた黄色いバラは、帰り際にいつも彼が渡してくるもの。
以前は高価な装飾品を贈られていたが、自分には不釣り合いだからと断った。
それ以来、彼は花束を持ってくるようになった。……花束だって似合うとは思わないが。
魔法科専門学校の教師という肩書を持ちながら、最も得意とするのは力魔法。
鍛えられた肉体での戦いを好み、魔法よりも拳を信じてきた。
「武闘科の教師になればいいのに」と親や兄に笑われ続け、自分でもそうかもしれないと思っていた。
それでも魔法の教師を選んだのは、ある少年のためだった。
きっと彼は、貴族ばかりの学校で孤独に過ごすだろう。
誰よりも才能のあるが、ただ、平民と言うことで。周囲の目に押し潰されてしまうのではないかと思った。
だから、そんな彼を見守る大人になろうと覚悟を決めた。
けれど、少年は違ったのだ。
一人で立つ力を、最初から持っていた。
どんな困難にも一人で打ち勝つ強さと、周りを巻き込むだけの力を持っていた。
「そんなに呆けて。何か、私の顔についている?」
「いえ。ただ」
「以前私が送った髪飾りをしてくださっているなと思い」
嬉しそうに笑う彼に、視線を逸らす。
仕事を理由に、彼の思いを無視していたけれど。そろそろ答えてもいいのかもしれない。
ただ、そんな軽い気持ちでつけた彼からの髪飾りを身に着けて……。
「なあ、ウィリアム」
彼の名を呼ぶとき、かすかに声が震えた気がしたが無視をして、言葉をつづける。
「今度もし、また花束を持ってくるなら。……赤い花束を持って来てはくれないか?」
「……っ、それって」
彼は目を見開く。
この先もまた、仕事を優先して彼の想いを気に留めることなく突き進むかもしれない。
そのたびに彼を傷つけてしまうかもしれない。
それでも――、それでも許してくれるなら――。
赤い花束は、きっとその始まりになる。
――登場人物――
花束を受け取る側:カルラ
花束を贈る側:ウィリアム
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