第3話 満月
「お父さん!」
和幸が布団の上を走って和磨に飛び付いた。
「遅いよ。」と責める和幸に「悪かった、ごめん、ごめん。」と謝りながら和幸を横向きに抱き抱え、ひゃーひゃー言いながらはしゃぐ和幸を抱えたまま、他の五人に向かっても謝った。
「もっと早く帰るつもりが遅くなった。ごめんな、みんな。」
和磨は謝りながら和幸を降ろすと、「それでいったい今日何をして遊んでたんだ?」と聞いた。
子供達が口々にサッカーやゲーム、花火の話を我先に言うのを聞いていたが、花火の話になると「そうか、もう花火も終わっちゃったのか」と心底残念そうな顔をする。すると子供達がなぜかみんな得意気な顔を見せたので、和磨は思わず笑ってしまった。
そして窮屈そうにスーツの上着を脱ぎベストだけになると、腕捲りをして胡座をかいた。
「それじゃ、今日遊べなかった分、明日は庭で何か面白いことをしようか。」
と提案すると、子供達は一斉に歓声をあげて喜んだ。
その声を聞き付けて和室に顔を出した咲枝が「もう寝る時間だから興奮させないでくださいね」と和磨を嗜めた。
和磨が「そうか、もうそんな時間か。じゃ、全員布団に入って寝る準備だ。」と言うと、全員が不服そうな声を漏らした。
和磨は立ち上がりながら「ちゃんと布団に入ったら、何かお話をしようかと思っているんだけどな...」と言って子供達を煽ると、六人は我先にと各々の寝場所へと移動した。
”雑巾”も他のみんなと同じように布団に入った。
布団にはピンと張ったシーツが敷かれ、ふんわりとした上掛けが足元に畳んで置いてある。
頭を乗せると優しく沈む枕からもタオルと同じ良い匂いがした。
”雑巾”は清潔なシーツがこれほど気持ち良くて、安心するものだと知らなかった。
そもそもシーツはぐしゃぐしゃに縒れているのが当たり前で、こんなにぱりっとした布が張られた布団に寝るのは生まれて初めてだった。
足元の上掛けを引っ張ると、軽やかで重さがないようだった。空の雲を剥がしたらきっとこんな感じかもしれないと”雑巾”は夢想した。
”雑巾”は上掛けを顔まで引き上げて、その清潔な香りを何度も味わった。
和磨は全員が布団に入ったのを見届けて、部屋の明かりを落とした。
庭に面した和室の引き戸は開けられていて、網戸になっている。
縁側の庭に近い辺りが部屋の灯りを消しても月明かりで明るい。
和幸は和室の中央辺りの布団に入っていた。
”雑巾”の布団は和室の入り口に近い端だったので、和幸の場所までの間に風間隼人と清瀬宏がいる。
和磨は和幸の布団の頭に腰を降ろすと「さて、今日はどんな話がいい?」と聞いた。
和幸は布団から半身を出して父親の膝に頭を乗せて
「ぼくはいつでも聞けるから、みんなに何がいいか聞いて。」と答えて頭を撫でられていた。
”雑巾”はその光景が訳もわからず嫌で目を背けた。
彼には父親の記憶がない。父親がどういうものなのか、全く知らないのだ。
だから、ずっと榊原和幸の父親が気になって仕方がない。側に行ってみたくてたまらない。
けれど、出来ない。和幸の布団の隣には清瀬がいる。今日はいつもより”雑巾”に大して意地悪じゃないけれど、和幸や和幸の父親に”雑巾”が近づくのをきっと許さない。
しばらくして、和磨が
「よし、じゃぁ、今日は僕が一番好きな話をしよう。」と切り出した。
なぜ、一番好きなお話をするかというと、大好きなお話だからきちんと覚えているのだと言う。
そして「アラジンと魔法のランプの話は知っているかい?」と聞いた。
部屋の中から「知ってる」「知らない」の声が起きる。
”雑巾”は「知らない」と小声で呟いた。
和磨は一通り子供達の答えを聞いた後、静かな声で語り始めた。
「あれはね、ひとつのお話じゃなくて、実は千と一つのお話の中の一話なんだ。
僕は小さな頃、君たちよりももう少し小さい頃にこのお話を聞いて、いつかこのお話の国
