【第5話】初めて声を聞いた夜。

初めてメッセージを交わした日から、十一日目。



気づけば私たちは、

驚くほどの頻度で長文のメールをやり取りしていた。



スクロールしないと

最後まで読みきれない文量の受信メール。



数回下書き保存を繰り返しながら、

もらったメールを読み返し、

一つひとつの話題に文字を打っていく送信用のメール。



他愛のない日常の話。


ふざけた冗談。


時々、少しだけ真剣な話。



そして、お互いの中心にある野球の話。



どうしてこんなに話題が尽きないんだろう、

と、ふと思うこともあった。



今まで、何も考えずに、

こんなふうに真っ直ぐ言葉を重ねられる人はいなかった。



メールを送って、しばらくして

画面が光るたび、少しだけ嬉しくなる。



心地がいい時間が流れていた。



——その夜も、


いつもと変わらないやり取りの途中だった。


——————————————————


2012年5月14日 14:55

木村 京介

件名:なし


今日OFFやったじゃん♫

親友と買い物とカラオケ楽しんでな😍

俺は帆波の分まで野球頑張っとくわ💪🏻


えっ、アンパンマンは君さ~♪て😍?(笑)

あっ!!こしあんかつぶあん、どっちかて★?

そんなん、つぶあんに決まっとるたい!!(^^)笑


俺たちさ、メールめっちゃ長くない?★

メールじゃめっちゃ話しよるけど、

TELじゃ話したことないとゆー♫笑


めっちゃお互いノリノリなのに、

声聞いたことないとゆー♫

めっちゃうけるとゆ~😍笑笑

TELやと、もっと盛り上がるかな😊?

ずっと喋ってばっかみたいな✨笑


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From 帆波

件名:なし


たくさん歌ってくるねー♫✨


あー!ダメ!アンパンマンはこし餡一択!

こし餡は絶対に譲れん!😒

これ常識だから覚えておくように😙笑


メールめっちゃ長いね☺️笑

長すぎて、たまに話題覚えきれんくて

下書き保存して前のメール確認しとるもん✨笑


電話だとどうなるんやろうね!

喋りすぎて大変かも🤭!(笑)


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木村 京介

件名:なし


いま練習終わった⚾️

帆波OFF楽しんだかい😍?


しゃーないなぁ?

アンパンマンネタは負けてやる→(笑)

あんこは帆波に譲ってやる!(^^)

俺、優しい😍笑


メール下書き保存俺もやっとる❗️笑

TELも盛り上がるのは確実やね(^^)♫

でもTEL番知らんもんな〜(笑)

誰かさん、教えてくれんかな〜?✨笑


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From 帆波

件名:なし


さっき帰ってきた🏠

久しぶりのOFF満喫してきた✌🏻


えっ、めっちゃ上からなの気になるけど、

京介くんありがとうね?☺️

ちゃんとお礼言う私、偉い😙


誰かさん、素直に教えてって言えば

いいのに😚笑

080-XXXX-XXXX ですよー☺️?


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画面いっぱいに並んだ文字を、

指でなぞるように読み返す。



笑ってしまうような、どうでもいい話ばかり。



なのに、その一文一文が、やけに嬉しくて、

自然と頬が緩む。



――電話。



たったその二文字が、胸の奥を、静かに揺らす。




こんなにも言葉を交わしているのに、

私たちはまだ、お互いの「音」を知らない。



メッセージの向こうにいるのは、文字だけの京介。



話してみたい。



そう思うことはごく自然なことだった。




———その時。



手に持ったままのスマートフォンが、激しく震えた。



知らない番号からの着信。



「京介かな」



なんとなくだけど、確信した瞬間。



深呼吸をひとつ。


私は、通話ボタンを押した。



『こんばんは〜。

京介です。帆波さんですか?』




受話器越しに届いた、明るくてとても優しい声。



「帆波さんですよ(笑)

心の準備できてなくて、びっくりしたんやけど…(笑)」



『あ、計画通り(笑)OFF楽しかったー?』


「なにその計画(笑)

めっちゃ満喫してきたよー。京介も部活お疲れさま」



『ありがとう。

……なんか、初めての感じせんね?(笑)』



「うん、せんね(笑)もう緊張タイム終わった」



『えー、もっと緊張してほしいのにい〜(笑)』





そんな、初めての電話だった。



スピーカー越しに聞こえた京介の声は、


想像していたよりもずっと優しくて、私の中にスッと溶け込んでいった。



気づけば、お互い明日が一限目からだということも忘れて、三時間も話し続けていた。



一対一で、

声だけで繋がる、濃密な時間。



カーテンの向こうで、

夜がすっかり深くなっていたことを、後から気づく。



耳の奥に、まだ彼の残響がこびりついている気がした。



――この夜から。



京介は、

もう「文字だけの人」ではなくなった。


静かに、確かに。

私たちの距離は、また一歩、深まっていく。

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