【第14話】証。

初めて、二人きりの時間を過ごした翌日から、

私たちはそれぞれの日常へと戻っていった。



お互い、野球が忙しくなる。



京介と私の所属する野球部はリーグが違う。



普段なら交わることのない場所で、

それぞれが、それぞれの戦いをしている。



だが、年に一度だけ同じ大会に出場する。

その大会が来月に迫っていた。



大会が近づくにつれて、

京介は相変わらず、調子の波に飲まれていた。



——————————————————


木村 京介

件名:なし


先輩から叱られた。

お前いま野球中途半端やぞって😭

俺も自分で気づいてるんだけど


なんか最近やっぱり調子わりいけん

試合で迷惑かけそうやし…💦

なんかめっちゃ弱気で野球に対して

ナイーブになってるわ😭


——————————————————


From:帆波

件名:なし


小さい時から今まで野球してて

ずっと調子いい人なんておらんし

ナイーブになる時だってあるよ😢


大会も近いし焦る気持ちも分かるけど

今は、無理に頑張らんくていいし

前向き、上向きじゃなくて

斜め見ても下向きでもちゃんと

野球に向き合っとる事実が大事☺️


いつかその壁は越えられるけんね☺️

京介なら絶対大丈夫。


京介が今は信じきれんなら

私が信じとる✊🏻


あと、迷惑って思う人なんておらんと思うよ。

誰もが調子悪い時は絶対あったと思うし

京介の気持ちも痛いほど分かってくれる。

多分その先輩も、京介なら乗り越えられる

って思って叱ってくれたんやと思うよ!

やけん迷惑とか絶対ない☺️

そこに関しては大地にも叱られて

きてください京介さん😌(笑)


——————————————————


木村 京介

件名:なし


帆波さんきゅう😢

いつもいつもメッセージさんきゅうな!

ほんと有難い😢


この前、帆波と一緒に話したとおり

止まっても、少しずつでも

気分回復目指していきたいなあって思う(^^)


大きな壁だと自分でも思うけど

これを乗りきってみせるから

信じて見守っててな😊


たしかに大地にも叱られそうや(笑)

本当にありがとう😢


——————————————————


From:帆波

件名:なし


うん、止まっても少しずつ歩んで

いけばいい(^^)!


それを乗り越えた時は

きっとプラスしかないよ☺️


京介なら大丈夫!

できる!ついてる!♫


——————————————————


木村 京介

件名:なし


めっちゃさんきゅうな🌟


そうね😊

大きな試練を乗り切ることが出来たら

その先は必ずプラスやんな✊🏻


きょうすけならできるついてる♪(^^)

これ合言葉やん🤭⭐️


まだすぐには、その気持ちの

切り替えが出来んくて

また迷惑かけるかもしれんけど

合言葉大事に切り替えるけん✊🏻


——————————————————


From:帆波

件名:なし


京介ならできる!ついてる♫

合言葉にしようね(^^) ✊🏻


迷惑なんて思ってないし

むしろもっと迷惑かけていいよ😌♫

いつもみたいなふざけた話も

こういう話も大事に思っとるよ☺️


——————————————————



京介が弱さを見せてくれた時には、

とにかく、前向きな言葉を送り続けた。


大会の日程も出て、

お互いの遠征先が近くなることが分かった。


お互い忙しい中、

私たちは自分たちのペースで連絡を取り合って



「タイミングが合えば、会いたいね」


そんな話をしていた。




私は、京介に今を乗り越えてほしくて、

ミサンガを作ることにした。



会える保証なんてどこにも無かったけど、

何となく会える気がしていたから。



京介が好きだと言っていたピンク色の糸を選び、

ひとつひとつの結び目に祈りを閉じ込めるように編んでいく。



そして、

手紙も綴って、小さな袋に入れた。




――大会1日目を終えた夜。




翌日の準備、ミーティングを終えて



私は、宿舎を抜け出した。




待ち合わせた場所に、一つの影。



街灯の下で、少し疲れた横顔をしていた。



「...よう。会えたな」


その一言に、胸がぎゅっと縮む。



『会えたね』


言葉は少なかったけれど、

不思議と沈黙は重くなかった。



私は、カバンから小さな袋を取り出した。


『はい、これ』

京介は、少し驚いた顔でそれを受け取る。



『あとね』


私は、少しだけ視線を逸らして言った。



『手紙読むとき、

ハジ→の「証。」聴きながら読んで?』



「わかった。ありがとう」



そこからしばらく、

いつも通り、二人で他愛もない話をした。




心地よい時間が、静かに流れていく。



でも、別れの時間が近づくにつれて、

言葉は少しずつ熱を帯び、減っていった。



「……帆波」


名前を呼ばれる。



その距離が、

気づけば、さっきよりもずっと近い。



「今日、会えてよかった。

これもありがとね。」



『うん、私も会えてよかった』



自然と視線が交わる。


それ以上、何も言えなかった。




夜の空気。

聞こえるのは、遠くを走る車の音だけ。




どちらからともなく、

ほんの少し、前に出た。



――ごく自然に、唇が触れる。




確かめるみたいに、


そっと、短く。



京介とのキスは、

初めてなのに不思議と心地よくて、

同時に、息ができないほど胸が苦しくなった。



なぜか、涙がこぼれそうで、

こんな気持ちは、初めてだった。



「あぁ、これが好きってことなのかな」



漠然と、そんな言葉が頭をよぎる。



でも、今は何も考えられない。


目の前の京介に、ただ向き合いたい。



そう思った。


唇が離れたあと、

互いに言葉は交わさない。


今は、それでよかった。



関係の形を定義することより、


気持ちを確かめるより、


今は、ただ触れていたかったから。





私にとって、この夜が、

どんな言葉よりも確かな「証」になっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る