に住んでみたいと憧れていたんだ。
その国は昔、ペルシャという名前で、そこにシャハリヤールという王様がいた。
この王様は辛い出来事がたくさんあって、人を信じることが出来ない人だった。
だから跡継ぎの為に送り込まれる妃も信用できない。
信用できないから、王様の元に妃が来ても、次の日の朝に殺してしまうんだ。
その国の大臣にシェラザードという娘がいた。
この娘はとても賢い娘で大臣は大切にしていたのだけれど、王様の妃として宮廷に行かせ
ないといけなくなる。大臣は王様の元に行けば娘が殺されるとわかっていたから反対した
のだけれど、シェラザードは妹をお供に王様の元へ行くんだ。
実はシェラザードには作戦があった。それは毎晩王様に不思議な物語を聴かせる。
けれど話はその先の続きがあって一晩では終わらない。
「続きはまた次の夜に」
そうやって次の夜もまた次の夜も物語を聴かせた。王様は話の続きが知りたくてシェラザ
ードを殺せない。そうして千と一夜、シェラザードは王様に物語を聴かせたんだ。
アラジンはそのお話の中に出てくる登場人物のひとりで、彼は実はヒーローじゃなくて
泥棒なんだ。
その彼が最初に登場するのが”アラジンと魔法のランプ”なんだよ。」
和磨の話が進むのと同時に月が和室の奥へとその光の足を伸ばす。
この夜は満月だった。
”雑巾”は和磨の声を聞きながら、いろいろな事を思っていた。
榊原和幸と同じシャンプーやボディソープを使い、下着やパジャマを借りて着ている内に彼は自分から榊原和幸の匂いがしているように思えていた。
すると、今までとは違う人間になった気がしてくるのだ。
毎日ここにいられたら、きっともう誰にも嫌われなくなる。
毎日こんなに気持ちの良い場所で眠れたら怖い夢も見ないだろう。
毎日あのオムライスが食べられたら、どんなに幸せだろう。
”雑巾”はいくつも「どんなにいいだろう」を数え上げている内に、殴られてもいないのに胸がぎゅっと苦しくなった。
究極の「どんなにいいだろう」は和磨の存在だった。
”雑巾”はその日まで子供に謝ったり、意見を求める大人を見たことがなかった。
子供の頭を殴るのではなく、撫でる大人を知らなかった。
アラジンと同じ魔法のランプを手に入れたら、3つも願い事はしない。
1つだけでいい。
俺は榊原和幸になりたい。
俺は榊原和幸になりたいんだ!
何度願っても叶うはずなどない。あれはおとぎ話。そんなこと、わかってる。
けれど、和磨の優しくて男らしい声で語られる物語は、なぜか”雑巾”に「強く望めば叶う」と思わせた。
それは彼が生まれて初めて持った明確な欲望であり、唯一の希望だった。
いつの間に眠っていたのだろう。
”雑巾”が目を覚ますと部屋は暗く、一瞬手足を伸ばして寝ている事に怯え、どこにいるのかを思い出すまでに少し時間がかかった。
和磨の姿はもう部屋のどこにもなく、横並びの布団の中で誰もが眠りに落ちていた。
和磨がいないとわかった途端に、”雑巾”は胸の真ん中あたりにぽっかり穴が空いているような気がした。それと同時に和磨の話を聞いていた時の切ない、必死な願いを思い出した。
布団に座って部屋の中央辺りを見ると和幸が見えた。
枕元に花火の時のヨーヨーが置いてある。
”雑巾”はヨーヨーの微かな緑色に惹かれたかの様にふらふらと和幸に近づいた。
布団の脇に座り、和幸の寝顔を見る。
見ている内に体が前のめりになって、和幸の顔に覆い被さった。
そして、和幸の顔をじっと見つめた。ひたすらに見つめた。
俺はもう汚いシーツで眠りたくないんだ。
俺は、いつ殴られるか、蹴られるかとビクビクしたくない。
殴られるのも、蹴られるのも、もう嫌だ。
明日も、明後日もオムライスが食べたい。
もう一度、魔法のランプの話が聞きたい。
榊原のお父さんに頭を撫でて欲しい。
俺は、俺は、榊原和幸になりたいんだ!
