第9話 鋼の法と泥の真実
白瀬結月の死まで、残り三日。
湊の携帯に見知らぬ番号の着信が入った。
「もしもし、空森君?担任の佐伯です。今日は学校はお休みかな?だめですよ、無断欠席は。体調不良ですか?」
「ごめんなさい、今日は白瀬のことで……今は言えませんが」
「白瀬さんのこと?私があんなことを話してしまったからだね。ごめんなさい。もしかしたら、空森君と白瀬さんは一緒にいる?今日は白瀬さんもお休みなの。昨日から家に帰っていないみたい」
(白瀬さんが昨日から帰っていない!あいつらのところか?探さないと!)
「空森君、聞いてる?急に黙らないで!おーい、空森君、聞こえてる?通信が悪いかな……」
迫るタイムリミット……白瀬の安否……問題は何一つ解決していない。
(今は動かないと)
湊は危機感を新たに無言で通話を切った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
神楽坂の裏通り、九条法律事務所の空気は、不気味なほど研ぎ澄まされていた。九条はすでに戦闘態勢だ。
「いい? 空森君。私の依頼人になった以上、あなたも共犯者よ。あなたの目は、法律の穴を突くための最重要ウエポンになる」
湊は昨日感じた社会の闇の深さに、まだ胃が痛かった。単なる悪徳事務所ではない。その背後には、社会の正義を食い物にする構造が横たわっている。
「まずは、内部の人間関係と金の流れを完全に把握する。あなたの能力で観測するの」
九条がディスプレイに映し出したのは、一見すると何の変哲もない警察官の名簿だった。
「この中に、確実にブライトと癒着している黒がいる。だが、証拠がない。リストを見ながら、あなたが黒を指し示しなさい。あなたの観測する力があればできるはず」
湊は画面上の名前を覗き見するが、反応はない。
「能力は……人物を直接見ないとダメなんです。写真や名前だけでは……」
「そう。だから足を使うのよ」
九条はタイトスカートに包まれた太ももを「パン」と叩く。
湊に、使い古されたボイスレコーダーと、小さな高性能カメラを手渡した。
「行きなさい。明日までに、このリストの連中全員を視界に捉えてきなさい」
【捜査1日目:白瀬結月の呪いのタイミリミットまで残り3日】
湊は再び、叡川市の雑居ビルの前にいた。昨日よりも人が多い。
九条から指示されたターゲットリストの人物を、街中で探し回り、視界に捉える。地道な、神経をすり減らす作業だ。
午後三時。ターゲットの一人、私服警官風の男を尾行する。
【名前:佐々木 司】
【職業:警察官(私服)】
【状態:癒着(ブライト・プロモーション:蜜月関係)、保身、強欲】
【思考:今日の飲み代、事務所から巻き上げるか】
(……警察官のステータスが、犯罪者と変わらない色をしてる……)
湊は、自分が覗き込んでいる闇の深さに震えた。正義の味方であるはずの彼らが、平然と悪と手を結んでいる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夕方。別の刑事と思しき男のステータス。湊は吐き気を抑えながら、覗き見を続けた……
【状態:隠蔽(過去の失敗)、家族愛(偽装)】
リスト全員を観測し終えた頃には、湊の精神は限界だった。すべての名前と、彼らの裏の顔、ステータスを九条に報告する。
九条法律事務所に戻った湊を待っていたのは、冷徹な分析だった。
「なるほど、佐々木は金。もう一人の刑事は過去の失敗の隠蔽か。……空森君、絶望している暇はないわ」
九条の目つきが更に悪くなる。美人さんが台無しです。
「悪党が正義の制服を着ているなんて、この国ではよくあることよ。私たちがやるのは、その制服を剥ぎ取って、ただの汚物に戻してやること」
九条の視線が、湊のスマホの待ち受け画面――茶々丸がヘソを出して寝ている写真――に止まる。
「あ、はい。茶々丸です」
その瞬間、九条のステータスが激変した。
【知力:95 → 3】
【状態:鉄の女 → メロメロ、慈愛(極大)】
「……っ、ふ、ふふ……な、何よこれ。い、いい寝相ね。この子の幸せを守るためにも、今は戦いなさい」
【知力: 3 → 思考混濁】
【思考:この生き物は反則よ……誘拐したい(0.1%)】
九条は真っ赤になって顔を背けた。一瞬で見せた普通の女性の表情。それが、凍りついた湊の心をどれほど救ったか、彼女は気づいていないだろう。
(明日は、奴らの金の流れと、結月さんの居場所を突き止めないと……)
湊は、九条の新たな人間らしいステータスを見て、少しだけ明日への希望を抱いた。
設定紹介
佐伯 志保・・・湊のクラスである2年B組の担任。
ステータス
【知力:78 筋力:42 魅力:75】
【状態:葛藤(大)→ 心配(極大)、自己嫌悪(大)、慈愛(大)、依存性(大)】
慈愛(大)はやはり本物。心配(極大)となり、湊にポロポロと白瀬の個人情報をもらす……湊に個人情報を漏らすことに対する葛藤(大)は、心配(極大)に上書きされた。
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