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シーン㉚
「望月。」
新年始まって初の登校日。
そんな日に呼び出しがかかるなんて、冬休みの粗相しかないだろう。
「なんですか?」
颯太はビクビクしながら、一ノ瀬に答える。
「冬休み、笹川さんの様子はどうだった?」
「え?」
颯太は思考を回した。
今、颯太と澪の間で何かあるかと言われたら何も無い。
しかし、颯太から澪に対してやましいことがあるとすれば
陽菜とのキスだ。
もしかして澪に見られた?
その上で一ノ瀬に相談した?
だとしたら「様子はどうだった?」という聞き方は変だ。
いや一ノ瀬のことだ。
遠回しに聞き出そうとしているのかもしれない。
「特に何も無いですよ。」
颯太は頭で考えていることを悟られないように、平然を装った。
その颯太の言葉からか、態度からか。
一ノ瀬は何かを感じ取ったように続けた。
「望月、何も聞いてないのか?」
颯太の中で疑念が確信に変わった。
間違いなく「キス」の件だ。
澪から俺に対して、一ノ瀬に言うことがあるとすればそれしかない。
颯太は大人しく白状しようと思ったが、今の質問の回答として、白状はおかしい。
「特に何も聞いてないです。」
「今日、バイトか?」
「はい。」
「なら放課後に立ち寄る。そこで話そう。」
教室での会話はそこで終わった。
このやりとりが何かの対決なら颯太の敗北だ。
颯太は勝手に敗北感を味わっていた。
放課後、バイトが始まってから一ノ瀬に対して、
いや澪に対しての言い訳を考える。
ちょうど言い訳を考えついた頃に、一ノ瀬が来店する。
しかし、颯太のこの苦労は徒労に終わることになる。
「さて、望月。話をする前に前の宿題の答えを聞こうか。」
一ノ瀬から出された宿題。
「なぜ愛が憎しみに変わってしまうのか。」
一応の答えは出ていた。
しかし、自信がなかった。
正解の自信ではない。
自分がこの答えで間違いじゃないという自信。
「愛の方向が同じじゃなかったから。」
「本当にその答えでいいのか?」
さすがはカウンセラーだ。
颯太の自身のなさをすぐに感じ取った。
いや、カウンセラーでなくとも分かるくらいに自信のなさが声になっていたのかもしれない。
「笹川さんの手術の目処がたった。ほぼ100%の確率で記憶障害は解消される。」
クリスマス会の後日、俺は澪の病室を訪れた。すると、俺の隣に座っていた一ノ瀬先生が、俺に話しかけてきた。
「…澪さんの様子が、おかしくないか?」
一ノ瀬先生の言葉に、俺はビクッとなる。しかし、先生の言葉は、陽菜のキスを目撃したことについてではなかった。
「澪さんの記憶の病気が、治るかもしれないらしい」
俺は、一ノ瀬先生の言葉に驚きを隠せない。
「…治っても、今までの記憶が、全て消える可能性がある」
一ノ瀬先生は、重い口調でそう告げた。
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