第4話 世界で一番冷たい色
日野のおかげで、湊は心に余裕が生まれた。日野と会話したことによるクラスメイトからの勘違いの悪意は向けられたが、善意悪意の収支はプラスに傾いている。焼きそばパン(200円)分の金銭的な収支はマイナスだが。
しかし、ステータスにより見える情報がより詳細になっていくにつれて、湊は気づき始めた。人の心は、一見穏やかに見えても、様々な感情が渦巻いている。
教室でクラスメイトと話している時、彼らの頭上には退屈や焦燥、時には理解できないような、クラス全体が悪意や恐怖に流される集団心理が、文字として表示されていた。
(視えすぎるのは、疲れる)
他人の感情に振り回されそうになるたび、湊は日野を見つめたり、家に帰って茶々丸をなで回したりすることを考えた。それが、この新しい世界で僕が平穏を保つ唯一の方法だった。
視線の先で日野が席を立った。今は午後の最初の授業が終わり、短い休憩時間だ。きっとお腹が減った彼女は売店に向かったのだろう。この時間は、惣菜パンやおにぎりが割引で買える可能性がある。
日野がいない教室の喧噪は、みんなの悪意は湊の心をどんどん削っていく。居心地が悪い、居場所がないと感じてしまう教室。湊は普段行かない屋上へと足を運んだ。この時間の屋上は、誰もいないはずだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
誰もいないはずの屋上
しかし、今日は珍しく先客がいた。
そこに立っていたのは、学年で一番成績優秀。2年A組。湊とはクラスは違うが、
誰からも尊敬されている、白瀬 結月(しらせ ゆづき)だった。彼女が屋上の手すりに向かって歩いている時、湊はもう習慣になっている視線を向け、彼女のステータスを覗き見る。
その瞬間、息をのんだ。
彼女の頭上には、これまで見たどんな感情とも違う、不気味な赤い文字が、静か
に表示されていたのだ。
【名前:白瀬 結月】
【年齢:16歳】
【職業:高校生/合唱部】
【知力:82 筋力:35 魅力:88】
白瀬、結月……。学年でも有名な美少女で、成績も常にトップクラスの優等生。だが、今の彼女にその輝きはない。
湊の目が、彼女の内側を捉えた。
【状態:絶望(極大)】
【異常:呪い(165時間42分10秒後に死亡)】
その瞬間、氷水を浴びせられたような激しい悪寒が湊を襲った。
昨日の中年男の怒りとは比較にならない、底冷えするような深い拒絶の感情が流れ込んでくる。
呼吸が詰まる。
(……寒い、ただ寒い)
湊の心も凍えた。ガタガタと震えが止まらない。
彼女の心は、自分の将来にも、この世界にも、何一つ期待していない。色が抜け落ちたような、くすんだ灰色。色が抜け落ちた虚無が彼女を覆い尽くしている。
だが、湊を真に凍りつかせたのはその感情だけではなかった。
彼女のステータスの最下段。今まで見たこともない、不吉なほど鮮やかな赤色の文字が、警告音を鳴らすかのように点滅していたのだ。
【異常:呪い(165時間41分31秒後に死亡)】
(……呪い? なんだよ、死亡って何だよ!)
【異常:呪い(165時間41分30秒後に死亡)】
【異常:呪い(165時間41分29秒後に死亡)】
一秒、また一秒と、無慈悲にカウントダウンが刻まれていく。165時間41分29秒後。つまり7日後。
それが何を意味するのか、今の湊には分からない。ただ、この数字がゼロになった瞬間、彼女の身に取り返しのつかない最悪が起こる――ステータスに表示されたおぞましく感じる赤色の文字の点滅が、彼女から感じる虚無の気持ちが、そう確信させる。
――僕は平凡だった日常が、崩壊する音を聞いた。
設定紹介
白瀬 結月・・・黒髪ロングヘアー、魅力:88を誇る美少女。学校のアイドル的存在。彼女見たさに昨年の学園祭の合唱部ミニコンサートでは行列ができた。最近、合唱部は休みがち。昨日の食事内容:なし
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