第5話 天才お嬢様との取引
「そんなに畏まらなくてもお金なら私が出しますよ?」
「いや、そう言うわけにもいかないだろ」
流石に女の子に奢られるというのもいかがな物なのか。
わずかな俺のプライドが奢ってもらうことを否定する。
が、悲しいかな。
俺の財布の中身はほとんど入っていなかった。
「いえいえ、誘ったのは私ですので払いますよ。それよりもお話しましょう! そのために私は今日あなたを誘ったんですから」
「悪いな。助かる」
「いえいえ。とりあえず何か注文しましょうか。これがメニュー表ですので」
「ありがとう」
天城からメニュー表を受け取って中を見てから俺は絶句した。
コーヒー一杯の金額の桁がおかしい。
普通は三桁のはず。
ここのコーヒーは四桁もする。
……これが金持ちの世界だとでもいうのか?
「ふふっ、面白い反応をしてくれるんですね。そういう表情も私は好きですよ」
「だって、え。本当に奢ってもらってもいいのか?」
「全然大丈夫です。これでも私はお金持ちなので」
えっへんと言った様子で彼女は胸を張る。
こういうたまに見せる可愛らしい仕草や表情にうちの高校の男子生徒はやられているんだろうか?
天才お嬢様の無防備な一面が好き的な?
「それ、自分で言うのか?」
「まあ、事実ですので。それよりもご注文は決まりましたか? 私は何回もここに来ているので決まっています」
「すぐに決めるよ」
俺はすぐにメニュー表を見て目に入ったコーヒーを注文することにした。
コーヒーだけでかなりの値段がしたから他の物を注文するのは遠慮しておいた。
「宮野くんはかなり気を使ってくださるんですね」
「普通だろ。人に奢ってもらうのにめちゃくちゃ高い物を注文するのは気が引けるってもんだろ」
「普通は人の奢りなら高い物をなるべくたかろうとするものですよ」
「そう言うもんかね」
俺は普段から誰かに奢られるような環境に居なかったしな。
放課後に遊びに行くような間柄の奴なんてほとんどいなかったし。
「そう言うもんですよ。まあ、私はあなたのそう言う所も好意的に見てますけどね」
「あんまし嬉しくないな。面倒ごとに巻き込まれてるわけだし」
「あら酷い。乙女にそんなことをおっしゃるんですか?」
「普通の乙女ではないだろ」
天城が普通の乙女であるわけがない。
家柄もそうだけど性格や頭の出来がそもそも違う気がする。
こいつと話しているとなんだか自分の心の中を見透かされているかのような気分になるからだ。
「それは肯定しておきましょうか。まあ、そんな話は置いておいてもっと楽しいお話をしませんか?」
「楽しい話って具体的にどんな話だよ」
「ん~宮野くんの好みの女性のタイプとかどうでしょうか? 私はそういう事を聞いてみたいんですけど」
俺にとっては全然楽しい話じゃないな。
でも、奢ってもらうわけだしここで話題を逸らすのはあんまりよくないことか。
しょうがない。
「答えられる範囲なら答える」
「嬉しいですね。じゃあ、どんな髪色の子が好きですか? できれば長さも教えてもらえると嬉しいですね」
「髪色か……考えたことなかったな。う~ん」
今まで女の子を好きになった経験が無いし。
そもそも髪色で誰かを好きになることなんて無いと思うんだけどな。
答えを出すとするのなら……
「髪色は何でも良いかな。髪色に惚れるわけじゃないし。まあ、長さはロングの方がどちらかと言うと好きかもしれない」
個人的にはショートよりもロングの方が好きだ。
何故かと聞かれれば何となくとしか答えられないわけだけど。
「なるほど。ちなみに金髪で青色の瞳の子は好きですか?」
「それって絶対に辻の事だよな。まあ、美人だとは思うけど。好きかどうかと聞かれれば好きではないな」
「なるほど。答えていただいてありがとうございます。では、私はどうでしょうか?」
「天城か。美人だと思うけど、辻と同じで好きではないな。ある意味面倒ごとに巻き込まれているはずだし」
天城は悪い奴じゃないと思っている。
だけど、良い奴であるともいえない。
言うとするのなら食えない奴だな。
「酷いですね。まあ、あなたにとってはそうなのかもしれないですけど」
