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シーン㉝

「学生時代、力を入れたことを教えてください。」

いわゆる「ガクチカ」


学生のことをよく知らない大人が、学生のことを知るために聞いてくる。

知るというのは「力を入れたこと」ではなく、どれだけ言語化して活躍する未来を想像させられるかというテストだ。


「私はボランティア活動に力を入れました。」

このボランティアは善意なのか、就活のためのファッションボランティアなのか。


「私は自作のアプリ作成を行いました。」

IT企業の就活だ。こういう人もいるだろう。


面接を容姿と捉えるならば、有利な人材は2つだ。

美容に力を入れて、素で勝負できるもの。

化粧や服装で取り繕うもの。


この集団面接の最後の志望者は素で勝負できる程のガクチカは持っていない。

しかし、取り繕うことはこのが許さなかった。


「私が学生時代に力を入れたことはへ、

  『写真を撮ること』です。

今しかない瞬間を収め、それを見返して未来への希望にしてきました。」


「ではあなたの今、1番の希望は何ですか?」


「それは、」


就活生、望月颯太は面接を終えるとカバンにしまっていたスマホを取り出して電源をつける。


スマホには連絡が入っていた。

今、颯太にとって1番の希望の連絡。


「手術は成功した。」

陽菜から届いた連絡に安堵する、


よし、次の希望だ。


その次の希望の結果が分かるまで1週間がかかった。

澪が目を覚ました。

颯太は希望の切り札をバックに詰めて、病院に向かう。


病室に入ると、澪の両親の他に陽菜も来ていた。

大輔と彩花は来ていないのか。

この日はクリスマス会に集まった澪以外の4人で来ようと話していた。


35分の時代の4人で。


病室に入ると入口からはベッドの足元しか見えない。

足元の方から回り込みそっとベッドの患者を覗く。


やはり今日も綺麗だ。

初めて会ったあの日からずっと。


「こんにちは。」

患者が話しかけてくる。


その第一声が名前じゃ無かったことに第2の希望の半分の答えは出ていた。

でも諦めたくない颯太は聞いてみることにした。


「こんにちは。僕のこと分かりますか?」

颯太は恐る恐る話しかけた。


「ごめんなさい。」

結果は予想通りだった。


「ちょっと待ってね。少しぼやけてるだけだと思うから。」

その患者の気遣いは嬉しかったが、その気遣いは颯太を傷つけた。

つまりは、にとって、颯太は1番では無かったのだ。


いやドラマじゃないんだ。

そんな気持ちの大きさが大事じゃないなんてことは分かってる。

それでも颯太は苦しんでいた。


「渡したいものがあって」

苦し紛れだった。

 

これを渡すシミュレーションはしていた。

思い出のあの場所で、告白しながら渡すなんてドラマチックな展開も想像していた。

しかし、今の颯太にそんな心の余裕はなかった。


35分の記念日。

そう表紙に書かれたものはアルバムだった。


今まで颯太と彼女の2人での思い出がそこには詰まっていた。

もしかしたら、これで思い出してくれるかもしれない。

アルバムを作る時に捨てた希望が再燃する。

その希望はすぐに火を消した。


「もしかして私たちは恋人だったんですか?」

さっきまでのタメ口は消えて、急に他人行儀になる。


「いえ違いますよ!たまに2人です遊ぶくらいの仲です!」


ここで彼女に気を遣うなら、タメ口で言って友達と思わせるのが正解だろう。

でも颯太には余裕が無い。

先程よりもあきらかに。


「これで元気が出てくれればと思ったんだけど、やっぱ急にはキツいよね。」

即座にタメ口に戻してみるが、違和感しかない。


その雰囲気に耐えられず、颯太はそのまま

「笹川澪 様」と書かれた病室を後にした。


颯太が出たあとの病室では、澪がアルバムを眺めていた。

澪の父親の無理することは無いという言葉が耳に入る隙すらないくらいに真剣に。

 

陽菜、大輔、彩花の3人は何も言えなかった。

颯太が諦めた以上、見てとも言えず。

でもそれ以上にもう見ないでとも言いたくなかった。

このアルバムに乗っている気持ちを彼女たちは知っていたから。


「あ、陽菜ちゃんだ!」

アルバムに陽菜を見つける。

澪の記憶は記憶障害を受けた時、つまりは中学の頃にリセットされている。

呼び方もその頃のものに戻った。


「大輔くんに彩花ちゃん!」

次々に友達の写真を見つけては喜ぶ。


そして質問した「彼の名前は?」

彼が誰をさしているのかはすぐに分かった。

「颯太!」

3人は息を揃えて答える。


「望月颯太くん」

最後に陽菜が代表として答える。


「そうか、颯太くんか。

 このアルバム颯太くんの写真が全然ないね。」

「彼が撮ってたからね。」

「だとしたらあの人、嘘ついたよね。」


さっきとは打って変わって沈黙が走る。

この嘘がなんのことを指しているか分からないからだ。


「思い出さなくても分かる。多分この顔はただの友達に向けた顔じゃないってこと。」

澪はそう言うと、自分自身の写真を見つめていた。

 

手術後、澪は入院しながらリハビリを続けた。記憶能力は順調に戻り、前日の記憶をしっかりと引き継いでいけるようになっていた。


俺は、何度でもやり直せばいいと、病室で二人になったときに、再び告白した。


「澪さん、俺と、もう一度やり直しませんか?」


しかし、澪は、困ったように首を横に振った。


「…ごめんなさい」


俺は、何度でも告白すると言ったが、それでも彼女の返事は同じだった。

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