”雑巾”は和幸の寝顔を一心に見つめて強く願った。
目からいつしかぽたぽたと涙が落ちた。
次第に涙はどうにも止まらなくなった。
榊原和幸になりたい!お前になりたいんだ!
もうあんな家に、母親のもとに帰りたくない!
俺は、お前になりたいんだ!
”雑巾”はひたすらに願った。
いい匂いがする。
目が覚めて、少しぼうっとしながら匂いを辿って行くと、そこは広いキッチンで咲枝がこちらに背中を向けて立っていた。
咲枝が人の気配に気づいて振り返ると
「あら、早いのね。先にミルクでも飲む?」と聞く。
彼は「うん」と返事をして、カウンターの背の高い椅子によじ登り、ミルクの入ったマグカップを両手で抱えた。
咲枝が何か言っている。彼はなんだかぼうっとしていたので、適当に相づちを打ってミルクを飲み続けた。
マグカップの脇にクッキーが一枚置いてある。
一口噛るとボロボロと割れてパジャマの上にこぼれた。
手でパジャマを払うと、昨日はあったロボットのアップリケがない。
あれ?どこに行ったんだろう?おかしいなぁとパジャマのあちこちを見ると、パジャマの柄が恐竜に変わっていた。
いつ着替えたんだっけ?と不思議に思っていると、背後から「お母さん?」と声がして、子供が走って来た。
子供は走ってシンクの前にいた咲枝に抱きつこうとした。
ところが咲枝は「きゃぁ」と声をあげて驚き、抱きついてきた子供から一瞬体を引いた。
その拍子に子供が尻餅をついて転んだ。
「お母さん?」
尻餅をついて転んだ子供も驚いたような声だった。
咲枝は尻餅をついた子に手をさしのべるでもなく、
「びっくりしたわ」と言いながら子供と距離を置こうと後ずさった。
しかし子供は尚も彼女に近づこうとする。
咲枝は「何?何なの?」と声をあげて、更に子供から離れようとした。
子供のパジャマのズボンの裾が捲ってある。パジャマの上衣の背中の裾にはロボットが行進している絵柄がプリントされていた。
カウンターの彼は(あれ?ロボットのパジャマだ。)と思いながら、二人の様子を椅子に座ったまま見ていた。
不意に子供が振り返って彼を見た。
”雑巾”だった。
カウンターに座っていた彼は驚いた。
ー俺だ。俺が目の前にいる。え?なんで?
と慌てた瞬間、彼はカウンターの椅子から転げ落ちた。
その音を聞いて慌てたのが咲枝だった。
「和君!」と叫ぶと凄い勢いで駆け寄り、彼を抱き起こしながら「大丈夫?どこか打たなかった?」と体のあちこちを触って確かめた。
その様子を”雑巾”が呆然とした表情で見つめている。
”雑巾”も混乱しているようだったが、椅子から落ちた彼もまた混乱していた。
目の前に自分がいる。じゃぁ、俺はいったい誰なんだ?