「わかってやってるのなら性格が悪いけどな。それよりも俺からも質問してもいいか?」
「良いですね。お互いに質問しあっていくのですね。良い余興です」
天城は満足してくれたようで笑ってくれている。
俺はこの子のことを知ってから笑っている姿しか見ていないような気がする。
どこまでが本性でどこまでが作っている物なのか。
俺には見定めることができない。
「じゃあ、質問だ。なんでお前はそこまで俺に執着する? 正直言って今まで接点もなかったし、俺に他の誰かと違う特別な魅力があるとは思えない。何か理由があるのなら教えてくれると嬉しいんだが?」
「やっぱりそこを聞いてくるのですね。まあ、想定内ですけど」
「答えてくれるのか?」
「いいえ。乙女の秘密です。女の子はミステリアスなほうが魅力的でいいんですよ?」
小首をかしげて彼女はいたずらっぽく微笑んでいる。
仕草は可愛いはずなのに無性に腹が立つのはどうしてなのだろうか。
「つまり、話す気はないと?」
「そう受け取ってもらっても構いませんね。乙女に殿方を好きになった理由を聞くなんて野暮というものですよ」
「はぁ、一応俺のことを恋愛的に好きって解釈であってるか?」
ここだけは聞いておきたい。
彼女が俺を夫にしたいのは恋愛的に俺のことが好きなのか、それとも他に何らかの思惑があるのか。
「さぁ。どうでしょうかね。黙秘します」
「なんでやねん」
どっちかわからなくなってしまった。
天城はどっちであってもおかしくない。
俺は本当に厄介な人に目をつけられてしまったらしい。
「私はあなたを気に入っています。これだけは確かです」
「じゃなかったらこんな風に付きまとわないだろ」
「それもそうですね。でも、私はあなたのことを好意的に見ているというのは忘れないでおいてください」
「へいへい。好意的に見てくれるのなら俺に付きまとうのをやめてくれると助かる。勉強の時間が減ってたまったもんじゃない」
天城のおかげで丸二日ほど勉強ができていない。
他人を言い訳に使うのはよろしくないことだが、こいつが原因であることは間違いない。
「どうして宮野くんはそこまで勉強熱心なのですか? 玲瓏学園の生徒は確かに皆勉強ができますが、あなたのように熱心な方は珍しい。何か理由がおありなのですか?」
「別になんだっていいだろ」
「良くないから聞いているのですが。無理に聞くのも良い事ではありませんね。では私から一つ提案があるのですが」
「なんだよ」
いきなり何なんだ?
文脈もおかしいし。
それに提案なんて嫌な予感しかしない。
いったいどんな提案が飛んでくるのか。
聞くだけならいいか。
「週に一度学校終わりに私とこうやってデートをしてください」
「それ、俺にメリットなくないか?」
「まあまあ、話は最後まで聞いてください。私に付き合ってもらう代わりに週に二回私が宮野くんに勉強を教えます。悪い話ではないと思いますがいかがでしょう」
「……」
それはありかもしれない。
天城は学年で常に一位の天才だ。
そんな彼女に直接勉強を教えてもらえるのなら勉強効率は格段に上がるかもしれない。
下手な家庭教師を雇うよりも効果的だろうし、そもそも俺に家庭教師を雇う金なんてない。
もしかして、天城は俺の家庭状況まで知ってるのか?
「悩んでいますね。では、週三日でどうでしょうか?」
「乗った!」
背に腹は代えられない。
これもすべてはいい大学に通うため。
天才お嬢様こと天城乃々に勉強を教えてもらえるのであれば条件的にもおつりが出るくらいだ。
「よかったです。じゃあ、詳細はまた今度話し合って決めましょうか。今はここでコーヒーを楽しみましょうか」
天城がそういうと、コーヒーが運ばれてきた。
高い店というだけあってすごく味も良くて落ち着いた雰囲気だった。
俺が普通に生きてきたら経験することができないような店で、少しだけありがたさを覚える。
ネガティブに物事を考えても嫌になるだけだし、ポジティブに考えることにしよう。
今日はおいしいコーヒーをご馳走になって頭のいい家庭教師まで見つけることができた。
良い日だな。
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