【第18話】静かな決意。

この頃の私は、もう限界だった。



現実と抱えきれない想いが、

胸の奥で膨らみすぎて、息をするたびに内側から押し返してくる。



好きだと認めてしまえば、壊れる。

認めなければ、自分が削れていく。



そのどちらも選べないまま、


私はただ心に蓋をして

変わらないふりを、続けていた。



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木村 京介

件名:きょうヤギマンからちいほなヤギへ

メールが返信されましたw


なら俺が小さい時によくじいちゃんから

子守唄歌ってもらってた曲歌ってやるたい🤭

帆波もぐっすり眠ってしまうばぃたぶん😍笑


超超超超超いい感じ★(^0^)笑


俺ぜったぃ孫には子守唄として

ロック歌ってあげるけん😍笑


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From:帆波

件名:ホナヤギちゃん、きょうヤギのメール食べました(笑)


ずっと聴いて

寝れんくなったらどうしよ?😌笑


恋愛レボリューション😗!!


孫もびっくりするて(゚Д゚) ❗️

まるまるもりもりくらいにしとこ?🤭笑


——————————————————





――もう、この気持ちから逃げてしまいたい。




それが、正直な本音だった。








グラウンドに立っていても、

集中できない日が増えていた。




声を出しているはずなのに、

自分の声がどこか遠くから聞こえる。



そんなある日、

練習後の自主練の時間に、

一つ上のエース・矢口さんに声をかけられた。




「最近さ、帆波。なんか元気なくない?」



不意打ちの一言に、心臓が小さく跳ねた。



『……そうですか?』



誤魔化すように笑ったけれど、

自分でも分かっていた。



隠せているつもりで、

何も隠せていなかったことを。



「なんかあったんやろ? 見とったら分かる」



その日、

私はグラウンドで初めて、私情を持ち込んだ。



堰を切ったように、涙が溢れた。



理由なんて、ひとつじゃなかった。



部活のこと、

自分の立ち位置、

期待に応えられない不安。


そして――京介のこと。



ぽつりぽつりと、

矢口さんに心中を零していく。



「俺らみんな、帆波に言わんだけで

本当、感謝しとるよ。


一人で俺らの中に入るの不安やったやろうし。


練習の補助、試合の日程調整

弁当の準備……よくやってくれとるし


少なくても、俺は分かっとるよ。


恋愛は——

帆波のこと泣かせる奴なら、辞めときなって言いたいかな」



先輩の言葉が耳に届くたび、


自分の不甲斐なさにさらに嫌気がさした。



『すみません、自主練中に。


話聞いてくれてありがとうございます。もう大丈夫です』



「いや、俺が無理やり聞いたけんな。

我慢すんなよ。帆波には、元気が似合う」



『ありがとうございます』



部員にまで、心配をかけて。



一人の人を好きになることすら、

うまくできない。



守りたい関係があるのに、

自分の心すら守れない。



涙を拭きながら、

私ははっきりと思った。



――もう、終わりにしよう。



このままじゃ、私は壊れる。



京介のせいじゃない。


誰のせいでもない。



ただ、今の私には、

この想いを真っ直ぐに抱え続ける力がなかった。



本気の恋は、

初恋は、



私には重すぎた。








それでも。

終わりにするなら、後悔しないようにしたかった。



逃げるように消えるのだけは、

嫌だった。



だから私は、「最後に会おう」と決めた。



何を話すのか。


何を言うのか。


自分でも分からない。



ただ、会わずに終わらせるという選択だけは、


私にはできなかった。








⸻ 日曜日まで、あと二日。




京介に会うと決めてから、

私はずっと自問自答を繰り返した。



本当に、これで最後でいいのか。


後悔しないか。



でも、自分でも驚くほど、

私の意思は堅かった。



その夜、私はペンを走らせていた。 







京介へ



この手紙を京介が読んでるってことは、ちゃんと日曜日会えたってことだね★



今日は、京介にちゃんと伝えないといけないことがあって、お手紙を書いてます。


多分、直接言えないから、こういう形で伝えることを許してほしい。


大地に紹介してもらって、京介と出会って、毎日連絡取り合って。二人で遊んだり、ただ話し続けたり、バカみたいなこと言い合ったり、たくさん楽しい時間を過ごして来たね!


今思えば、そんなに長くない時間なのに、いくつも思い出が出来た。


インカレの時、お互い宿舎抜け出して会った日のことなんて、ずっとずっと忘れられないと思う★


何より、お互いに今辛いことだったり、過去の恋愛のことだったり。深い深い話も沢山してさ、きっとこれまでの時間、お互い支えになっていた部分は少なからずあったんじゃないかな。って私は思っとるよ。


でもね、実は京介に出会って、私の中で初めての感情がいくつかあって。


言葉にするのが難しくて、自分でもどうすればいいのか分からなくて、今の私には、それを抱えきれなくなった。


京介が大切で大事だってことは、一切変わらないし、嘘ではない。


でも、これ以上一緒にいれない。


友達以上の関係は始まってないのに「終わらせる」って言い方は変なんだけど、出会う前に戻らせてほしい。

自分勝手でごめんなさい。

この前二人で話した"いい関係"を築いていけなくてごめん。



京介?

ちゃんと今周りにいる人達と支え合って、今の京介の壁、ちゃんと乗り越えてね。京介なら絶対大丈夫。乗り越えられる。


京介ならできる!ついてる!♫


どうか笑顔いっぱいで幸せになってね!

いつまでも、ここから応援してる。

本当にありがとう。


                 帆波より




手紙を書き終えたあと、

私はしばらく、何も考えずにペンを置いていた。



「これで、いい」




自分に言い聞かせている言葉が、静まり返った部屋に小さく溶けていった。

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