第3話 勇継貴族
老エルフとティルフィアが金髪男の前に跪く。
「お待たせして申し訳ございません。族長のセウールと巫女のティルフィアがまいりました。本日はどういったご用件でしょうか、ネブル様」
老エルフ──セウールが恭しく訊ねると、金髪男ネブルはわざとらしくふたりを見下した。
「わかっているだろうセウール。貴様らが守護するノースオレスト神殿。そこに祀られている遺物を私に寄越せと言っている」
セウールは頭を垂れたまま答える。
「何度も申し上げておりますがネブル様、それはできませぬ。神殿に祀られておりますアレは、我々エルフ族ですらまともに触れられぬ神代の代物。いかにネブル様といえど、お触れになっては命に関わりますゆえ」
するとネブルの顔から笑みが消える。
馬から降りたネブルは無言でセウールの眼前まで歩み寄ると──そのままセウールの顔面を蹴り飛ばした。
「ぐぶふぉっ」
「きゃあああっ!」
堪らず悲鳴を上げるティルフィア。
ネブルはセウールの頭を乱暴に持ち上げる。
「貴様、エルフごときが誰に向かって無礼な口をきいている?」
セウールは苦痛にうめくばかりで答えられない。
老エルフをぞんざいに放り捨て、ネブルは周囲のエルフ達にも聞こえるように大声で語った。
「私はネブル・デルテリア! かつて魔王の脅威から世界を救った『五聖の勇者』の血を引く勇継貴族であるぞ!」
やっぱりあの金髪野郎も勇者達の子孫ってわけか。
見ての通り、いまやこの大陸は、勇者の血を継ぐ者達の支配下にある。
かつて世界に平和をもたらした五聖の勇者は、それはそれは大層称えられ、確固たる地位と名誉を手にして人生を謳歌した。
まあ結構派手に暮らす勇者達だったおかげで彼らの血を継ぐ子供達がたくさん生まれていったわけなのだが……流石は勇者の血統というべきか、その子供達は多くが類稀なる魔法の才に恵まれて、さらには本来世界に存在しなかった権能をも具えていたのだ。要するに、勇者の血筋は強者の血筋だった。
その後、時代が下るにつれて勇者の血を引く者達は勢力を強め……果てには旧来の貴族を駆逐し自分達が国の支配階級にまで上り詰めた。
それが勇継貴族である。
そしていま現在、大陸は『大陸統一国家ベルウッド』となり、勇者の血を引く王族と勇継貴族によって統治されているというわけだ。
「私は誇り高き聖盾の勇者ショウマの血を継ぎし存在! そんな私に貴様ら下等劣種の玩具程度が扱えないとでも?」
ギロリ、とネブルの眼球がティルフィアを向く。
「ひっ」
身を強張らせて頭を垂れるティルフィアを見て自虐的な笑みを浮かべたネブルは、次いで下品に目を細めると片膝をついて彼女の顎を持ち上げた。
「なあティルフィアよ。私に神代の遺物を差し出せ。それがあればトータステイル傑血卿も私の功績をお認めなさるに違いないのだ。そうなれば我がデルテリア家は
小さく震えるティルフィアへと、ネブルは舐め回すような目つきとともに語りかけ続ける。
「もし素直に渡せばお前のことを妾にしてやってもいい。卑しいエルフの身分でこの私に尽くすことができるのだ。この上ない幸せだろう?」
ティルフィアの顔から血の気が引いていく。
そこでついに周囲のエルフ達が怒声を上げた。
「いい加減にしやがれクソ領主!」
「そうだ! お前なんかに我らが守り続けてきた遺物を渡してなるものか!」
「ティルフィアから汚い手を離せ人間!」
男女問わずエルフ達がネブルに向かって重ねた掌底を向ける。攻撃魔法を放つ体勢だ。
しかし、立ち上がったネブルは少しも動じることなくエルフ達を睨み返した。
「やはりエルフは寿命が長いだけの劣等種だな。もういい。全員殺した上で遺物を持ち帰るとしよう」
そう告げてエルフ達の方に歩き出すネブル。
数十を超えるエルフ達の手に一斉に魔力の煌めきが灯った。
「人間一人がこの数を相手になにができる! 砕け散れ──『
エルフ達の手から魔法が撃ち放たれ、そのすべてがネブルに殺到する。
烈風の弾丸が着弾と同時に炸裂し、周囲に砂塵を撒き散らす。数十の魔法による集中砲火の衝撃が、大気の振動となって巨大樹の葉すらも大きく揺らした。
やがて空中を舞っていた土埃が晴れていく。
その先には……無傷のネブルが立っていた。
「無傷、だと……」
「そんな馬鹿な……」
見てみると、ネブルの右手には、小ぶりの白い盾が構えられている。
ネブルは口端を吊り上げた。
「見よ! この美しい盾を! 我が先祖たる勇者ショウマが手にした聖盾コンティクスのレプリカだ。実に美麗だろう? この盾こそ私が誇り高き勇継貴族であることの証左である」
愛おしげに盾を撫でつつネブルは続ける。
「さて、この通り私にかかれば貴様らエルフの魔法など下級の防御魔法で充分なわけだが……冥土の土産だ、貴様らのような低脳でも絶対的な差というものを理解できるように我が真の力を見せてやるとしよう。──勇血権能『
宣言と同時にネブルの全身を包み込む輝き。
それは次第に輪郭を成していき──やがて煌めきが収まると、そこにあったのはさながら天使のごとき外観の全身鎧に身を包んだネブルの姿だった。
「さあ恐れ慄くがいい。この高潔なる権能をもって、貴様ら愚者どもを粛清する」
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