第2章 第1話 「祈らない者たちの居場所」

 異端治療所と呼ばれる場所は、

 建物としては、あまりにみすぼらしかった。


 崩れかけの石壁。

 屋根の修繕も不完全。

 元は倉庫だったらしい。


「……本当に、ここで?」


 最初に声を上げたのは、腕を包帯で吊った男だった。


「文句ある?」


 エルシアは荷物を置きながら答える。


「神殿みたいなの期待してたなら、帰っていいわ」


「いや、そうじゃない……」


 男は苦笑し、視線を逸らした。


「ただ……

 ここには、祈る場所がないなって」


 エルシアは、少しだけ考えた。


「必要?」


「……ないか」


 それで話は終わった。


 


 治療所に集まったのは、

 教会に拒まれた者たちだった。

• 呪いを“罰”とされた少女

• 治療費を払えず見捨てられた老人

• 悪属性に関わったとして追放された元兵士


誰もが、神に嫌われた理由を持っている。


 


「順番に来て」


 エルシアは、名簿を作らない。


 優先順位を決めない。


「来た順よ。

 それ以上の理由は、いらない」


 


 最初の患者は、少女だった。


 体を覆う黒い痣。

 呪いが骨にまで染みている。


「……怖い?」


 少女は、こくりと頷いた。


「でも、

 ここに来たってことは、

 生きたいってことでしょ」


 少女は、泣きながら笑った。


 


 悪属性が、静かに流れる。


 少女は叫んだ。

 歯を食いしばり、涙を流し、それでも――耐えた。


 


 治療が終わった時、

 痣は消えていた。


「……あれ?」


 少女は自分の腕を見つめる。


「神様、いなかった……」


 


 エルシアは、静かに答えた。


「ここには、来ない」


 


 夜。


 治療所の隅で、エルシアは一人、座り込んでいた。


 呼吸が、少し荒い。


 


「……?」


 指先を見る。


 黒い線が、皮膚の下に浮かんでいた。


 血管ではない。

 魔力でもない。


 “否定の痕”。


 


 ――代償は、始まっている。

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