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シーン⑮
店を締めて片付けているとマスターが戻ってきた。
買い出しにしては少し遅い気がする。
颯太の予想は当たり、マスターが帰ってくるなり
「颯太くん、今日はもう上がっていいよ。」
と告げてきた。
颯太も疲れていたし、お言葉に甘えて上がろうとしたらマスターが付け加えた。
「帰りに海辺の道を通って帰りなさい。
まだ待ってると思うよ。」
誰が、何のために。
その答えは颯太の中ではすぐに出た。
颯太はエプロンを大輔に託し、すぐに店をあとにしようとした。
マスターから鞄を忘れていると指摘を受けて、鞄を取ってから店を出た。
それくらい颯太は夢中だった。
マスターは颯太を見届けると、次に大輔に目をやった。
大輔は寂しそうな表情でエプロンを眺めていた。
「青春だね〜。」
マスターは若者たちのドラマを1人楽しんでいた。
バイトを終え、家に帰ろうとすると、マスターが俺を呼び止めた。
「望月、今日、お前が連れてきた女の子が、水族館近くの海辺に座っていたぞ」
その言葉に、俺はすぐに駆け出した。大輔の言葉で揺らいでいた気持ちが、澪の言葉で吹き飛んだ。
「青春だねえ」
マスターが、俺の背中に向かって呟いた。その言葉に、俺は少しだけ照れながらも、走り続けた。
海の見える場所にたどり着くと、そこに澪が座っていた。俺は、彼女の隣に黙って座った。しばらく、二人は何も話さなかった。ただ、波の音を聞きながら、海を眺めていた。
すると、一匹の魚が、海面から跳ね上がった。
「うふふふ」
澪が、楽しそうに笑う。その笑顔は、俺の心を温かくしてくれた。
「…ところで、颯太くん。何か、私に言うことはないかい?」
澪は、俺の顔を覗き込むようにして言った。
「…約束、すっぽかして、すみませんでした」
俺がそう言うと、澪は首を傾げた。
「約束は、守ってくれたじゃん。…水族館、一緒に見れた!」
そう言って、彼女は先ほど魚が跳ねた場所を指差した。
その瞬間、俺は澪にとって、記憶に残ることよりも、水族館に行くという約束よりも、誰かと大切な時間を過ごすことが、何よりも大切なんだ、ということに気づいた。
「じゃあ、俺が言わなきゃいけないことって…」
「もう私と会いたくないって、はっきり言いたまえ!」
俺は、そんなわけがない、と告げた。しかし、澪は「会わない方がいい」と言い、俺は「会いたい」と返した。
そうやって問答を繰り返していると、また一匹、魚が跳ねた。二人は、それを見て、笑った。
その日、俺たちは、何時間も二人で海辺に座り、ただただ魚が跳ねるのを待っていた。
そして、その日の帰り道、澪は言った。
「…私、今日のこと、覚えてるよ」
俺の心は、歓喜で満たされた。記憶が定着した。それが嬉しくて、俺は再び彼女に告白した。
「今度は、覚えられるまで、毎日でも告白する。…水族館じゃなくていいし、毎日じゃなくてもいいから」
俺がそう言うと、澪は少しだけ照れくさそうに微笑み、俺の告白を承諾してくれた。
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