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シーン⑭

「カフェ・ドゥ・ソレイユ」の仕事で一番大事なことは

届けることだとマスターに言われたことがある。


届けるとはコーヒーであり、料理であり

そして想い。


「楽しい時間を過ごしてください。」

そういう想いを届けると、お客さんはもう一度このお店に足を運んでくれる。


想いが記憶に残るからだ。


じゃあどれだけ届けても、記憶に残らなかったら?


颯太はバイトをしながら澪のことを考えていた。

断ったデート。

颯太からすると何十回のうちの一回。

でも澪にとっては記憶に残る一回だったかもしれない。


これまでこのお店でたくさんの想いを届けてきた。

笑顔になってくれる人を見て、心が満たされた時もあった。


でも澪の笑顔は違う。

痛かった。

胸のあたりがキュッとなって、心臓の音が身体中から響き渡る。


気になって厨房に行くたびにスマホを見る。

特に連絡はなかった。

心ここに在らずとはこの事だろう。

颯太はそう思って、そっとスマホをポケットにしまう。


閉店前になると、マスターが明日の買い出しをしたいとの事で店を1人で任された。


マスターと入れ替わるかのように大輔が来た。

大輔は駅前のチョコレートを買ってきてくれた。


お礼の品なのか、お詫びの品なのかは分からない。

大輔も「ありがとう、ごめんな。」と言っていたし。


この「ごめんな。」はバイトを代わってもらったことに対してなのか、電話で言ったことに対してなのかは分からない。


マスターも出ているからと大輔は無給で手伝ってくれた。






同じ頃、水族館近くの海辺に、一人座っている澪がいた。そこに、「カフェ・ドゥ・ソレイユ」のマスターが、偶然通りかかった。マスターは、俺が買い出しに行く途中で、澪がそこにいるのを見て、声をかけた。


「…よう、颯太が連れてきた女の子。こんなところで何してるんだ?」


マスターは、俺の彼女だと勘違いしているようだった。澪は、マスターが差し出したコーヒーを受け取ると、少しだけ微笑んで言った。


「…あの人、今日はバイトがあるから、水族館に来てくれないんですって」


マスターは、俺がシフトを代わってほしいと言われたのを、仕方なく断ったことを告げようとした。しかし、その言葉を遮るように、澪は言った。


「でも、あの人、裏切ったりなんかしない。…私、彼のことは全然覚えてないけど、日記に書いてある彼は、すごく誠実で、とても優しい人だって、書いてあるんです」


その言葉に、マスターは何も言えなかった。そして、すぐにでも俺にこのことを伝えようと、その場を去った。

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