第14話 黒い弾丸、白の座標
白瀬結月の死まで、残り九十分。
マンション402号室。
雑多な廊下で、湊はゆっくりと意識を取り戻した。目の前には、泣き腫らした結月の顔。頭は彼女の温かい膝の上にあった。
(……ああ、良かった)
湊は、結月の最新のステータスを観測する。
【名前:白瀬 結月】
【状態:覚醒、希望、愛情(微小)、不安】
【支配感情:生きたい(30%)、両親への恐怖(小)】
何よりも空っぽな虚無が消えていた。
「空森君、もう大丈夫なのね?」
「……うん。それより、九条さんは?」
九条は田中(仮)の首根っこを掴み、警官たちに引き渡していた。「行くわよ」――その言葉に促され、三人はパトカーの喧騒を背に、九条の車へと乗り込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
九条の運転する車が、白瀬邸に向けて夜の街を急ぐ。後部座席では、結月が湊の怪我の手当てをしていた。
「……あの、白瀬さん。話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
湊は意を決して、自分の能力について告白を始めた。
「僕、人の心を覗き見できるんだ。ステータスとして、感情や思ってること、隠し事まで……」
結月の目が見開かれる。当然の反応だ。
「……あなたのことも、ずっと見てた。いじめられてる時も、笑ってる時も、ステータスは『絶望(極大)』だった。最初は、ごめん……気持ち悪いって、正直思った」
「だけど、助けたかった。勝手な理由でごめん」
湊は頭を下げた。
「知ってた」
結月は、湊の傷だらけの顔を見つめた。知っていたといっても、気がついたのは、ついさっきだが。これで湊の罪悪感が減るのなら……
「……空森君って、隠し事が下手かな……大声でスタータスが!とか叫んでたでしょう?だから、気持ち悪いなんて、思わないよ……でも、お父さんとお母さんの心も……見たの?」
「うん。……あそこには、完全な悪意はなかった。君を愛してる。それは本当だ。でも、愛し方が歪んでた。自分たちが正しいって信じ込んでる 歪んだ純粋な善意 だったんだ」
悪意なら、憎めた。だが、善意だからこそ、結月は逃げられなかった。
「……善意が残ってるなら、いつか分かってもらえるかもしれない。だから、逃げるのはやめよう。僕は、もう逃げたくない」
結月は、少しだけ前向きな表情になった。能力に驚きながらも、ボロボロになって自分を救ってくれた湊の言葉だからこそ、信じることができた。
「……分かったわ。私も、逃げない。もう、誰かのための 完璧な娘 じゃなくていい。私の人生、ちゃんと自分で決める」
「……ブライト・プロモーションの件は、終わったわ」
九条が信号待ちで振り返り、簡潔に告げる。
「あなたが観測したデータが決め手になった。奴らは全員、社会的に死んだわ」
結月が九条を見つめる。
「契約は……違約金は、どうなるんですか?」
「契約? 馬鹿言わないで。そもそもあの契約は、公序良俗に反する無効よ。法外なレッスン料は違法な抱き合わせ商法だし、違約金の請求なんて恐喝以外の何物でもない。法的に見れば、最初から存在しない紙切れだわ。安心して」
法の弾丸は、確実にターゲットを射抜いていた。
契約という「物理的な鎖」は消えた。残るは、結月自身の 親への恐怖 という鎖だ。
ブー、ブー、ブー
湊の携帯が着信を告げる。相手は佐伯先生だ。しかし、今は大事な話の最中だ。湊は無言で携帯の電源を切った。佐伯先生の想いは確かに僕の心に届いている。湊は九条と結月を見つめた。
「準備はいい? これから向かうのは、あなたを一番苦しめた『本丸』よ」
九条は、『観測者』の異常性、危険性を分かっている。現実とは思えない能力。味方であるなら、数日で犯罪組織を潰せるぐらいの絶対の力。しかし、だれでも思うだろう、敵に回すくらいなら、殺した方がいいと。そんな、ありえない能力。この能力を知る人間は……バックミラーに写る2人を見つめながらつぶやく。
(証拠も手続きも飛び越えて、魂の真実を暴く眼。法の番人としては認めがたい存在だけど……今回だけは、王子様のご意向に従うとしましょうか)
九条がアクセルを踏み込む。
設定紹介
九条怜の愛車・・・スカイライン GT-R (R34)※カラーブラック。エンジン音は特徴的・迫力のあるサウンドで世界中のファンを魅了する。隠密行動には向かない。
佐伯 志保・・・2年B組担任教師。湊、結月が心配でおろおろしている。いてもたってもいられなくなり、夜の街の捜索を始めたところ、大量のパトカーを見かけて、慌ててかけた湊の携帯の繋がらず、更におろおろしている。コンビニ明かりに吸い寄せられるように導かれ、ストロング系サワー500mlを購入。今日は飲んじゃう!
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