【第8話】愛おしい予感。
いよいよ、約束の日が今週末に迫る。
相変わらず、京介とは電話とメールを重ねる毎日が続いている。
それでも——
「来週、会うんだ」という実感だけが、
どうしても追いついてこない。
約束は、まだ少し先の出来事のようで。
けれど、その距離を埋めるように、
今日もまた、受信箱が静かに光る。
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2012年5月28日
木村 京介
件名:なし
おはよ(^^)✨
ねぇねぇ、俺らのTELは寝落ちと3時間
コースしかないんですか帆波さん(^^)?w
もっと無いんかなあ😍笑
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From:帆波
件名:なし
おはよー☺️☀️
それは、京介くんがいつも切りたくなさそう
やけんそのコースになってしまうんよ🤭笑
もっとってどんなん?(゚Д゚)
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木村 京介
件名:なし
いやいや逆で、帆波が切りたくないって
言うけんいつもたいがい3時間コースか
寝落ちコースになってしまうとたい😪
たとえば4時間コースとか😍笑
俺ら多分余裕よな!?★♫
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From:帆波
件名:なし
素直じゃないなぁー😚
仕方ないけん引き分けにしとこーね🤭笑
時間増えとるやん(゚Д゚) ‼️笑
まぁ、余裕だと思うけど✨(笑)
一限がない前日にお願いします(笑)
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木村 京介
件名:なし
いやその言葉そのまま返すばぃ😌
そっちが素直になりなっせ🤭笑
土曜日は素直な帆波ちゃん
期待しとるけんねッッ😍★?笑
俺らならちゃんと一限も行けるって♫笑
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そんなやり取りをしていた、ある日のこと。
バイトの帰り際、常連のお客さんに呼び止められた。
「帆波ちゃんよかったら、飼わない?」
差し出された小さなカゴの中で、
白くて小さなハムスターが丸くなっていた。
理由を聞くと、お家のハムスターの
赤ちゃんたちで里親を探しているらしい。
命を迎えるということは、
可愛いだけじゃ済まないことを知っている。
世話も、責任も、別れも。
ちゃんと最後まで背負えるだろうか、と。
それでも。
小さなカゴの中で丸くなったその可愛らしい姿から
どうしても目を離せなかった。
断る理由は、
気づけば、見つからなくなっていた。
——その日の夜、
部屋に新しく置かれたケージの前で、
私はしばらく立ち尽くしていた。
小さな体で、きょろきょろと周りを見回すその姿が、
どうしようもなく愛おしい。
でも、
名前が、決まらなかった。
どんな名前がいいのか、何が似合うのか、
考えれば考えるほど、分からなくなる。
気づけば私は、
その悩みを、京介に送っていた。
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From:帆波
件名:なし
ねぇねぇ‼️京介見て✨
ハムスター飼うことになった🐹
けど名前が決まらん😭笑
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木村 京介
件名:なし
かわいっ!!白いハムスター😍★
俺がかわいがってあげたいわ✨ (^^)
早く名前決めてあげんとたい!
俺が決めちゃろうか?😍★✨笑
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From:帆波
件名:なし
かわいいやろー💓(^O^)
センスいい名前つけてくれる?🤭笑
男の子です🐹
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木村 京介
件名:なし
お名前発表会します🤭‼️
ゴンゾーくんです✨
名付け親が俺とかサイコーじゃん😍♪w
だけんいつも可愛いがっとけよ✨(^^)
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思わず、ふっと笑ってしまった。
ゴンゾーくん。
まさかそんな名前が出てくるなんて
思っていなかったのに、
なぜだか、不思議としっくりくる。
声に出して呼んでみる。
「……ゴンゾー」
不慣れな響きが、静かな部屋に溶けていく。
小さな体が、ぴくっと動いた。
可愛いフォルムにギャップのある名前で
愛おしさが増していく。
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From:帆波
件名:なし
ゴンゾー(笑)
まさかの名前すぎるやろ😂
でも、なんか可愛いけん許す(^O^)
名付け親が京介とか、素直じゃ無い
立派なハムスターに育ちそうやね🐹笑
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木村 京介
件名:なし
帆波ちゃんごめんなッ?😙
土曜日、俺は帆波じゃなくてゴンゾーに
会いに行くわ😍★笑
素直じゃないハムスターとかちょっと
厄介やな🤭笑
でもゴンゾーはやれば出来るハムスター
だけんまかせろよッッ!✌🏻✌🏻
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ケージの中で、
ゴンゾーが小さく丸まって眠っている。
名前をつけただけなのに。
それだけのことなのに。
この部屋に、確かに「増えてしまったもの」が
ある気がして、胸の奥が少しだけ落ち着かない。
それはケージひとつ分という
物理的な重さだけじゃなくて、
私の意識の何割かを、
気づかないうちに、
でも確実に、
京介に明け渡してしまったという——
逃げ場のない予感だった。
会う前に、同じ存在の話をして、同じ名前を口にして。
誰もいない部屋で「ゴンゾー」と呼ぶたび、
私は鏡を見るように、脳裏に京介の名前が浮かぶ。
約束の日まで、あと少し。
まだ、何ひとつ始まっていないはずなのに。
――確かに愛おしい予感がした。
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