咲枝がまた彼を「和君」と呼ぶ。
「違う!違う!そうじゃない!」
”雑巾”が大きな声で叫びながら咲枝に近づこうとするが、咲枝は椅子から落ちた彼を庇うように抱き抱えるとくるりと”雑巾”に背を向けた。
咲枝に反対向きに抱き抱えられて、目の前にあったガラス戸に映った姿を見て彼は初めて自分が誰なのかがわかった。
ー俺が榊原和幸になってる。
”雑巾”は忌々しそうにパジャマのロボットのアップリケを引きちぎらんばかりに引っ張って何事かを訴えている。
”雑巾”は、これを着ていたのは自分じゃないと言いたいのだと、咲枝に守られていた彼にはわかっていた。
わかってはいたが、どうすることも出来ない。
パタパタと足音が近づいて来て、和磨と清瀬達がキッチンへと入ってきた。
それを見た”雑巾”が和磨に駆け寄る。
ところが和磨は”雑巾”の顔をした子供を敬遠するかの様に腕を伸ばして肩を押さえ、近づく事を許さない。そして「落ち着きなさい!」と強い口調で”雑巾”を嗜めた。
”雑巾”の顔をした榊原和幸は父親のその様子にひどく傷ついた。
生まれてから今まで、ただの一度もこんな仕打ちを受けたことがない和幸は、何をどうすればいいのかがわからなかった。
どうして母親も父親も僕を拒絶するんだろう?
なぜロボットのパジャマを僕が着ているんだろう?
和幸は自分の着ていたパジャマは、もしかしたら洗濯機の中にあるのかもしれないと思って
風呂場へ走った。そこでドレッサーの鏡に映った顔を見て、我が目を疑った。
なぜ、あの子がここにいるの?
なぜ、僕があの子になっているの?
さっき、お母さんが「和君」って呼んでたのは僕じゃないってこと?
和幸は訳がわからなかった。
とにかく、僕は僕だってことを言わなくちゃ。
和幸はキッチンへ向かって走った。
急いでキッチンに戻ると咲枝と和磨が彼を守るように側にいた。
それを見た途端、和幸は「僕が、僕が和幸だよ、僕が榊原和幸なんだよ!」と叫んでいた。
清瀬が
「こいつ、何言ってんだよ。」と嘲るように言って
「頭がおかしくなったんじゃないの?お前が和君のわけないだろ?」
と”雑巾”の和幸を突き飛ばした。
和磨が「やめなさい!」と間に入ったが、”雑巾”の和幸には近づかない。
和幸はもう本当にどうしたらいいのかがわからなかった。
本当の事を言っているのに頭がおかしいなんて、ひどい!
お母さんもお父さんも僕の事がわからないなんて、ひどい!
和幸は大声で泣き始めた。
和磨が宥めても何を言っても聞く耳を持たず、ひたすら大声で泣き続けた。
”和幸”の”雑巾”はひたすらに沈黙を守った。
今ここで、何か言えばまずいことになるとわかっていたからだ。
でも和幸の泣き声が耐えられない。”和幸”の”雑巾”はしゃがみこんで両手で耳をふさいだが、泣き声は止まない。
その様子を見て和磨はいよいよ手に負えないと判断して”雑巾”の荷物を取りに和室へ向かった。
”雑巾”のリュックサックにはつぶれた菓子パンと古びた服が入っているだけで、連絡先か携帯電話が見つかると思っていた彼はすぐにキッチンへ戻り、咲枝に担任に急いで連絡を取るように伝えた。
和磨は咲枝に替わって和幸の顔をした”雑巾”を抱き寄せ、自分が和幸だと泣き叫ぶ子供を遠巻きに見ていた。
咲枝が担任の田坂に連絡をしてから長い時間が過ぎた気がする。
和磨は時折、自分が和幸だと泣く子供を宥めようとしたが、いつまでも泣き続けるばかりで埒が明かない。
その場にいる誰もがすっかりうんざりしていた。
和磨と咲枝が救急車を要請しようかと相談し始めた頃になって、ようやく田坂が”雑巾”の母親を引きずって榊原の家に到着した。
”和幸”の”雑巾”は咲枝に雑巾の荷物を持って来るように言われて和室へ走った。
走りながら、今見た榊原の家に入って来た自分の母親を思い出して胸がドキドキしていた。
彼は見慣れた自分のリュックサックを手にして少し考えた後で、榊原和幸の枕元にあった緑色のヨーヨーを入れて戻った。
