【第7話】約束は突然に。

京介と初めて電話をした日から、


私たちはごく自然に、

声を交わすことが日課になっていた。




夜はどちらかが眠りに落ちるまで続く、

とりとめもない長電話。



朝は「今日も頑張ろうね」と交わす、

体温を確認するような短い電話。



授業の合間や空き時間には、校舎の隅で声を潜めて。



電話ができない時間は、

当たり前のようにメールの履歴を更新した。



京介と繋がっていることが、

私の「日常」の真ん中に居座るようになっていた。



私たちはそうして、

特別でもなんでもない時間を、



気づかないうちに、

少しずつ二人だけの「特別」に書き換えていた。



そんなある日、大地から着信があった。



『来月の二日、帰省するんやけどさ』



そんな何気ない切り出しから始まった会話は、

予期せぬ方向へ転がっていく。



『帆波の家、遊びに行ってもいい?』



大地は最近、彼女ができたばかりだ。



「うちらの仲やけど、彼女持ちを家には呼べんよ。

大地の彼女のこと、私も大事にしたいもん。無理」



即座に断った。



それが私のルールであり、誠実さだと思っているから。



けれど、少しの沈黙のあと、

大地はどこか楽しげに、こう続けた。



『そう言うと思った。……でもさ、京介を連れて行きたいんよ』



一瞬、思考が止まった。



受話器の向こうから、

微かに聞き覚えのある笑い声が届く。




京介だ。



すぐ隣にいる気配が、音だけで肌に伝わってくる。



動揺して言葉に詰まっている私に、大地は決定打を放った。



『俺が会わせんかったらさ、

たぶんお前ら、このままやろ。


ってことで、二日な!


お礼は明太クリームパスタでいいよ』



断る、という選択肢がどこにも残っていないことに、私はその時、はっきりと気づいてしまった。



電話を切ったあとも、胸の奥のざわめきは静まらなかった。



今の私たちは、まだ「声と文字」だけで出来上がった蜃気楼のような関係だ。



それが実体を持って、私の部屋というプライベートな空間に現れる。



恐怖に近い緊張と、それを上回るほどの高揚感。




しばらくして、

京介から追い打ちをかけるようなメッセージが届いた。


——————————————————


木村 京介

件名:なし


帆波ちゃん✨

俺は何作ってもらおうかね?♫笑

楽しみやーーー🤭★


——————————————————




画面に浮かぶ文字を見つめながら、

深く、深く息をついた。


約束はいつも、こんなふうに突然。



私の覚悟なんて置き去りにしたまま、

形になってしまうものなのかもしれない。



文字の向こうにいたはずの彼と、

同じ空気を吸う日が来る。



約束の日まであと二週間。



――私たちはもう、


明日よりもずっと先の、未来の話をしていた。

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