非常に爽快で読後感の良い締めくくり

「婚約破棄もの」「ざまぁ系」の定型を踏まえつつ、音楽というテーマを物語の芯に据えた点がとても魅力的でした。単なる権力逆転や身分暴露の快感に留まらず、「演奏とは何か」「評価とは何か」「本当の尊敬と愛情とは何か」を丁寧に描いているのが印象的です。
まず主人公エリザが非常に好感の持てる人物です。
努力家で責任感が強く、他者を見下さず、負けを素直に認められる。その姿勢があるからこそ、彼女が一時的に挫折し、自己否定に揺れる展開にも強い説得力があります。「教科書通りで個性がない」という言葉が刺さるのも、彼女が真剣に音楽と向き合ってきたからこそで、読者の胸にも痛みとして伝わってきました。
対照的にサイラス殿下の描写は非常に秀逸です。
一見すると溺愛系王子ですが、その実態は「対象を神格化し、所有物として扱う危うさ」を抱えた人物。
崇拝から蔑視へ一気に反転する様は、タイトルの「反転アンチ婚約者」を体現しており、単なる悪役ではなく、歪んだ愛情の怖さを感じさせる存在でした。彼が破滅していく流れも、因果応報として納得感があります。
クリストファー殿下は理想的な対比役です。
才能がありながら驕らず、エリザの努力と姿勢そのものを評価する姿勢が一貫しており、「才能を見る者」と「努力を見る者」の違いが明確に描かれています。
特に「作曲家の心を慮っている演奏こそが個性」という言葉は、本作のテーマを端的に表していて、とても美しい台詞でした。
また、コーリーさんというキャラクターも良い意味で異彩を放っています。
彼女は物語の軸には深く関わらないものの、価値観の違いを象徴する存在として機能しており、世界に奥行きを与えています。メンタルの強さに思わず笑ってしまうのも、本作の緩急として効果的でした。
クライマックスの正体明かしとプロポーズは王道ながら、
音楽モチーフと感情の積み重ねがしっかりしているため、非常に爽快で読後感の良い締めくくりになっています。最後の夕陽の一文も、少し茶目っ気があって印象的でした。
総じて、
「努力を正しく見てくれる人に出会うことの尊さ」
「称賛と尊重はまったく別物であること」
を、エンタメとして非常に上手く昇華した作品だと思います。
音楽×ざまぁ×恋愛のバランスが美しく、安心しておすすめできる良作でした。