”雑巾”の母親は最初こそ榊原の家に気後れして行儀よくしていたが、和磨と咲枝を「お父さん、お母さん」と呼び続け、「僕が和幸だ」といつまでも泣き叫ぶ子供に腹を立てた。
そしていつも通りに平手で自分の子供の頬を打った。
榊原の家は天井が高く、平手打ちした音はいつもよりも大きな音がした。
その音の大きさに”雑巾”の母親は驚いたが、そこにいた誰もが”雑巾”への平手打ちに慄いた。
けれど”雑巾”の母親は周りの驚愕を気にする様子もなく、少しバツが悪そうにしながらも雑巾の腕を捻り上げて引っ張る。そして下げたかどうかわからない程度に頭を下げて、叩かれて呆けたままの子供を連れて行った。
その様子を見ていた”雑巾”は、ブルブル震えながら手にしたリュックサックを急いで咲枝に渡した。
咲枝はまだ先程の平手打ちにショックを受けていたが、和磨と話をしていた田坂にリュックサックを押し付けるように渡し、急いで和幸の”雑巾”の元に戻った。
そして無言で抱き締めてため息を吐いた。
和幸の”雑巾”は震えながらその咲枝の耳元で「リュックにヨーヨーを入れてあげた。」と囁いた。
咲枝はそれを聞くと「あのヨーヨーをあげたの?きっと喜んでくれるよ。」と彼をぎゅっと抱き締めた。
和幸になった“雑巾”は咲枝に抱きしめられながら、自分の母親が“雑巾”の顔をした和幸を引っ張って行くのを見たが、途中で「この子はうちの子じゃない」と言いながら戻って来る気がして怖かった。
”雑巾”の母親と担任の田坂が帰った後、和磨は残った清瀬達の家に迎えに来るように連絡を入れた。滝口宗介の家だけは都合が付かなかったが清瀬と一緒に帰ることになって決着した。清瀬達が帰るまでの間、榊原の家の中は重苦しい空気に包まれていた。
和幸の”雑巾”はまだパジャマ姿のまま、どこに身を置いていいのかがわからず和室に戻っていた。
和室にはまだ布団がそのまま敷いてある。
シーツはもはやシャンとした張りを失くしていたし、上掛けも昨晩より重く感じる。
”雑巾”は和幸が寝ていた中央の布団に潜り込んだ。
目を閉じると「ぼくが和幸だ」と泣き叫ぶ”雑巾”の姿をした和幸が浮かび、”雑巾”の母親の平手打ちの音が聞こえる。
あの平手打ちが昨日までの彼の日常だったのだ。
けれど今こうして甘い香りが微かに残る布団に包まれていると遠い昔の出来事の様だ。
そして今この時、あの日常に榊原和幸がいる。誰にもそうとは気付かれずに。
和幸になりたいと、確かに願った。願ったけれど、これから俺はどうしたらいいんだろう?
”雑巾”はそう考えると急に怖くなって震えが止まらなかった。
咲枝が和室の布団に包って高熱を出している”雑巾”を見つけたのは夕方だった。
そこから”雑巾”の記憶は飛ぶ。
病院にいた気もするし、知らないベッドで寝ていた様な気もする。
目が覚めているのか、夢をみているのか、曖昧な事もあった。
ただ、気づくと和磨か咲枝が側にいた。
また別の時には臭いシーツと暗闇、そしてだらしなくテレビを見ている”雑巾”の母親がいた。
どちらが夢で、どちらが現実なのかがわからずに混乱してうなされた。
どれくらいの間、そんな状態だったのかはわからない。
すっかり熱が引いて目覚めた時には、日当たりの良い部屋で寝ていた。
ここがどこなのか、何をどうしていいのかもわからず、そのまま寝ていると咲枝が「和君、目が覚めた?熱はどう?何か食べる?」と世話を焼く。
何度も何度も「和君」と呼ばれる内に、俺は本当に榊原和幸になったんだと実感し始めた。
熱が完全に引いて、身体の怠さから解放された頃には、「和君」と呼ばれる事に慣れた。
”雑巾”が”和幸”と呼ばれる事を受け入れて、すっかり起き上がれるようになった頃、その年の夏休みが終わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます