第6話 俺が学園の男子から敵対視されたわけ

「てなことがあったんだよ」


「……君、自慢なのか? 僕が部活に行ってる間に君はそんなにも羨ましい体験をしていたというのか」


「羨ましいのか?」


「当り前だろ! ぶち〇すぞ」


 いきなり低い声でとんでもないことを言われた。

 そこまで怒らなくてもいいだろうに。


「悪かったって」


「はぁ。まあ、いいけどさ。それよりもそんな自慢話をするためだけにわざわざ電話をかけてきたのかい?」


「なわけないだろ。一つ聞いておきたいことがあるんだよ」


「珍しい。何を知りたいんだい? 僕が知っていることであればなんでも答えるよ」


 電話越しなのに笑っている顔が容易に想像できるような明るい声で雄介は言ってくれる。

 相変わらずこいつはいい奴だ。


「天城について知りたい。例えば今まで告白されてどんな対応をしてきたのか、交友関係はどれくらい広いのかとか」


「へぇ~本当に珍しいね。陸斗が玲瓏学園の、それも女子に興味を持つなんてさ」


「仕方ないだろ。付きまとわれてるんだから。自衛のためにもいろんなことを調べておいて損はない」


 天城が何を目的にしているのかを知るためにも様々な情報を仕入れておくべきだ。

 そうすることで厄介ごとを回避することができるかもしれない。

 そうでなくても、今後の関係を良好にできるかもしれないしな。


「それもそうだね。まず、彼女の告白に対しては結構いろんな噂をきくね。例えば取り付く島もなくアッサリ振られたとか。心をバキバキに折られたとかその他もろもろ。基本的にひどい振り方ばかりしてたみたい」


「なんでだよ。そんなことをするメリットも特にないだろ」


 そんな振り方をして逆恨みでもされたらたまったもんじゃない。

 やっていることに対するリターンがない。

 むしろ、それをすることによってデメリットが生まれている。

 天城がわざわざそんなことをする理由があるのだろうか?


「そうなんだけどね。さすがに詳しい理由まではわからないんだけど、推測ならできるかな」


「教えてくれ」


「単に男性が苦手とかね。今まで彼女の周りに男がいたことがないんだよ。友達とかでもそう。彼女が男子生徒と話している姿なんて陸斗を除いて今まで見たことないよ」


「じゃあ、なんで俺にだけあそこまで構ってくるんだ?」


 俺は生物学的に見て完全に男だ。

 男が苦手っていうのなら俺にかかわる意味が分からない。

 しかも、苦手な男と二人でカフェに行ったり勉強を教えようとしたり。

 あいつの行動には謎が多すぎる。


「そんなの僕に言われてもわかんないよ。ただ、単純に君個人が気に入られてるんじゃない? なんでかは知らないけどね」


「謎すぎる……頭が痛くなってきたぞ」


「で、交友関係だけどあんまり広くないと思うよ? いつも一緒にいるのは辻っていう女子生徒だし。他の女子生徒とは普通に会話はするけどそれ以上ではない感じ。ぶっちゃけて言えば友達と呼べる存在はいなさそうだね」


 辻はメイドだから関わっているのはわかるけど、それ以外の女子とは友達でもないってことはあいつ友達0人じゃん。

 意外とまでは言わないけど、あいつほどの人気があれば友達はたくさんいると思ってたんだが。

 ちょいと不思議だな。


「そうなのか。ありがとう。参考になった」


「ならよかった。ま、羨ましいとかいろいろ言ったけど大変そうだね」


「大変だとも。代わってくれるか?」


「代われるのなら喜んで。でも、多分無理だから君が頑張りな。それじゃ」


「ああ」


 雄介はそういってすぐに電話を切った。

 あいつのおかげで少しだけ天城乃々という人間が理解できたような気がする。

 本当に気がするだけかもしれないけど。


 ◇


「お嬢様一つ質問してもよろしいですか?」


「あら、菫が私に質問だなんて珍しいわね。いいわよ。なんでも聞いて頂戴」


 家に帰って少しすると菫が控えめに質問を投げかけてきた。

 普段から自己主張をしない子だから質問をしてくることなんて今までほとんどなかったと思う。


「お嬢様はなぜ彼と結婚がしたいのですか?」


「あら、あなたもそんなことを聞くのね」


「気になりますので。お教えいただけないでしょうか?」


 この子にしては珍しく食い気味に聞いてくる。

 まあ、いきなり主人が誰かもわからない男と結婚するなんて言い出したら疑問にも思うわよね。


「それは秘密よ。菫にも教えてあげられないわね。時期が来たら教えるつもりだからそれで我慢してくれないかしら?」


「そういう事でしたらかしこまりました。時期が来たらお教えください」


「ええ。約束するわ」


 菫は本当に素直な子。

 普通の人ならしつこく聞いてくるんだろうけど、菫は簡単に引いてくれる。

 本当に素直でかわいくていい子。

 私はこの子が大好き。


「ありがとうございます。お嬢様はこれからどういたしますか? お風呂の用意は済ませておりますが」


「もう少ししたら入るわ。少し部屋で休んでくるわね」


「かしこまりました」


 菫は一礼をしてキッチンのほうに向かっていった。

 おそらくは夕飯の準備をしてくれているのだろう。

 本当に勤勉でいい子なんだから。


「ふぅ」


 部屋に戻ってドアを閉めた私は制服から着替えることもなくベッドに飛び込む。

 菫に見られていたら怒られるんでしょうけど、今は見られていないから良しとしましょう。


「宮野くん本当にカッコよかったなぁ」


 これから毎週デートできるし、勉強を教えるという名目で週三回も会えるんだから本当にうれしい。

 デートを含めたら週四回も会えるのよね。

 私、変な事をしてなかったかな?

 ちゃんと冷静でおしとやかな女の子を演じられてたかな?


「私ってダメだなぁ」


 昔の私ならこんな風に自分の振る舞いに不安を覚えることもなかったし、男の人に対してここまで恥ずかしくなったりしたことなんてなかったのに。

 宮野くんと関わるたびにどんどんダメになっていくような気がする。


「いっそのこと監禁でもしちゃおうかな」


 一瞬頭に浮かんだ考えをかき消す。

 そんなことをしたら彼に嫌われてしまうだろうし、私は真剣に彼と結婚したい。

 脅しで従わせたり、弱みを握ったりという手法はあまりとりたくはない。


「人を好きになるっていうのはこんなにも難儀なことだったのね」


 今まで人を好きになることがなかった私はたとえ好きになったとしても、冷静な判断ができると思っていたのに。

 全然そんなことはなかった。

 常に動揺してドキドキして、一人でいると彼のことが頭から離れなくなる。


「ふぅ、こんなところで考えていても仕方がないしお風呂にでも入って気持ちを落ち着けようかしらね」


 ◇


「早速ですが、今日の放課後に勉強をしませんか?」


 天城とカフェに行った翌日の昼休み。

 昨日と同じ四人組で昼飯を食べているといきなり天城はそういってきた。

 俺にとってはすごくありがたい話だ。

 最近勉強できなかった分を一気に取り戻せる可能性があるから。

 だが、場所がよくなかった。

 付け加えると声量も。


「おいおい、あいつ天城さんと一緒に勉強するのか?」


「嘘だろ? 男嫌いで有名な天城さんが自ら男を誘うわけないだろ」


「どんな弱みを握ったんだ!?」


「いや、天城さんに弱みなんてあるわけないだろ!」


 周囲のクラスメイト達がざわめき出した。

 まあ、そりゃ家柄も良くないし今まで全く目立って無かったやつが玲瓏学園の誇る美少女と2人で勉強をすると言うのだからこんな反応になるのも無理はないか。


「あら、声が大きすぎたようですね。失礼しました」


 ぺこりと頭を下げる天城だが、果たして本当に天然でやってしまったのか計算してやったのか。

 どっちなんだ全く。


「お嬢様、お戯れが過ぎますよ」


「あら、ごめんなさい。ま、そういうわけで今日の放課後はお暇ですか?」


「全然暇ではあるんだが、この空気をどうしてくれるんだ?」


「どうもしませんよ? 頑張ってくださいね宮野くん」


 いつものように感情が読めない笑みを浮かべて天城は自分の席に戻って行ってしまった。

 続くように辻も教室から出て行った。


「なあ、俺完全にクラスで孤立するよな。これ」


「安心して。僕はどんな状況でも陸斗の友達だからさ」


「ほんといい奴なのな。お前」


 そんな会話をして俺たちは残りの昼休みの時間を過ごした。

 天城の発言のせいで俺はクラスで孤立確定。

 それどころか、学園中の男子生徒から敵対視されるっていうおまけつき。

 本当についてない。

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