【第19話】隠した気持ち。
部活を終えたあと、私はそのまま駅へ向かった。
電車に揺られながら、
窓に映る自分の顔をぼんやりと眺める。
——私、今から何しに行くんだろう。
答えは分かっているのに、
言葉にするとすべてが崩れてしまいそうで、心の中で何度も問いを打ち消した。
長い乗車時間。
その間も、
京介からはいつも通りのメッセージが届く。
——————————————————
木村 京介
件名:なし
なら10時05分に○○着くやつやな✊🏻
セブン○○○前店で待ち合わせな🤭
タクシーは呼んでおく?✨
どこ行くか決まってないけど、
どうしよっかね?(^^) ★
帆波知っとると思うけど
寮の近くはリアルに何もないけぇな😂
——————————————————
知っている。
それが当たり前みたいになっていたこと
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
もっと会いに行けばよかった。
もっと、ちゃんと向き合いたかった。
向き合う時間が、もっとあったら、
この恋に向き合う勇気がもっとあったら、
私は、今日の選択をしていただろうか。
答えのない問いに、自問自答する。
電車が減速する音に、
涙がこぼれそうになるのを必死で堪える。
今日は笑顔で終えたい。
⸻。
待ち合わせのセブンイレブンには、
私の方が先に着いた。
落ち着かない気持ちで、
何度もスマホを見る。
その時、見慣れた姿が歩いてきた。
ジャージ姿の京介。
それだけで、心臓が強く跳ねた。
——あぁ、どうしようもなくこの人が好きだ。
理屈じゃなく、
身体が先に反応してしまう。
「おつかれ」
その声も、その距離も。
全部が、どうしようもなく愛おしい。
「ゆっくり話せるとこ行こっか」
自然な流れで、私たちは歩き出した。
⸻
ホテルの部屋は、
思っていたより静かだった。
話して、笑って。
いつもと同じ空気が流れる。
心地いい。
それが今の私には、苦しかった。
——そして、視線が絡んだ瞬間。
当たり前のように唇が、重なる。
唇が離れたその時。
私は京介の目を見て——
気づいたら、口走っていた。
『……続き、する?』
自分の声が、
自分じゃないみたいだった。
でも、嘘じゃなかった。
最後に、京介をもっと感じたい。
私の中で、
彼への気持ちが溢れた瞬間だった。
今日という日を、私の中に刻みたい。
本気の恋を知った相手と、
今日だけでもいい、結ばれたい。
この後、辛くなったとしても、
この選択をしなければ、きっと私は後悔する。
なんとなく、そう思ったから。
――京介の目が、一瞬、激しく揺れた。
それでも、彼は何も言わずに。
私たちは、もう一度、唇を重ねた。
京介の手が、優しく私に触れていく。
溢れそうになる涙を、必死で堪えながら。
その時。
「...好き」
予想もしなかった言葉が、耳に届く。
胸が、音を立てて崩れそうになった。
『……好き』
涙を見せないように、京介の肩に手を回して。
それだけを伝えるのが精一杯だった。
この瞬間が、
幸せなのか、
それとも残酷なのか。
もう、分からない。
これまでだって、経験はあるはずなのに、
この夜だけは、
溢れる気持ちも感覚も全てが初めてだった。
想いが、ちゃんと感覚に追いついてくる。
——そんな感覚だった。
私は、
新しい気持ちを、
新しい感覚を、
一つずつ知っていくように、
ただ、目の前の京介の熱に溺れていった。
今日という日が、消えてしまわないように。
残ったのはただひとつだけ。
——この気持ちは、確かに、疑いようのない“本物”だったということ。
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